Focal Length
今回のテーマは「日常と非日常」の距離感。
5月の頭から公演の舞台『春琴抄』が終わり、何年かぶりに連続した休みを取ることができた。
役者、そしてフォトグラファーという仕事は、自分が意識的に休みを取らなければ、いくらでも働き続けることができる仕事。
だからこそ舞台の終わりという節目に、インプットの時間を作りたいと思った。
選んだのは一人旅。
僕にとって一人の時間は、単に休息するための時間ではない。
立ち止まり、自分自身と向き合い、今何を感じているのか、何を求めているのかを確かめるための時間。
日常から少し距離を置くことで、普段は見えていなかったものが見えてくる。
今回訪れた場所はベトナム・ホイアン。
世界遺産に登録され、夜には無数のランタンが灯る美しい街並み。
多くの人にとっては観光地として知られている場所だが、僕が興味を惹かれたのはその奥にある「誰かの日常」だった。
ここに住む人たちにとっては、毎朝市場へ向かうことも、川沿いを歩くことも、店先で会話を交わすことも当たり前の日常だ。
けれど、その風景は僕にとって紛れもない非日常だった。
その事実が面白い。
自分にとって特別なものが、誰かにとっては当たり前であり、自分の日常もまた、世界のどこかの誰かにとっては非日常なのだと思う。
観光客の姿がほとんどない小さな市場へ足を運んだ。
そこにはSNSには載らない空気が流れていた。
顔見知り同士が言葉を交わし、商品を並べ、笑い合う。
効率やスピードでは測れない、人と人との距離感がそこにはあった。
同じ時間が流れているはずなのに、その場所だけ別の時間軸が存在しているようにも感じた。
写真を撮るという行為は、時にただ景色を記録することではない。
その土地に流れる時間や温度、人々の営みを感じ取り、自分なりに解釈することだと思っている。
だから僕は旅に出ると有名な観光地よりも、誰かの日常が息づく場所にレンズを向けたくなる。
そこには演出されていない美しさがある。
役者という仕事も、写真家という仕事も、本質的には似ているのかもしれない。
どちらも人を観察し、人を理解しようとする行為だからだ。
旅先で出会う風景や人々は、自分とは違う人生を見せてくれる。
そしてその違いに触れることで、自分自身の日常を改めて見つめ直すことができる。
非日常を求めて旅に出たはずなのに、最後には日常の大切さに気付かされる。
その繰り返しが、僕にとって旅をする理由なのかもしれない。
写真は特別な瞬間を残すためのものだと思われがちだけれど、時にはむしろ何気ない日常の中にある美しさを残したい。
なぜなら人生のほとんどは日常でできているからだ。
旅をしながら感じたのは、日常と非日常は決して遠く離れたものではなく、ほんの少し視点を変えるだけで入れ替わる存在だということ。
誰かの日常の中にある、誰かにとっての非日常を探しながら。
プロフィール
古屋呂敏
俳優・フォトグラファー 1990年、京都生まれ滋賀/ハワイ育ち。2016年より独学でカメラを始める。Nikon Zf、Z8を愛用。父はハワイ島出身の日系アメリカ人、母は日本人。MBS/TBS「恋をするなら二度目が上等」(2024年)などに出演。俳優のみならず、フォトグラファー、映像クリエイターROBIN FURUYAとしても活動。2022年には初の写真展「reflection(リフレクション)」、2023年9月には第2回写真展「LoveWind」、2025年6月、ニコンプラザ東京 THE GALLERY、2025年7月、ニコンプラザ大阪 THE GALLERYにて、写真展「MY FOCAL LENGTH」を開催。写真集に『MY FOCAL LENGTH』(ミツバチワークス)がある。