別所隆弘
文学研究者・フォトグラファー・ライター。滋賀県出身。National Geographic社主催の世界最大級のフォトコンテストをはじめ、国内外での表彰多数。写真と文学という2つの領域を横断しつつ、「その間」の表現を探究している。
愛用カメラ:Sony α7R IV/α1、Leica Q
愛用レンズ:FE 12-24mm F2.8 GM、TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 (Model A063)ほか
滋賀
どんなものを撮るときも「自分の物語」を含んだ写真が撮りたい
高島市にあるメタセコイア並木を上空から撮影。「芸術的な写真になるように、幾何学的な構図を意識。溢れかえるほど同じ構図が生まれる場所で見たことのない構図を探して、作品として成立させたかったんです」。
2つの街を通したときに現れてくる「冬」の持つ印象の差異を表現したい
大学での仕事があるとなかなか遠くに行くことが難しいため、自宅のある滋賀と職場の京都、それぞれから150キロくらいが撮影対象だという別所さん。
「そんな理由だとあまりにも味気ないので、あるとき“Around the lake”(琵琶湖のほとりの風景)とテーマ化しました。それが逆に今、僕を支えてくれています。SNSを中心としたコモディティ化の進んだ状況で写真を撮っていると、自分の足元を見失いそうになります。でも、このテーマを持っている限り、少なくとも僕には“帰る場所がある”という気持ちになれるんです」。
隣県でありながら、この2つの冬は印象がまったく違うのだとか。
「底意地の悪ささえ感じる京都の冬の寒さはどこか文学的。実は気温的には京都よりも寒い滋賀の冬は、京都ほどあくどい感じはしません。琵琶湖がいつもそうであるように、見たまんま、そのままの寒さなんです」。
「余呉湖は静かなとき、鏡のように反射するので“鏡湖”と呼ばれていますが、実は割と鏡にならないんです、大きいので。でもこのときは完璧なリフレクション。30回ほど撮影に行っていますが、初めて行ったときのビギナーズラックの一枚です」。
「湖上神社として特に有名な白髭神社ですが、雪に埋もれることで、何というか現実感が希薄になる、その感じを伝えたかった。クリップオンストロボを使っています」。
京都
滋賀と京都を撮るのは、物理的にも精神的にもホームを定めたいという想いがあるから
嵐山の竹林の小径。「真ん中は自転車かバイクが通った踏み分け道。真っ白バージョンも撮ったんですが、あえて跡があるほうを選びました。竹林の小径という“作られた自然”の美しさを見て欲しかったんです。京都には、人が手を加えることで成立する文化への強いこだわりを感じています」。
別所さんにとって「伝わる写真」を撮るために重要なことはなんでしょうか?
「表現したいwhatとどんな風に向き合うのかを突き詰めた先に、how化できない視線として“物語”が存在する。how化できないということは、それを作る本人でさえ、毎回“表現の苦しみ”に直面することにほかならないんですが、その過程を経て生まれる表現は決して他の人には代替できない独自の表現です。自分だけの物語をどう表現に落とし込むのか。すべての写真が簡単にコモディティになる時代において、結局それは“コモディティになりえない要素”を含んだ写真だということになります。それを突き詰めた先にだけ、“バズる写真”とは違った、次へと繋がっていく写真が生まれるのではないかと考えています」。
「醍醐寺の奥の弁天堂に雪が積もっているシーン。ここは紅葉のときに、湖面にリフレクションさせるのが定番ですが、赤のきれいさを出すためには雪のほうがいいんじゃないかとずっと思っていました。なので赤が目立つ日の丸構図で撮影。京都の赤って、雪を支配してる感じでいいですよね」。
「清水寺に雪が降った日に撮影。定番構図で定番ではない瞬間を撮るという目論見でした。“その瞬間”って、長い長い“それまでの沈黙の時間で考えたこと”が火花のように結実する瞬間で、この写真がまさにそれ。京都の雪って瞬く間に溶けるので、チャンスは本当に一瞬なんです」。
GENIC VOL.61 【フォトグラファーが伝える地元の冬景色】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC VOL.61
特集は「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。