目次
プロフィール

マンボウ・キー(登曼波)
写真、映像、音楽、ならびに多様な創造的表現を用いて、「家族の記憶」および「アイデンティティ」を主題に据えた作品展開するアーティストである。思春期、父が秘蔵していたビデオテープを偶然発見した体験を契機として、自身のアイデンティティおよび家族関係の深層に迫る探求を開始。これをもとに制作された三部作――『Father’s Videotape(父のビデオテープ)』『Avoid A Void』『Diverse : Identity』――においては、個人的な記憶と身体、ジェンダー、家族の物語とが織り交ぜられ、独自の視点から表象されている。
2019年に『Father’s Videotape』において台北美術賞のグランプリを受賞し、その表現力が高く評価された。また、作品『Plastic Ceremony(塑の儀式/Ā bǐ bǎi)』においては、客家(ハッカ)としての民族的ルーツと、性の意識との交錯を新たな儀式的形式に昇華させている。
2022年に開催された個展『HomePleasure』では、家族関係、トランスジェンダーのイシュー、ならびに社会的周縁性といった主題にまで関心を広げ、台湾におけるクィア・カルチャーとの関わりをいっそう深化させた。同年、アートとパーティカルチャーの交差を探究すべく、HomoPleasure Collectiveを共同設立するに至る。2024年にはデンマーク、東京、バルセロナで作品を発表し、アジア人としての身体性およびアイデンティティに関する国際的な対話の場を拡張している。
與真司郎、Usakからのメッセージ
與真司郎


與真司郎
僕はただ、マンボウの世界に入り込んだひとりにすぎません。でも彼の作品って本当にたくさんの手法で撮られていて、いろんな表現が詰まってるんです。だからこそ、いろんな角度から楽しんでもらえたら嬉しいです。
Usak


Usak
彼の写真を見ていると、いろんな要素が詰まっているのに、不思議とまとまっていて、特に“官能”と“本能”が強く印象に残ります。人間が普段は隠してしまうような部分が、そのままさらけ出されていて、ドキッとするけど目が離せない。僕自身も、今回の作品を通して、自分の中の何かを少しだけ外に出せたような気がしています。この中で僕がどんな一面を見せているのか――是非、この世界観を体感してください。
展示作品のラインナップ

代表作「Father’s Videotapes」をはじめ、そのシリーズの延長である「Father’s Video Tape_Avoid A Void」より、未発表作品や日本未公開作品などを中心に構成するほか、客家系民族であり、日本統治時代に台湾で生まれ育った祖母をモチーフにした作品、ファッションフォトグラファーとしてVogue TaiwanやMarie Claireなどで撮り下ろしてきた作品、與真司郎、Usakの撮り下ろしの新作や、日本初展示となるオードリー・タンの肖像も。
展示作品の解説

クィアカルチャーを軸に、アートとファッションを横断する本展では、キュレーターに藪前知子氏(東京都現代美術館)を迎え、家族、ジェンダー、セクシュアリティ、クィア・アイデンティティといった個人的かつ社会的テーマを写真・映像・インスタレーションで深く掘り下げます。
台湾はもとより、世界に向けたクィアカルチャーへのまなざしを通して、多様性への理解と認知を広げる活動を続けるマンボウ・キーと、その活動に強く共鳴した様々な分野の方々とのコラボレーションが実現しました。
自身のセクシュアリティをファンの前でカミングアウトし、本年、カミングアウトまでの道のりとその後に感じていることをまとめたノンフィクションのエッセイを刊行した與真司郎をマンボウならではの視点で新たに撮り下ろした作品やビデオインスタレーションの展示をはじめ、NETFLIXが手掛ける男性同士の恋愛リアリティショー『THE BOYFRIEND』で世界的に注目を集め、台湾でも絶大な人気を誇るUsakを撮り下ろした作品を初披露するほか、台湾のデジタル担当大臣として知られ革新的な社会変革をリードしてきたオードリー・タンを撮り下ろした貴重な作品など、日本初となる多数の作品を展示します。
── PARCO プレスリリースより
キュレーター 藪前知子による解説

