menu

NEW URBAN SCAPE 横木安良夫

かつて、8×10や中判のような大きなカメラで風景を撮っていたので、デジタルでは表現しきれないと風景の撮影から少し離れていたという横木安良夫。この数年でデジカメの進化を確信し、むしろデジタルでないと撮れない風景があるのではと撮り始めた「NEW URBAN SCAPE」を特集します。

  • 作成日:

ADVERTISING

目次

プロフィール

横木安良夫

フォトグラファー 1949年、千葉県生まれ。1971年、日本大学芸術学部写真学科卒業。写真家のアシスタントを経て1975年フリーランスの写真家として独立。広告、ファッション、エディトリアルなどさまざまな撮影を担う傍ら、自身の作品も精力的に撮影。2015年、ストリートフォトを撮影し、Amazon Kindle版の電子書籍写真集を制作する「CRP CROSSROAD PROJECT」を開始。現在150人以上が参加、300点以上の写真集が出版されている。

NEW URBAN SCAPE

新旧を織り交ぜ実験を楽しむように、個の存在と、個を含む全体の構造を写す

「レインボーブリッジのふもとにあるコンテナ埠頭で、朝撮影した1枚。朝は風景を撮るのに何がいいかって、空気が澄んでいることと、例えばこういうコンテナ埠頭もそうだけど、朝の5時半とか6時だと、人もいないわけ。人がいないと、撮りやすいところって多い。それに、冬じゃなければ朝って一番気持ちいい時間だし。これを撮ったのは確か6月だったから、もう明るくて、木の影がいい感じに落ちていた」。

「朝の通勤時間帯に、浜松町で撮影。この場所は回廊みたいになっていて、回廊の上から見るガラスへの映り込みが以前から面白いと思っていた。いまの東京は、ビルやそこへの映り込みを気にして撮ると、いろいろ違った作品が撮れて面白い。多少強調はしているけれど、色もほぼ自然につくりだされたもの。とはいえ写真において、色は現象として存在するものであり、説得力さえあれば転がしてもいいと思っているけどね」。

「いまの自分の撮影の主軸はポートレートやスナップだけど、海外でのドキュメンタリー撮影などで、昔はランドスケープもよく撮影していた。当時約20年間、フィルムカメラで、8×10(バイテン)や中判といった大きなカメラで撮影していたから、デジタルの時代になってからはそこに及ばず、風景の撮影から少し離れていたようなところがある。ランドスケープって、出会いがしらに撮影するスナップとは違って、その背景として、動かずにそこに存在しているものを撮るものだから、何を撮ろうかな、から始まっていく時点で、自ずと撮影に対する構え方もポートレートやスナップとは変わってくる。それらがあって、デジタルカメラで風景を撮ることにちっともピンときていなかったんだけど、いまはもう、デジタルカメラも大判のフィルムに負けないくらい進化した。とくに高感度はすごい。昔だったら三脚を据えて撮らなくちゃならないようなシーンも、感度を上げて、シャッター速度を上げてめちゃめちゃ絞れば、手持ちで撮影できちゃう時代。それなりの風景写真が撮れるんじゃないかっていうのが、ちょっと出てきたんだよね。むしろ、デジタルカメラでないと撮れない風景があるんじゃないか、と。それで撮り始めたのが、『NEW URBAN SCAPE』。でも、それでただ撮っても面白くないから、ラージフォーマットセンサーを搭載した最新デジタルカメラでの撮影に、アナログ時代の古典的な手法やセオリーをミックスさせるということをしている。歪みは極限までなくして、水平垂直もかなりしっかりとる。他にも、きれいに見せすぎないために周辺を少し暗く落とすようなこととかね。カメラはFUJIFILM GFX100 IIとGFX100S II、レンズはGF20-35mmF4 R WRとティルトシフトレンズGF30mmF5.6 T/Sを使っている。まだ始めたばかりだけれど、これから2年くらいかけて撮りためていきたいと思っている」。

