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撮ること(わたし)を“受け入れてもらっている”という喜びとともに 平野愛 | 連載 PHOTOGRAPHY IS LIFE. 私が写真を好きな理由

写真を仕事にした今も、根底にあるのは写真が好きだという想い。だからこそ、ここまで続けてきた。写真とは自身にとって何であるのか、なぜこうも惹かれてしまうのか。6名の写真家に、“好き”の奥に秘められた理由を伺いました。全6回の連載、第2回は「写真は微笑む時間」、写真家の平野愛さんです。

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プロフィール

平野愛

写真家 大学在学中の2000年より、ダンス・パフォーミングアーツジャンルの写真家としてキャリアをスタート。2008年、フォトカンパニー「写真とプリント社」(現在・写真と色々)を大阪にて共同設立。今年2月、映画『港に灯がともる』公式記録として神戸での撮影に1カ月密着して残した街と人々の風景をまとめた写真集『LIGHTS』(ミナトブックス)をリリース。他、引っ越しに密着した写真集『moving days』(誠光社)、写真担当書籍に『恥ずかしい料理』(誠光社)など。ドラマや映画でのスチール担当として活躍するほか、「住まい」「暮らし」「人」を軸に撮影から執筆まで幅広く手がけている。
愛用カメラ:PENTAX 645N、PENTAX 645N II、FUJIFILM KLASSE S
愛用レンズ:SMC PENTAX-A645 45mm F2.8、SMC PENTAX-FA645 75mm F2.8

撮ること(わたし)を“受け入れてもらっている”という喜びとともに

家族3人、そおっと真冬のニューヨークに旅立った。久しぶりに、自由に“ああいいな”と思った時に撮っていた── (waiting days)

©「waiting days」(2024)
「この写真は、郊外にある美術館で撮りました。彼の頭の中には言葉に出せない無数の言葉が飛び交っている。言いたい言葉、言えない言葉...すごく疲れるんです。でもこの日の彼の日記には、『吃音から離れられた』と書かれていて、この一枚はまさにその瞬間。とても幸せそうに見えました」。

『waiting days』は、ニューヨークで撮影した、平野さんにとって初めて極私的な家族の物語を紡いだ個展。息子さんは、言葉がうまく出てこないという悩みを抱えている。日常に疲れ、学校も行けなくなったとき、母として「動くことや変化することを休んで、少し立ち止まって待ってみよう」と、家族3人で旅立った先がニューヨークだった。

©「waiting days」(2024)
「展示のメインビジュアルにした作品です。マンハッタンのホテルの一室で、夫とコインランドリーに行く瞬間に撮った、『留守番しとくよ』と部屋に残る息子の後ろ姿。気が抜けた感じがすごくいいな、私はこういう姿が見たかったんだなと思って、シャッターを切りました。それは、いつもの仕事の撮影でも同じです。相手の方はできる限りこちらを気にせずそこにいてくれたらよくて、激しい表情は求めていません。無理をしていない姿や瞬間に、ものすごく惹かれます」。

©「waiting days」(2024)
「マンハッタンから電車で約90分の郊外にある美術館『Dia:Beacon』で撮った一枚。ここは私がすごく行きたかった場所。庭もランドスケープアートになっていて、息子に立ってもらいました。ニューヨークでは、仕事から離れてただただ“いいな”と思った瞬間にシャッターを切っていました。写真集にしたり個展にしたりということは全然考えていなかったけれど、ここからホテルに戻る鉄道の車中で、夕暮れのハドソン川を見ながらふと、『今回の写真をまとめたいな』と思ったのを覚えています」。

内向的だった自分が社交的になれたのは、写真と出会ったから。撮影しているときの自分は、ほとんどいつも笑っている

©「waiting days」(2024)
「セントラルパークに冬季限定のアイススケートリンクがオープンしていました。そこから流れてくる音楽を聴いている、息子と夫の後ろ姿。息子がこの写真を気に入ってくれて、スマートフォンの待ち受けにしてくれていました。学生のときに初めて人を撮影して、撮った写真を渡して喜んでもらったときの感覚がよみがえりました。あのときと同じで、うれしい気持ちがあふれてドキドキしました」。

