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【#想いを運ぶ写真術:1】古性のち

自分なりの「作風」を持って、感性豊かに表現をするクリエイターたち。その作品からは、多くのものが伝わってきます。オリジナルの手法を持つ6人に、その表現に行きついた理由やテクニックを伺いました。
1人目は、美しい写真に情緒ある文章や言葉を載せた作品を発表している、古性のちさんです。

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古性のち

フォトグラファー・BRIGHTLOGG,INC取締役。1989年生まれ、神奈川県出身。日本と世界中を旅しながら、「写真と言葉」を組み合わせた作品を作る写真創作家としても活動。現在、東京と岡山の二拠点生活中。2021年7月共著『Instagramあたらしい商品写真のレシピ』(玄光社MOOK)を発売。
愛用カメラ:Nikon Z 6II、FUJIFILM X-T3
愛用レンズ:NIKKOR 24-70mm f/2.8E、フジノンレンズ XF23mmF1.4 R、Super-Takumar 55mm F1.8

「写真に文字を載せる」ことで淡いものの輪郭を捉えて伝えたい

「失恋をテーマに鎌倉で撮影しました。やさしい光で撮りたかったので、逆光でシャッターを切っているのがポイント。太陽の前に被写体を置いて、やさしく輪郭がぼやけるようにしています。恋人と別れた直後の作品で、同じようにどこかで眠れぬ夜を過ごしている人の心に寄り添えたらなぁ、と思ったのを覚えています。少し静かで切ない感じを出したかったので、色温度を青に思い切り寄せています」。

美しい写真に情緒ある文章や言葉を載せた作品を発表している古性さん。
「大人になると、なんでも名前があること、理由があることを求められることが多くなるけれど、そういうものがすべてではないなぁと思っていて。わざわざこねくり回さずに、子供のころ感じていた“なんか好き”とか“なんか嫌”の直感をそのまま写真や言葉で伝えたくてこのような作品を作っています。“いつも世の中を新鮮な気持ちで、あたたかい目線で見守っていたい”という私の生き方の真ん中にあるものを、そのまま写真や言葉にスライドしているイメージです。飾らず背伸びせず。等身大の自分を写しています」。
いつも<淡いものの輪郭を捉える>ということをテーマにしているそう。
「肌で感じる寂しさや暖かさ、良いものも嫌いなものも無理にはっきり言語化せずに世界にあるものをそのままやさしく捉えるように意識しています。私の作品を見て、“世界ってやさしくて綺麗なんだな”とか“嫌なことも多いけど世界って捨てたもんじゃないな”と思ってくださる方がひとりでもいたら嬉しいです」。

Q1 作品作りのために普段から心がけていることはありますか?

「“自分の好き”や“五感を失わないこと”を心がけています。忙しくなりすぎたり、機械的になりすぎたりすると心の感情の扉が閉まってしまって、言葉がトゲトゲしくなったり、何にもシャッターを切りたくなくなったりするので、鳥の声を聴いたり風の音を感じたり、公園でシャボン玉をしたりするとか(笑)自分を開放するようなこともしています。地球を感じられる場所に旅をすることも、定期的にしていることのひとつです」。

世界にあるものをそのままやさしく捉えることを意識して

「撮影したのは岡山です。雲が美しかったので、空の配分が多くなるようにあおり気味で撮影。穏やかでやさしい瀬戸内の空気感を意識しました。だいぶ遠い丘の上にいたので、望遠レンズ(200mm)で、刻々と移り変わっていく空の色が“一番好みの色になる瞬間”を待ちながら撮影しました。オレンジと水色のコントラストが美しかったので“マーブル”という言葉で表現。文字間を少し広めにとることで、夕暮れの切ない雰囲気を意識しています」。

Q2 作品を作るとき、言葉と写真のどちらを先に準備しますか?

「多いのは言葉が先のパターンです。効率を考えると写真ありきで言葉を選ぶ、のほうが早いのですが、なんとなくしっくりくる作品になることが少なくて....。言葉を編みながら頭の中で情景を描いてその言葉に合う写真を撮り下ろしに行ったり、過去に撮ったものから選んだりしています」。

「テーマは夢の中。高知の海岸で撮影しました。現実と夢のはざまのような不確かで美しい世界を伝えたかった作品です。被写体の人に鏡になった海を歩いてもらい、水面ぎりぎりまで腰を落としてなるべく地面と水平になるようにカメラを持って撮影し、上下反転させました。雰囲気を壊したくなかったので、文字も極力シンプルに。言葉と幻想的な写真で、全体の静かなイメージを伝えています」。

昔の人達が残してくれた言葉の繊細な感性に心奪われた

Q3 「美しい日本の言葉と写真」シリーズは、どんなきっかけで始めたのでしょうか?

「もともと世界中を旅しながら生きてきた中、外の世界に出られなくなったときに“一体これから私はどうやって日本を好きになっていったら良いのか”と悩んだタイミングで始めました。もともと日本は私にとってトランジットのような存在で、飛び立つための場所だったので、どの方向からこの国を好きになるか悩んでいたんです。そんなときに辿り着いたのは、やっぱり私は言葉から入りたいなあ、という思い。古来からある日本語を調べていたら、昔の人たちが残していった繊細な感性に心奪われ、その美しい言葉と自分の写真を組み合わせて表現するようになりました。この言葉たちを作ってくれた人の気持ちが、私の写真でどこまで受け止めて表現できているのか今でも不安ですが、コツコツと作り続けています」。

「“初花”という春の美しい日本語がテーマ。たくさんの桜が咲いていたのですが、背景を一色にしたかったので水にせり出ている枝を探しました。なかなか見つからなかったので、右手で枝を持ち水の上にくるように調整しながら撮影しました。春の美しさ・花の繊細さを伝えたかったので、柔らかな雰囲気になるようF値は開放で撮っています」。

Q4 手描き文字ではなくフォントを使用しているのには、理由やこだわりがありますか?

「手描きは、良くも悪くも作り手の感情や人柄が出る気がしていて。“古性のちが作った・撮った”よりも、その向こう側にある世界を感じてほしいし、世界に入り込んでもらいたいから、私の影は邪魔な気がするんです。なので極力私自身の存在を消して“作品に集中してほしい”という気持ちがあります。あとは受け取り手に感じてもらう余白を残したい、という思いがあるのかもしれません。もともとWebデザイナーだったこともあり一番馴染みもあるし、特に難しいことを考えず使えるのでPhotoshopを使って作っています」。

「テーマは“明けてしまうのがおしい程の夜”。鎌倉で撮影しました。左下に見えるきらきらの花火を思い切りぼかし、現実の輪郭をおぼろげに捉えました。きっと誰もが持っている過去に感じた切ない夜を思い出して、懐かしんでほしかったんです。人物を完全にシルエットで潰し、顔をはっきりさせないことで、物語へ没入してもらいやすいようにしました」。

古性のち Instagram(@nocci_trip)
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GENIC vol.61 【あの人たちの感性から学ぶ 想いを運ぶ写真術】
Edit:Izumi Hashimoto

GENIC vol.61

テーマは「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。

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