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EXIT 金玖美

国境を越えた物語を写す、フォトグラファーの金玖美。変わりゆく英国の姿を捉えたフォトドキュメンタリー プロジェクト「EXIT」についてのインタビューです。

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目次

プロフィール

金玖美

フォトグラファー 京都府出身。1997年にマガジンハウスへ入社し、雑誌の専属フォトグラファーを務める。2004年に退社後、渡英。London College of Communicationにてコースを修了。2019年、写真集『EXIT』刊行。同題の写真展やトークショーを全国10箇所で行う。現在、東京を拠点としてファンション、ポートレートを中心に広告や雑誌、CMやPVなどの映像も手がける。
愛用カメラ:Nikon Z8、Mamiya 6、Minolta TC-1

EXIT

変わりゆく英国の姿を捉えたフォトドキュメンタリー

ステップニー・グリーンの火遊び
Playing with Fire on Stepney Green
「初めて暮らした部屋からの風景。物騒なニュースを次々と耳にした地域だったが隣人は温かだった」。

愛すべき他者たちをカメラに収めることが日常だった

彼らのことを何も知らない
I Don't Know Anything About Them

「子どもの頃、姉と一緒に繰り返し読んでいた本の中に出てきたイギリスの街。いつか行ってみたいと憧れ続け、20歳のときの初めての一人旅でイギリスを訪れました。写真を始めたばかりの英国文化が好きだった私は、すぐさま目の前にある風景や人に魅了されました。2004年、会社を辞めて渡英し、すぐに家を探し始めました。直接住人と連絡を取り部屋を訪れ、案内してもらうという体験の中で、色々な国籍の多種多様な人々に出会い、生活を覗き見ることが面白くなって写真を撮り始めました。家賃が高いので若い人は大抵3LDK程の物件をシェアして住んでおり、内見のたびにおしゃべりしながら撮影、それに味をしめ、たくさんの部屋を訪れ気に入ったらそこへ引っ越して住み、またそこで撮影する。約2年半で5、6回は引っ越し、色々な国の人々と暮らしました」。

ブレグジットにより英国で何が起こっているのか、自分の目で確かめたくて英国へ向かった

サラダ・ボウル
Salad Bowl in the U.K.
「サラダボウルとは、それぞれの文化や人種が個性を保ちながら共存していること。ロンドン、特に東側では当たり前のことだった」。

「本帰国してからも度々訪れつつ月日は流れ、2016年、ニュースでEU離脱をめぐるブレグジット国民投票を知り、多くの移民が英国を去りはじめていることを知りました。好きだったイギリスの多様性が、ブレグジット(=EU離脱)によって失われつつあるという事態を看過できず、現地に赴いて人々に話を聞き、記録したかったのです。同時に、以前の写真も活きてくると思いました」。

一枚一枚の写真に潜む、愛すべき他者たちのストーリーを想像して

出口はどこに
Exit
「国民投票を経て図らずもEU離脱の道を選んだ英国は、混沌を極めていた」。

月曜日の青い扉
Blue Door On Monday
「部屋探しを通じ、多様な人々の暮らしをカメラに収めた」。

マンチェスターの橋の下で
Under The Bridge in Manchester
「EUからの離脱を決定直後のイギリスで遭遇した片鱗」。

母は学生
Student Mum And Her Son
「若きシングルマザーは写真を勉強していた」。

「元々移民のルーツを持つ私にとって、いろんな国籍の人々が共存する英国暮らしは心地よく、多様性への懐の深さ、寛容さがブレグジットによってどのように変化していくのかを注視し危惧しながら撮影しました。結果、図らずしてイギリスはEUを離脱。残留派と離脱派の間には亀裂が生まれ始め、国は混沌としました。何十万人もの移民が、先行きの見えない英国を去ったといいます。様々なルーツを持つ移民たち、性差を超えて生きる人々、単身者、カップル、家族......。一枚一枚の写真に潜む、愛すべき他者たちのストーリーを、ぜひ想像してみてください」。

イギリスの寛容さが好きだった。人種やジェンダー、様々な境界を超え共存していた風景はこの先もずっと忘れない

空手少女
Karate Girl
「クラスメイトの彼女の家を訪ね、近くの公園で空手を披露してもらった」。

彼は全てのベッドルームを案内した
He Showed Me All the Bedrooms in His Flat
「4つのベッドルームは彼の好きなもので溢れていた」。

「『EXIT』は、政治家や財界人ではなく、市井の人々に焦点を当てたフォトドキュメンタリーです。そしてこれは英国に限らず、どの国でも起こりうる、誰にとっても身近な問題になり得るんだと、この作品が契機となり知ってもらえればと願っています。そして、それでもなお、依然として自分の好きな英国がここにあるということも、伝えられたらと思っています」。

オリジナルプロジェクトは写真家としての理念を確立するための大切な営み

「私にとって、オリジナルプロジェクトは写真家としての理念を確立するための大切な営みです。白紙から何かを生み出すというのは、簡単なことではありません。でも、腹を括って発表したときに、多くの人が見てくれる。その瞬間に味わえる達成感と多幸感は何にも代えがたいものです。このプロジェクトを通して気づいたのは、自分の好きなものは、何年経っても大人になってもさほど変わっていないということ。と同時に感性の赴くまま主観的に撮影したものを、時事に絡めて発表するということは、私にとって大きな試みでした。自分のプロジェクトは心の解放でもあり、時に苦しさも伴いますが、遂行する意味は多大です。一方で、仕事での撮影はチームワークの中で職人的なアプローチで、求められているものを期待以上に仕上げることを心がけます。ただどちらも、被写体に対して好意を持って撮るという点では変わりません。ネーミングも大切にしていて、鑑賞者へのプレゼンテーションとして作品を理解してもらうための手段だと思っています。説明的である必要はないけれど分かりやすさは意識しています。展示や写真集として発表することは、できる限りした方がいいと思っていますが、私は量より質を重視したいので頻繁にはできません。まだ誰にも見せていない作品も手元にたくさんあります。『EXIT』もライフワークとして続けていますし、少年少女フェンシング選手を撮るプロジェクトにも取り組んでいます。これからも、自分にしか出来ない発表ができる機会を設けていきたいです」。

Photo Book『EXIT』

2019年 発行
出版社:BOOTLEG

Amazon: 金玖美 写真集「EXIT」

GENIC vol.76 【EXIT】
Edit:Megumi Toyosawa

GENIC vol.76

2025年10月号のテーマは「 撮ることのその先へ This is My Project.」

あなたは「何」を撮っていますか? 自分の表現を説明できますか?
タイトルをつけることができますか?
オリジナルのプロジェクトを持つことは、自分の写真を「言語化」すること。
1つの企画によってまとめられた作品群からは、“作家の声”が聞こえてきます。

あなたも、写真プロジェクトを始めませんか。
一歩進む。撮ることのその先へ。

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