©「waiting days」(2024)
「ニューヨークから帰国する日の朝6時半くらい、空港に向かうバス停で撮った一枚。日本では見られないような強烈な朝日が差していて、私たち家族を照らすその光に、がんばれ~って言われているような気がしました。逆光や夕日によって生まれる情緒がすごく好きで、シャッターを切りたくなります」。

鮮明に覚えている感動、たった一枚の写真から

丸眼鏡にベレー帽、雪駄を履いて、首からはクラシカルなフィルムカメラを提げている。当時18歳、芸術大学に入学して5日目、平野愛さんはキャンパスを歩く男性が放つその佇まいに目を奪われた。凝視する平野さんに気づいたその男性が声をかけてくれたことがきっかけで、平野さんもフィルムカメラを買い、翌月には共に写真部を立ち上げる。写真と共に生きる人生が始まった。「もともと人見知りで、10代の頃はとくにその傾向が強く、最初は部屋で独りりんごを撮ったりしていました。それから少しずつ人を撮ってみたいと思うようになって、緊張しながらも幼馴染を撮らせてもらいました。現像が上がって写真を見ると、その中に一枚、それまでずっと目では追い切れていなかった本当にいい表情が写っていたんです。『何だこれは!』ってすごく感動して、相手にその写真を渡すとすごくうれしそうにもしてくれて。誰かを撮って、自信を持って見せることの喜びを知り、その瞬間から写真が好きになっていったように思います」。それから今日までの28年、写真を撮り続け、好きの気持ちにブレはない。
「撮っているときも、現像が上がるまでのドキドキも、写真を渡して喜んでもらう瞬間も、全部好き」だと平野さん。そのなかでも格別なのが、撮影中。「撮っているとき、自分はほとんど笑っています。嬉しいな、楽しいなという気持ちが伝わっているのか、被写体となる方々も一緒に微笑んでくれていることが多い。撮ることを、私自身を受け入れてもらっているように感じられて、すごく幸せな気持ちになります。人見知りだった私が、今では誰かを撮ったり、チームになってみんなで何かを達成していったりすることを、心から楽しいと感じるようになっている。写真は、それくらい自分を変えてくれました」。

ニューヨークはひとつのチャレンジだった。帰国して、“新しいことをしてみよう”とまとめ上げた写真集──(LIGHTS)

©「LIGHTS」(2025)
「今年2月にリリースした写真集『LIGHTS』は、映画『港に灯がともる』の制作現場に約1カ月密着して撮影しました。劇中写真ではなくビハインドの記録をまとめています。プロデューサーから話があがったとき、追いかけて撮るという経験がそれまでなかったのですが、役者の切り替わる瞬間、日常と非日常みたいなものにずっと興味があったので、撮ってみたいと思いました。ニューヨークから帰国した翌月から撮影が始まったのですが、まさに写真が好きだからこそできた、ライフワークのような試みでした。この一枚はお気に入り。主演の富田望生さんだけがカメラを見ていて、他の人は誰もこちらを気にしていない。温かくて、すごくいい瞬間に感じられました」。

©「LIGHTS」(2025)
「成人式のお祝いにみんなで食べようと買ってきたけれど、家族が喧嘩を始めてしまって食べられなかったケーキを灯(富田望生)が独りで見つめている場面。演出だけどリアルのように感じられて、撮影に入る直前、咄嗟に撮った一枚です」。

©「LIGHTS」(2025)
「神戸にある団地の一室。灯たちが暮らす復興住宅として、空き家を美術さんがゼロからセットしているのですが、リアルな生活感がありました。そこに人はいないのだけれど、人を感じる。物が家族を見守る“人たち”に見えてきて、レンズを向けました」。

GENIC vol.75 【PHOTOGRAPHY IS LIFE. 私が写真を好きな理由】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.75

2025年7月号のテーマは「I love photography ただ、写真が好きで」。

写真は移ろいゆく季節に目を向けることを教えてくれた。
写真は心の奥にしまい込んでいた自分の感情に気づかせてくれた。
写真は自分らしく生きていいよと励ましてくれた。
写真はかけがえのない仲間と巡り会わせてくれた。
写真は素晴らしい世界の見方を示してくれた。

写真から、たくさんのものをもらってきた。
だから、好きな理由はひとつじゃない。

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