川原崎 宣喜(かわはらざき のぶき)
写真家 1992年生まれ、大阪府出身。関西学院大学教育学部臨床教育学科卒業後、2017年、スタジオ勤務、カメラマンアシスタントを経て独立。カメラ歴8年。雑誌やWeb媒体を中心に幅広いジャンルの撮影を手がけている。2022年1月、二人展「解夏」を開催。
愛用カメラ:Leica M10、Contax T3
愛用レンズ:SUMMICRON-M F2.0/50mm
妻と僕の日々の写真
奥様であるモデルの森本奈緒さん。
「愛おしい時間と綺麗な木漏れ日、この2要素があればシャッターを切ります。この写真はカフェでコーヒーを買って、散歩しているときに」。
妻と一緒にいる日々は何でもない時間も特別なもの
「家族や友達など身近な人は日常的に撮るので、一番近くにいる彼女を撮ることも自然なことでした。付き合い始めた頃から、旅行や行事の記念に写真を撮るのと同じような感覚で日々の彼女を撮っています。一緒にいる日々のなんでもない時間も、特別なものだと思うので」と、プロのモデルさんである奥様、森本奈緒さんとの日常を撮影されている川原崎さん。
桜が綺麗なことで有名な近所の川沿いで。
「基本的に僕は撮る側で、撮られることはほぼないのですが、妻は小さなカメラで僕を撮ってくれます」。
「いつもの散歩中。妻がテイクアウトしたコーヒーを盛大にこぼす5秒前」。
「近所の商店街で、ランチにたまたま入った蕎麦屋の食後。お世辞にも美味しいとは言えなかったのですが、それもまた思い出なので残しておこうと思いました」。
「近所の有名なデニッシュパンを買いに行った日。ずっと気になっていたパンをゲットできてうれしかった記念に、わざとテーブルを片付けず、ありのままで撮影。後日、近所のスーパーでも普通に売っていることを知りました」。
振り返ったときに楽しかったねと言い合えたら、それでいい
”日々の写真”というキャプションを付けてInstagramに投稿することで伝えたいのは?
「写真そのものの楽しさです。表現したいことみたいな、大それたことは何もありません。ただ、人でもモノでも、写す対象のことを好きかどうか、またどの部分に惹かれているのかを理解していることは大事かなと思っています。妻を撮るときは仕事とは違って、上手い写真でなくてもいい(良い写真と上手い写真は違う)から、プレッシャーゼロの状態。リラックスして撮影できるので、純粋に写真を楽しめて、日々の時間が愛おしいものであることを再認識できます。写真を見る人に特別伝えたいことがあるわけではなく、僕が妻といるときの日常の一部なので、振り返ったときに楽しかったねと言い合えたら、それでいいかなと。僕が撮るのは、うれしい、幸せ、愛おしい、楽しいと感じる瞬間ですが、その気持ちを残せること、また共有できることが写真の魅力。何十年後かに、撮り続けてきた意味や尊さがわかればいいなと思っています」。
綺麗な光を見つけるとうれしくなるという川原崎さん。
「散歩の帰りに通る橋で、西陽がとても綺麗だったので」。
お昼ご飯中、後ろの洗濯物もそのまま、生活が見えるように撮影。
「美味しいと言ってくれるので、雑誌の撮影で見たうろ覚えの知識で、よくパスタを作ります。面倒ですがトマト缶、ケチャップ、フレッシュトマトも使ってソースをじっくり作ります。わかりにくいですが、お洒落な皿にも載せます。そして最後、箸で食べちゃう彼女(笑)」。
「旅行で金沢21世紀美術館に行ったとき。糸電話みたいなもの?に、顔を突っ込む彼女が子どもみたいに見えて、シルエットが一番面白く見えるように撮りました」。
「銅像シリーズというのを100%おふざけでやっていまして。お互い関西で仕事があって、僕の実家の近所を散歩しているとき、良いタヌキがいたので妻になりきってもらいました。こだわりは妻とタヌキのシンクロ率(笑)」。
「夏の散歩中。ブルーの壁と赤ポストが可愛いねと2人で話して、そこで撮らせてもらいました。壁が夏の空にも見えてくるところがポイント」。
カメラを構える前に被写体の何に惹かれるのか考えるという川原崎さん。
「食べ物ならどこが美味しそうに見えるのか、その答えが出たら、それが写るように撮るだけ。これは彼女にランチをご馳走になって、お返しにお茶をご馳走しているときに撮った写真。お茶代の方が高くなる罠にハマりましたが、2人でクスッと笑えることだったので。甘いものは好きだけど、食べきれないのでいつも半分こです」。
「妻は無類のチャーハン好き。2人のベストチャーハンが食べられる近所のお店でランチしているとき、あまりにも教科書通りのチャーハンがうれしくて」。
これからも日々を一緒に面白おかしく生きていけたらいいね
「妻と近所の居酒屋で待ち合わせした日。仕事を終えて、お店に向かう途中、いつも通る川で飛び込んできた美しい景色です」。
「ホワイトデーのお返しのディナーに向かう途中、空と川の色が綺麗だったので。ピンぼけしている写真は、外してしまうことが多いですが、妻を撮る場合は大いにあり」。
「夜2人で飲みに行って、酔っ払って、いつものまいばすけっとで余計なものを買ったあと」。
「結婚前の親挨拶で神戸に行き、空いた時間で船に乗ったとき。彼女は船に興奮していて、とてもうれしそうでした。そんな大切な日のことを残しておこうと思って」。
GENIC VOL.61 【愛が伝わる写真】
Edit:Akiko Eguchi
GENIC VOL.61
テーマは「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。