Focal Length
今回のテーマは「『曖昧と明瞭』の距離」。
写真を撮っていると思うことがある。
曖昧と明瞭。
シャッターを押す瞬間、自分はどちらを見たいのだろうと。
明瞭さには、見る人が逃げられない美しさがある。
真っ直ぐに向けられたまなざしには力が宿り、肌の質感や、髪の一本までもが物語になる。
けれど、曖昧には違った魅力がある。
すべてをはっきり写したからといって、それが真実だとは限らない。
むしろ、少しぼやけた瞬間のほうが、心に眠る何かを表現できることがある。
人間の記憶や感情はいつも曖昧。
昨日の空の色も、誰かの笑顔も、時間とともに形を変えていく。
でも、その曖昧さの中にこそ、確かに感情が残っている。
写真も同じだと思う。
光が滲み、影が混ざり、焦点が少し外れることで、“完璧ではない美しさ”が生まれる。
曖昧さとは、不完全さではなく余白。
見る人が想像で埋めることのできる、心のスペース。
明瞭さが現実を見せるなら、曖昧さは記憶や感情を見せてくれる。
そして、その二つのあいだに写真の真実がある気がする。
気がするという表現をするのは、そこに正解もなく、僕自身それが正しいのかもわからないから。
明瞭すぎても、曖昧すぎても、本質から遠ざかる。
人の心も、常にその中間を揺れながら存在している。
僕はその揺らぎを追いかけているのかもしれない。
見えるものと見えないもの、
確かなものと儚いもの、
そのちょうど中間に漂う一瞬を、レンズで。
ピントを合わせすぎないことで見つけようとしているのかもしれない。
それが、僕にとっての「曖昧と明瞭」の距離。
Thank you Riho Takada
- MODEL:Riho Takada
プロフィール
古屋呂敏
俳優・フォトグラファー 1990年、京都生まれ滋賀/ハワイ育ち。2016年より独学でカメラを始める。NikonZfを愛用。父はハワイ島出身の日系アメリカ人、母は日本人。MBS/TBS「恋をするなら二度目が上等」(2024年)などに出演。俳優のみならず、フォトグラファー、映像クリエイターROBIN FURUYAとしても活動。2022年には初の写真展「reflection(リフレクション)」、2023年9月には第2回写真展「LoveWind」、2025年6月、ニコンプラザ東京 THE GALLERY、2025年7月、ニコンプラザ大阪 THE GALLERYにて、写真展「MY FOCAL LENGTH」を開催。