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撮ることでしかたどり着けない境地があるから 末長真 | 連載 PHOTOGRAPHY IS LIFE. 私が写真を好きな理由

写真を仕事にした今も、根底にあるのは写真が好きだという想い。だからこそ、ここまで続けてきた。写真とは自身にとって何であるのか、なぜこうも惹かれてしまうのか。6名の写真家に、“好き”の奥に秘められた理由を伺いました。全6回の連載、第1回は「名もなきアイデンティティを肯定する」写真家の末長真さんです。

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目次

プロフィール

末長真

写真家 1990年生まれ、愛媛県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、アマナを経て2016年より瀧本幹也氏に師事。2021年独立。村上海賊ゆかりの地である瀬戸内海の島々へ足を運び、何百年も変わらずに残り続けた風景を探し撮影する「海賊を連れて」、ポートレートの撮影をライフワークとする。2023年、愛媛県今治市河野美術館にて写真展「海賊を連れて」を開催。今年、男性ポートレート作品をまとめた写真集を発売予定。

撮ることでしかたどり着けない境地があるから

写真は“独特の体験”の繰り返し。写真でしか行けない場所、関係性を探し続けている

未長真さんは、若い世代の男性のポートレートを撮り続けている。「自分にとって写真とは、名もないアイデンティティを肯定して、自分自身と相手を認めて癒す行為。自分はきっと、思い悩んだり問題を抱えたりしていたかっての自分を、相手に重ねて撮っている。それは自分自身を肯定することであり、相手を肯定することでもあります」。

「南北朝時代に瀬戸内海に姿を現し始めた村上海賊。自分は愛媛の出身で、その末裔です。使命のようなものを感じて瀬戸内海の海も撮り続けているのですが、風景もポートレートの延長線上にあると思っています。何百年も変わらないまったく同じ景色を、遠い祖先も見て感動していたんだろうなとか感じて、今ここじゃない時間軸に自分が行ったような感動を覚える瞬間があります。人でも風景でも同じで、それを感じたときにシャッターを切っています」。

ポートレートも海の写真も「青さ」がひとつのキーワード。それは未熟さの青だったり、色でいうブルーだったり

写真を撮ることでしか得られない独特の感動を、末長さん自身が認識したのもまた、大学生のときだった。
「在学中、ずっと撮り続けていた女の子がいました。すごく親しいわけでも、お互いのことをよく知っているわけでもなく、写真を撮るときにだけ会うような間柄でした。ただ、写真を撮っているときの関係は本当に心地よくて、それは写真を介してしか得られないものだったと思います。とはいえ、写真と自分の関係は、被写体との関係性ということだけではありません。過去の自分を相手に投影するとか、自分の中で写真にはいくつかのプライベートな要素があって、それが重なり合って、そこに存在しています」。

撮っている瞬間は共有することのできないものだから、写真は自分のプライベートとしてそこに在る

世間とは乖離する、写真に対する思い

その人らしさ、本質、輝く笑顔── そういうものが写し出された写真がよしとされるのならば、末長真さんの認識は根底から違っている。写真とは本来プライベートなものであり、誰かと共有できるものではないと感じているからだ。
「写真を撮り続けている原動力、好きという気持ちを持ち続けられているのは、被写体と向き合ったときに、そこでしか得られない独特の感動があるからです。ただ同じ風や光を浴びながら『昨日何してたの?』『これからどうしていきたいの?』みたいなささやかな会話をするなかで、自分と被写体との歩み寄りが生じて、めちゃくちゃいい瞬間を拾えて、それを確かめ合って『これすごくいいね』っていう時間が、ものすごく好きなんです。それは決して互いの本質を知りたいというようなものではなく、普段の友達付き合いでわかり合えるような感覚とも異なるもので、写真を撮ることでしか行けない場所であり、瞬間です。その瞬間を探しては体験することをリピートしてきた結果が、自分の写真人生。むしろたまたま写真だったというだけなのです」。
高校生のときには携帯で写真をたくさん撮っていた末長さんだが、写真により深くのめり込んでいったのは、映画を撮りたいという思いから進学した日本大学芸術学部映像学科でのこと。
「あまり深く考えずにとったコースは、アニメーションやビデオアートをひとりで完成させるようなカリキュラムが主でした。その頃って、映像もきれいに撮れるミラーレスカメラが出てきた時期で、自分も映像用に買ったことが始まり。映像をキャプチャするような感覚で写真を撮れることがすごく新鮮で、1本の映画をつくるように電子写真集の制作にもハマっていきました。物語をつくるのも、演出するのも、光を扱うのも、すべて自分の手のひらの中でできる映画のような感覚で写真を撮っていて、それは始めた頃も今も変わりません。そして、そうやってひとりで作り上げた作品は、自分自身の物語でしかないんです。やっぱり写真は、自分にとってどこまでもプライベートなものだと感じるし、その在り方こそが自分にとっての写真です」。

GENIC vol.75 【PHOTOGRAPHY IS LIFE. 私が写真を好きな理由】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.75

2025年7月号のテーマは「I love photography ただ、写真が好きで」。

写真は移ろいゆく季節に目を向けることを教えてくれた。
写真は心の奥にしまい込んでいた自分の感情に気づかせてくれた。
写真は自分らしく生きていいよと励ましてくれた。
写真はかけがえのない仲間と巡り会わせてくれた。
写真は素晴らしい世界の見方を示してくれた。

写真から、たくさんのものをもらってきた。
だから、好きな理由はひとつじゃない。

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