Ichi Nakamura
フォトグラファー・ディレクター 1985年生まれ、兵庫県出身。独学から商業写真の世界へ入り、音楽・デザインを経由しつつ写真事務所とスタジオ経営の道へ。現在は制作プロダクション「Nowhere」のディレクションを手掛けながら、フリーランスフォトグラファーとして活動中。バーチャル写真展「GO BEYOND」開催中(https://gallery.mediciism.com/)。また、同写真展の写真集『GO BEYOND』(玄光社)も発売されている。
愛用カメラ:Leica M10、FUJIFILM GFX100S、Sony α7R IV
愛用レンズ:Leica SUMMICRON-M f2.0/50mm、FUJIFILM GF 80mmF1.7 R WR、ZEISS Batis 2/40 CF
視点は輪の外から-DISTANCE
考える余地を入れずに、上手く撮りすぎない
「春の雨の日に、百貨店の駐車場から撮りました。皆さんリクルートスーツで、おそらくどこかの企業に入社したばかりか、説明会帰りなのかなと。その様子と、一輪の桜のようなピンク色の傘に、春を感じた一枚です」。
「輪の中に入ってというよりも、外から俯瞰して見ていることが多い。それが自分のものの見方の根本にあります」と話すIchi Nakamuraさんのストリートフォトは、離れたところから被写体を捉えたものが多い。実は、梅佳代さんのような笑える家族の瞬間を撮ることも大好きで、それを"内"としたら、ストリートフォトは"外側の自分"なのだそう。
「北海道に行く飛行機から撮った写真です。ストリートフォトとはちょっと違うんですけど、視点としては僕らしい一枚。何か越しに撮るのがけっこう好きです。この時もほとんど無意識に撮ったので、どこかはわからないです(笑)」。
いつも音楽が流れていて、その心情がストリート写真に波及する
「仕事でこの界隈を歩いていて、建物の壁が反射板になるのか、霧雨も相まって傘がふわっと光る感じになることに気づきました。手前に人が通った瞬間、向こうを歩く男性を撮った一枚で、シャッターも1、2枚しか切っていなかったと思います。ここは気に入って、その後も何度か訪れています」。
「ゲラゲラ笑える家族や愛犬の写真を撮るのに対して外の自分はまるで対局で、ポエティックで、センチメンタルジャーニーのような感情を抱えている。アンビエントやローファイミュージックが自分の中に流れていて、その心情にマッチするような視点、世界を撮っているんだと思います」。
まさにアンビエントのような、微細な変化の表現を基調とした静けさを感じるストリート写真だが、撮影のアンテナが立つのは"動"が起きた瞬間だとか。
心と手が動くのは、止まった風景の中に空気を動かす存在が現れたとき
「渋谷のビルの屋上で撮影をしていたときに、待ち時間に下をずっと見ていました。バイクの集団やトゥクトゥクが通るなど、面白いシーンがいくつかありました。その中で撮った一枚なのですが、実はこれ自体は忘れていて、後から写真を見返したときに、インパクトがあって面白いなと思ったものです」。
「バスのロータリーをビル内にあるコーヒーショップから見ていました。なんとなくいい雰囲気だなと思っていたら、運転手さんがどこからともなくやってきて、止まっていた空気に動きが出たんです。『お!』と思って撮影した一枚です」。
心情をより表現できるよう、レタッチもこだわってしているそう。
「外に出ると目はずっと何かを探しているけれど、四六時中撮っているわけではありません。止まった風景の中に、空気を動かす存在が現れたときに撮影しています。そういう瞬間の写真を撮れると満足します」。だからこそ、上手く撮りすぎないことも大切にしている。「撮るときに考える余地が入ってくると、構図とかが洗練されてきて、整った写真になっていく。そうなればなる程、ストリートフォトとの乖離が大きくなって、よさから離れていく。歪みやブレも、そのときの『撮りたい!』という感情の表れであって、そういうのがストリートフォトの神髄だと思うんです」。
GENIC vol.63 【街の被写体、それぞれの視点】
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.63
GENIC7月号のテーマは「Street Photography」。
ただの一瞬だって同じシーンはやってこない。切り取るのは瞬間の物語。人々の息吹を感じる雑踏、昨日の余韻が薫る路地、光と影が落としたアート、行き交う人が生み出すドラマ…。想像力を掻き立てるストリートフォトグラフィーと、撮り手の想いをお届けします。