「昔は日本の風景が嫌いだった。それで海外ばかり行って。でも、いまは日本のめちゃめちゃ猥雑な世界が結構面白いなと。みんな同じになっちゃうと、つまんないよね」

「新宿駅西口の横断歩道。朝、光を受けて伸びる影が面白いと思った。このシリーズの撮影に使っているのは、最新のラージフォーマットデジタルカメラ、FUJIFILM GFXシリーズ。1億200万画素あって、この時はF22ぐらいまで絞り込んだ。シャッター速度が1/1000秒を切ってくるから、手持ちで撮れちゃう。フィルムカメラでは不可能だよ。機動力があるなと思った」。

「これは出会いがしらに撮影したスナップ的な作品で、今回のテーマのなかでは異色。でもあとから水平垂直はちゃんと直してる。NEW URBAN SCAPEの撮影は、車で都内を流しながらよさそうな場所を探してやるから、計画することじゃなくて撮りたいから撮る、というスタートなんだけど、撮っていくと新しい発見がある。まだ始めたばかりのシリーズだから今は実験みたいなもので、でもどこかを境にちゃんとやるようになるんだろうなと思う」。

「街が変貌を遂げようとしているいま、都会も田舎も、なんならバーチャルな空間までが一緒くたになって、混然としてきている。そこがすごく面白くて、都市を撮影している」

「高輪ゲートウェイの駅前。ビルと反対側の道路から、超ワイドで撮っている。超ワイドだから本当はこういう風には写らなくて、上がすぼまるんだけど、後から上を広げて、水平にして自然になるようにしている。本当は人間の目にも歪んで見えるんだけど、脳が垂直なものは垂直と理解して画像処理をするから、写真でもゆがみをなくしたほうが人はナチュラルに見えるんだよね。ある意味、プロカメラマンの普通の撮り方。大きなカメラだからこそきちっと撮りたいっていうのもある」。

「いまは都市開発によって、東京の街もどんどん変わっていっているのが面白いから。それに、自分が見てきた木造建築が並ぶような景色は、10年後にはなくなっているだろうし。そういう景色も記録しながら、開発によって変わっていく風景や、すでに変容を遂げた空を反射するブルーグラデーションの街並みなんかを記録していく。これって、写真の醍醐味、面白さを凝縮してる撮影でもある。例えば絵は、存在してないものでも描くことができて、それってイマジネーションだよね。でも写真はそうではなくて、イマジネーションによって作られた、すでに存在するものを写すもの。人間によってつくられた都会も、富士山がそびえる自然風景も、同じなんだよ。写真の向こう側にある構図って、僕が決めるんじゃなくて、すでに存在しているものなんだよね。それは風景だけの話じゃなくて、人間だって体の大きさをはじめ、みんなにそれぞれの必然性が存在する。NEW URBAN SCAPEでは一人ひとりのヒューマンのままに寄っていくのではなくて、バックグラウンドまで全部ひっくるめて、背景の中に人間がいる、存在しているっていうことを一番の興味として、やっている」。

「ここは普段からよく通る道で、いつも見ていた建物が、火事で燃えちゃったの。歩いていて、なんか風景が変わったなって思ったら燃えていた。出会いがしらの撮影という点ではスナップ的だけれど、反対側の歩道から引いた状態で撮影しているという点では、風景写真。ランドスケープ撮影って、被写体との距離が遠いよね。自分の目も遠くを見ている。それに加えてワイドで撮ると、写真は面白くなる。プリントしたときの迫力がぜんぜん違ってくる」。

GENIC vol.72【NEW URBAN SCAPE】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.72

9月6日発売、GENIC10月号の特集は「Landscapes 私の眺め」。
「風景」を広義に捉えた、ランドスケープ号。自然がつくり出した美しい景色、心をつかまれる地元の情景、都会の景観、いつも視界の中にある暮らしの場面まで。大きな風景も、小さな景色も。すべて「私の眺め」です。

Amazon:GENIC|私の眺め vol.72
GENIC公式オンラインショップ

おすすめ記事

瞳の奥に映る景色 瀧本幹也

【GENIC|Landscapes 私の眺め vol.72 2024年10月号】特集詳細&編集長 藤井利佳コメント

次の記事