登曼波(Manbo Key / マンボウ・キー:1986年、台中生まれ)は、近年、様々な分野で注目の集まる気鋭のアーティストです。ファッション・フォトグラフィーの分野で早くより評価され、「Vogue Taiwan」をはじめとする雑誌や広告など多数のメディアで活躍するとともに、2019年には『父親的錄影帶 | Father’s Videotapes』で台北芸術賞グランプリを獲得、2022年には台北美術館で大規模な個展を開催するなど、現代美術の分野でも活動の幅を広げています。客家(はっか:中国南方へと移動した漢民族)の家に生まれ、「Homo Pleasure」というプラットフォームを主宰するなどクイア・カルチャーの中心的存在でもある彼は、多様なアイデンティティを持つ人たちが共に暮らす台湾社会を象徴する存在といえます。
彼の表現者としての人生は、父親の部屋で発見したビデオテープを再生した時から始まったと言えるかもしれません。「居家娯楽(Home Pleasure)」と書かれたたくさんのビデオテープには、1980年代から2000年代に至るまでの父親の性生活や旅行、家族のルーツのある中国本土への憧れを示す映像などが収められていました。マンボウはそこから、「私的利用」という制限回避のための実用語である「居家娯楽」という言葉の中に、父親が「家/性」という対立を見いだしながら、それを無効化しようとするもう一つの意味を込めていたことを読み解いていきます。明らかに誰かに見せるためにこれを編集してきた父親の視線を受け止めることで、マンボウは、自らの性的なアイデンティティも自覚しつつ、娯楽や性という個人の自由に関わる領域が、社会の中で忌避される状況にも疑問を投げかけるようになります。
同時に彼は、自分は何者なのかという問いの答えを、既存のカテゴリーに位置付けるのではなく、家族の物語の中に遡りながら見つけることへと導かれていきます。客家の文化を守りつつ日本語教育を受けた世代でもある育ての親・祖母との繋がりは、彼女から聴いた「桃太郎」の歌詞を彫ったタトゥーに象徴されるように、彼の身体に深く刻まれています。また、家父長制の枠に留まらない父親の姿と、その異端ともいえる生き方を淡々と受け入れる母親との関係も、彼にとっては、家族という社会的な単位を解体し、真に自分らしく生きることの探究の後押しをするものとなりました。さらにマンボウの視点は、父親世代のクイアなコミュニティとの対比と連続を意識しつつ、友人たちへと向けられていきます。台湾の今を生きる人々の姿が、彼独特の鮮やかな色彩感覚と洗練された構築性を持った画面の中に、生き生きと捉えられていきます。
誰しもが自分のプライベートな生を、フィクションと情報の選別を交えながら気軽にパブリックに発信できるようになったSNS時代に、マンボウの父親のビデオテープは、よりラディカルなメッセージを私たちに与えてくれるように思えます。それは、自分たちが存在したこと、そのあり方を、傷つくことを恐れずに、短い生の時間を超えて伝えたいという切実な思いです。それを次世代に繋げるマンボウ・キーの作品から、私たちは、写真や映像といったメディア、さらには芸術を人間がなぜ必要とするのかという、その根源的な理由に触れることができるはずです。
── 藪前 知子(キュレーター/東京都現代美術館学芸員)



イベント情報
「SUPER DOMMUNE」
開催日時
2025年5月29日(木)20:00〜
出演者
登壇者:藪前知子、マンボウ・キー、鷹野隆大
聞き手:宇川直宏
A Special Party Celebrating MANBO KEY’s Solo Exhibition「Home Pleasure | 居家娛樂」(仮)
開催日時
2025年6月6日(金)
OPEN 18:00/START 18:30
入場料
無料
会場
渋谷PARCO 10F PBOX
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町15-1
マンボウ・キー(登曼波)個展「居家娛樂|Home Pleasure」情報

開催日時
2025年5月30日(金)~6月9日(月)11:00~21:00
※入場は閉場の30分前まで
※最終日18時閉場
※営業日時は変更となる場合があります。渋谷PARCOの営業日時を確認ください。
入場料
無料
会場

PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)
- 〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町15-1
- Google Map
行き方・アクセス
<電車>
東京メトロ銀座線・半蔵門線・副都心線、東急東横線「渋谷駅」A2出口から徒歩で5分
JR山手線「渋谷駅」から徒歩で8分
マンボウ・キー(登曼波) 日本初刊行写真集「居家娛樂|Home Pleasure」情報
日本初となる写真集「Home Pleasure」(PARCO出版)は、これまでの活動を網羅的に辿る集大成としての一冊です。家庭やアイデンティティ、ジェンダー、私的なテーマから、ファッション、ポップカルチャー、クィアの視点を含む社会的文脈に至るまで、マンボウが展開する作品世界が内包されています。アートとカルチャーの境界を横断するマンボウ・キーの魅力を体感できる内容となっています。

定価本体:6,000円(税別)予価
サイズ:H200×W140
ページ数:230P
ISBN:978-4-86506-478-0