Focal Length
今回のテーマは「距離感と深さとは」。
世界と自分との距離感
物理的な焦点距離
意識的な焦点距離
人との距離感
そして、時間
表現をする上で、人は意識的にも無意識的にも、常に世界との距離を測っている。
近づくのか
離れるのか
どこまで踏み込むのか
どこで俯瞰するのか
そのわずかな違いが積み重なり、やがてその人の個性となり、表現の違いとして現れてくる。
写真でも、演技でも、言葉でも、世界をどう見るかは、どこから見るかによって変わる。
焦点距離が変われば、同じ景色でもまったく違うものになるように。
4月29日から5月6日。
新国立劇場 小劇場で上演される舞台『春琴抄』に出演することになり、今、日々言葉と向き合っている。
同じ言葉でも、その時代背景や、その人が生きてきた環境、過去の経験によって、まったく違う解釈が生まれる。
言葉そのものが変わるわけではない。
それを受け取る「距離」と「深さ」が変わるのだと思う。
稽古がスタートし、最初に行われるのが本読みだ。
出演者それぞれが台本の解釈をすり合わせていく。
その言葉の意味
登場人物の感情
そして演出家の意図
それらを少しずつ自分の中に取り込んでいく作業。
言い換えれば、みんなで一つの本との距離感を揃えていく作業でもある。
しかし不思議なことに、完全に同じ距離になることはない。
同じテーブルに座り、
同じ台本を読み、
同じ言葉を口にしていても、
人はそれぞれ、
違う深さでその言葉を見ている。
距離感と、その物事を理解しようとする深さ。
この二つが複雑に入り組むことで、表現は立体的になっていく。
遠くから見ることで見える全体
近づくことで見える細部
俯瞰と没入
客観と主観との行き来の中で、ようやく一つの表現が立ち上がる。
そしてきっと観客もまた、それぞれの距離でその物語を受け取る。
舞台と客席との距離
登場人物との心理的距離
その人自身の人生との距離
同じ舞台を観ても、まったく違う物語として心に残るのは、そのためなのかもしれない。
表現とは、世界との距離を探り続けること。
そして、その距離の違いを面白がることなのだと思う。
今回、この文章の中に説明もなく写真を差し込んだ。
そこに写っているのは、今回『春琴抄』で佐助を演じる、小栗基裕(s**t kingz)さん。
本読みを終え、ミザンスの稽古が終わったあとに撮影させてもらった。
ミザンスとは、演劇において舞台上の役者の立ち位置や動線のこと。
あえて説明を入れずに写真を置いたのは、読んでくださる皆さんに、そのまま感じてほしかったから。
舞台が終わったあとに撮影していれば、また違う写真を撮っていたと思う。
この写真は、
今、僕から見えている小栗さんの姿。
ぜひ劇場で、動く佐助を感じてほしい。
この物語から生まれるエネルギーに触れてほしい。
そして、皆さんが感じたことを、ぜひ教えてください。
劇場でお待ちしております。
プロフィール
古屋呂敏
俳優・フォトグラファー 1990年、京都生まれ滋賀/ハワイ育ち。2016年より独学でカメラを始める。Nikon Zfを愛用。父はハワイ島出身の日系アメリカ人、母は日本人。MBS/TBS「恋をするなら二度目が上等」(2024年)などに出演。俳優のみならず、フォトグラファー、映像クリエイターROBIN FURUYAとしても活動。2022年には初の写真展「reflection(リフレクション)」、2023年9月には第2回写真展「LoveWind」、2025年6月、ニコンプラザ東京 THE GALLERY、2025年7月、ニコンプラザ大阪 THE GALLERYにて、写真展「MY FOCAL LENGTH」を開催。写真集に『MY FOCAL LENGTH』(ミツバチワークス)がある。