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写真がくれる幸せな人生 市橋織江

光や色彩を独自の目線で捉え、フィルムカメラで繊細に映し出す写真家、市橋織江さん。世の中すべてが被写体で、目にするものを無意識のうちに切り取っているという市橋さんがライフワークとする植物観察で、心が動いた瞬間を見せていただきました。

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プロフィール

市橋織江

写真家 1978年生まれ。広告や雑誌、アーティストなど多分野で写真を手掛ける。TVCM、映画、ドラマなど、ムービーカメラマンとしても活動。また写真展や写真集での作品発表も行っている。2025年、映画『ストロベリームーン』が公開。
愛用カメラ:MAMIYA RZ67、FUJIFILM GX680、Nikon FG

写真がくれる幸せな人生

写真のおかげで目にするすべての瞬間を自分のものにすることができるのは、ものすごく面白くて、幸せな人生

「長野県松本のひと夏を撮って、本を作っていたときの一枚。日暮れ間際の暗くなっていく様子が美しかった。フィルムにはもう写らなくなっていくギリギリの感覚が、光とさよなら......という感じがして好きです」。

「Macromaxという35mmコンパクトフィルムカメラを買って、使いこなそうとしていたときの一枚。結局今も使いこなせていないけれど、どう写るのかが読めないのはもちろん、その読めなさ加減の振り幅が大きすぎるという面白さはあります」。

「Macromaxを買ったばかりの頃に、神代植物公園に行って撮ってみた花。使い方を探りながら撮るのは楽しかったけれど、ものすごく変わったカメラだと思いました(笑)」。

世の中をどう見ているか、頭の中を「切り取る」作業で表現できることに今も感動している

「写真に興味が湧いたのは、美大1年生の前期の終わりに写真を使う課題があり、初めて写真を撮って作品を作ったとき。絵を描くのとは違って、世の中にあるものを切り取ればよいという楽さにまず惹かれて、写真って面白いなと思いました。その頃、高校教員だった父親がたまたま写真部の顧問で、暗室作業を教えてもらえたこともきっかけになったと思います。美大を3か月で中退した後、当時一番興味があった写真を仕事にしようと決めました。通常モノ作りをするときは、ゼロから形にしていくという作業だと思いますが、写真というのは、すでに存在するものを切り取ることで表現できて、しかもその切り取り方が無限にある。自分が何をどう見ているか、頭の中を『切り取る』という作業で表現できることに今も感動しています。そしてその瞬間は2度とないので、切り取れたらラッキー!さらに、それを作品にできてしまうという便利さや不思議さが、自分にとても合っているなと思います。写真を撮るという手段があるおかげで、目にする全部の瞬間を自分のものにできる可能性がある。そのこと自体がものすごく幸せで、人生を面白くしてくれていると感じますし、世の中のすべてを写真に撮るという目線で見られることは、本当に素晴らしいこと。何倍も得して生きていると思うんです。『幸せな人生をありがとう!』と言いたいくらい、写真に感謝しています」。

目がカメラになっていて、見るものすべてを切り取ることがやめられない

「CM撮影でロンドンに行ったときの空き時間に。カメラを持って、ただ歩くだけの時間があるのはうれしい。世界中どこに行っても、絶対に写真は撮れます」。

「最近は写真に対して、自分にも見る人にも気負いがなくなりすぎて、ある意味自由。もはや何の縛りもルールもありませんが、もともと何かを伝えたいと意思を持って撮るということではなく、写真は自分のものの見方、こんな見方をして生きていますという表現なのかなと思います。私は世の中って本当に面白くて、美しくて、なんだか素敵で、こんなことがあるんだと驚くような不思議なことがいっぱいあるなと思っていて。ふと心が動いた瞬間を撮りたいですね。本当に写真が好きだなと思うのは、目がカメラになっていて、見えているものすべてを切り取ることをやめられないこと。無意識のうちに切り取りながらものを見ていて、常に画角を切り取る目で生きているという自覚があります。本や写真集などを作るのに、集中して作品を撮っている時期は、1日中歩いて、写真を撮り続ける日が続くので、夢の中でもぼんやりと、フィルムカメラでシャッターを切るときのカシャカシャと幕が下りている状態になることも。寝ている間もまるで自分の中に内蔵されたカメラが脳内でシャッターを切っているような感じで、もはや実際に写真を撮らなくてもいいのかなと思うくらいです(笑)」。

写真が好きだし、なしでは生きられないし、ずっと飽きることはない

「プラハで撮影。薔薇は無意識的にずっと撮っている気がします。開花時期が長いのと、出会う機会が多い花だからでしょうね」。

「私にとって世の中にあるものすべてがモチーフではありますが、植物観察はライフワーク。この5年間毎日、植物観察が趣味の母親と植物の写真を送り合っています。もともと母は山歩きしたり、海外に行ったりして植物観察するのがとても好きで、普通の主婦ながら植物博士のような感じなのですが、コロナ禍でちょっと元気をなくしてしまって。それを機に、お互いに植物の写真を撮り、コメントし合うといったことを始めました。スマホに100均で見つけたおもちゃみたいなマクロレンズをつけて撮ると、メシベの先といった細かいところまで写すことができるんです。それで花の構造など、いろいろと母に質問して教えてもらっているうちに、母がすごく元気になって。植物が撮れない日は、風景などほかのものを撮ることもありますが、1日も欠かさず、やり取りを続けています。私自身、写真を始めた頃から植物は被写体の一つではありましたが、母の影響でより植物を観察するようになり、植物を撮ることがさらに好きになりました。こうやって日々、植物を見たり、写真を撮ったりしていると、全然退屈せずに生きていけそうだなと思うんです。今の母の年齢くらいになるのが、すでに楽しみです」。

GENIC vol.75 【写真がくれる幸せな人生】

GENIC vol.75

2025年7月号のテーマは「I love photography ただ、写真が好きで」。

写真は移ろいゆく季節に目を向けることを教えてくれた。
写真は心の奥にしまい込んでいた自分の感情に気づかせてくれた。
写真は自分らしく生きていいよと励ましてくれた。
写真はかけがえのない仲間と巡り会わせてくれた。
写真は素晴らしい世界の見方を示してくれた。

写真から、たくさんのものをもらってきた。
だから、好きな理由はひとつじゃない。

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