柳詰有香
フォトグラファー・ビジュアルディレクター 1983年生まれ、東京都出身。2007年よりフォトグラファー蜷川実花氏に師事。独立後、出版社にて雑誌や写真集の企画、編集、撮影に携わる。現在は3児の子育てをしながら、フリーランスのフォトグラファーとして、フード、ファッション、 ポートレートなど、透明感を持った女性らしい視点での撮影を幅広く手がける。
愛用カメラ:Canon EOS 5D Mark Ⅳ、Sony α 7 Ⅲ、Leica SL2
物語を紡ぐという視点
編集者であった経歴を持ち、現在はフード系を中心に多くのクライアントワークを手がけるフォトグラファーの柳詰さん。
「写真で伝えるために大切にしていることは、被写体に対しての愛と、物語を紡ぐという視点です。一枚の写真にこだわって作品を残すというよりは、複数の写真を構成してページネーションを考えながら、連続的に撮る意識が常にあります。その集大成となったのが、京都、哲学の道にあるレストラン『monk』のフォトブックです」。
1.料理人の思いと哲学を表現する
「この本では、料理の完成形の写真だけではなく、その背景にある季節のうつろいや、素材の魅力、畑の風景などを撮った写真と組み合わせて構成することで、その料理の世界観を伝えられるように心がけました。撮影に4年、編集に1年の時間をかけて、2021年の4月に完成。憧れのイギリスPhaidon社の編集者の目に止まり、世界中で販売されるという夢のような願いが叶った作品です」。
「里芋の葉の上にあしらわれたソースを、葉を傾けてトマトにかけていただくという料理。フォトブックの著者である、京都「monk」の今井シェフとは、もうかれこれ10年くらい、彼の料理やその背景にある食材のストーリーや畑の姿などを一緒に撮影し続けています」。
「このフォトブックでは、料理単品写真だけでなく、その料理の背景を感じさせる写真と組み合わせて物語を紡いでいきました。野菜それぞれの個性的で生命力あふれる表情を届けたいという、シェフの想いに応えた表現です」。
2.想像がふくらむような一瞬の「表情」を引き出す
「すべては被写体となる食材や料理を知ることから始めて、チャームポイントを見つけて引き出してあげることが大切です。時には完成した姿だけじゃなく、ナイフやフォークを入れた瞬間だったり、バターが溶けだしていたり、<完璧>ではない状態でもその料理のベストな瞬間があります。
“美味しそう” “どんな味なんだろう”と、わくわくしながら一瞬のベストな表情を探っています」。
3.コンセプトをダイレクトに強く伝える
「FLOWERS Bake and Icecreamというエディブルフラワーをコンセプトにしたカフェのキービジュアル。シンプルな構図ながら “花を食べる” というイメージが、ダイレクトに強く伝わるビジュアルに仕上がっていると思います」。
4.「無作為」と「ちょっとした違和感」を盛り込む
「Food」をモチーフにしたアートポスターを作りたいという漠然としたテーマのもと、信頼するスタイリスト宮嵜夕霞さんと共作したオリジナルワーク。部屋に飾って常に眺めることになるポスターのため、あまり意味をもたせない=無作為であることを狙いました。目指したのは見る人の想像力を掻き立てる構図です。
写真は完成したポスターを部屋の一角に飾って撮影したもの。
「宮嵜さんとは、好きなもの、目指しているものをすでに共有しているので、実はあまり事前にラフをつめたりはしていません。お互いがイメージを膨らませながら現場に集まり、準備したそこにあるものでセッションのように構図やプロップの配置を決めていきました」。
5.作り手の見せたい部分をクローズアップして切り取る
「うつわは、全体のフォルムを伝えることも大事なのですが、作品の魅力として、釉薬の均一ではないあそびの部分だったり、土のテクスチャーだったり、寄って撮影したいポイントがたくさんあります。作家さんのお話を聞き、どこが見せたい部分なのかをよく観察してその魅力を切り取る。肉眼ではここまで見えてこないので、写真でクローズアップすることで発見できる世界です」。
GENIC VOL.61 【表現したいことをカタチにする力 伝わるクリエイティブ】
GENIC VOL.61
テーマは「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。