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【撮影と表現のQ&A】キツネツキ/Q.サイバーパンク写真って、何ですか?

さまざまな写真家、フォトグラファー、クリエイターが登場するQ&A企画。
「知ることは次の扉を開くこと」。
今回は、フィクションのような近未来的情景を現実世界で表現する映像作家/フォトグラファー、キツネツキさんに質問です。

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キツネツキ

映像作家/フォトグラファー 1987年生まれ、兵庫県出身。さまざまなMVやPVなどを制作する傍ら、サイバーパンク的な風景写真をSNSで発信。Disney、Pixar映画『私ときどきレッサーパンダ』のリファレンス画像への選出や、佐藤航陽著『世界2.0メタバースの歩き方と創り方』の表紙画像に起用されるなど注目を集めている。
愛用カメラ:Sony α7S II
愛用レンズ:ZEISS Planar T* 1,4/50、SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN、 TTArtisan 11mm f/2.8 Fisheye

キツネツキ Instagram

Q.サイバーパンク写真って、何ですか?

A.近未来を舞台としたSF作品の世界観を、現実世界で撮影したもの

撮影機材:Sony α 7S II × ZEISS Planar T* 1,4/50

「香港のモンスターマンションという名前で有名な、益昌大廈(Yick Cheong Building)。この時の香港旅行の様子は写真集『路地裏somewhere in HK』 に掲載」。https://amzn.asia/d/hnTljHp

「まず、“サイバーパンク”とは、映画『ブレードランナー』を筆頭とした近未来を舞台としたSF作品に分類されるジャンルです。『攻殻機動隊』や『AKIRA』、『マトリックス』など、科学技術が発展しすぎたがゆえにディストピア的な世界となってしまった近未来のイメージです。サイバーパンク写真とは、現実世界をサイバーパンク的な世界観に見えるように撮られた写真作品です。僕は、サイバーパンク写真には 1.夜 2.建築物 3.特異な人物 4.ネオンサイン 5.雨 6.アジア 7.合成 8.昼 という8つのテーマ・モチーフがあると定義しています。それらを写し取った写真に色加工を施すことで、近未来的な質感を得られると考えています」。

現実の延長線上や、アップデートされた風景を意識している

撮影機材:Sony α 7S II × ZEISS Planar T* 1,4/50

「『ブレードランナー』のリドリー・スコット監督も多大な影響を受けたと言われる新宿・歌舞伎町。被写体はVRアーティストのせきぐちあいみさんで、衣裳はののやまあきさんのブランド」。

「色加工については、現実では見ることができない極彩色な写真がサイバーパンク写真と表現されることが多いのですが、この定義だけではナイトストリートフォトと変わらないので、僕はプラスして、ホワイトバランスのズレを意識しています。写真の中で、現実の色に近い部分が一箇所でも存在はするが、画面全体を見ると、現実から逸脱した色彩感になっているというものです。現実の延長線上にある風景、アップデートされた風景を意識しています」。

撮影機材:Sony α 7S II × ZEISS Planar T* 1,4/50

「映画『恋する惑星』の舞台となった香港・重慶大厦にほど近い場所。『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の背景のリファンスにも当時の香港の風景が使われ、ゴミ収集車が重要な要素になっています」。

“I want to create a world like no one has ever seen.”誰も見たことのない世界を創りたい

撮影機材:Sony α 7S II × Canon EF 16-35mm F2.8L

「緊急事態宣言下の2020年5/1。この一年前の2019年5/1は平成から令和に変わることで、多くの人でごった返していました。偶然やって来た赤い服の女性がぽつんと立っている様子が、たった一年で世界が様変わりした状況を象徴しています。星が降るイメージは合成」。

「魅力的なサイバーパンク写真を撮るためには、日常に疑問を持つことが必要。映画『マトリックス』を見終わった時、自分が見ている世界は本物なのだろうかと自問自答しました。当たり前に見えている世界。でも、人それぞれ見えている世界は違う。ならば自分が見たい世界を表現するのも一つの正解ではないか。僕にはこう見えている、と言い切ることができる写真が、魅力的なサイバーパンク写真だと思います。ハリウッド映画が大好きなので、僕の作品は『マトリックス』や『ブレードランナー 2049』などが源流だと感じることが多いです。極彩色の中でも偏りのある色使いが特徴的なそれらの作品のように、僕の写真も“キツネツキブルー”と言われるような、自分らしい色使いを大切にしています。僕が創作を始めた時から掲げている言葉が、“I want to create a world like no one has ever seen.”。誰も見たことのない世界を創りたい。それを可能にしてくれるのが、サイバーパンク写真です」。

写真編集で絶妙な彩度を追求

撮影機材:Sony α 7S II × SIGMA APO 50-500mm F4.5-6.3

「新宿一帯の大きく立ち並んだビル群とその周りの民家が共存している様子は、まさにサイバーパンク的な世界ではないでしょうか」。

「極彩色が印象的なサイバーパンク写真ですが、彩度が高くなると色が破綻して汚く見えてしまうことも。なので、やりすぎないレベルで彩度を上げます。ある一つの色に偏ると画面全体がのっぺりしてしまうので、なるべくさまざまな色が出るように現像します。工程としては、まずキャリブレーションという項目で色情報がズレた状態を作り、そこからホワイトバランスや補正を使って正常な色彩感に戻すよう全体を調整します。一度ズレたものを元に戻そうとしても、完全に戻ることはありません。その戻っていない違和感が、サイバーパンク写真にとって重要な要素だと感じています」。

GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】キツネツキ/Q.サイバーパンク写真って、何ですか?
Edit:Satoko Takeda

GENIC vol.67

7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」。表現において、“感覚”は大切。“自己流”も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
GENIC初のQ&A特集、写真家と表現者が答える81問、完全保存版です。

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