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INTO THE NORTH~北へ~ 前田景

目の前に広がる光景に対し、何を感じ、どのように向き合い、切り取っているのか?
6名の写真家それぞれが心を揺さぶられたランドスケープの写真と、その想いに迫ります。
「写真家それぞれのランドスケープ」1人目は、祖父、父と3代にわたって美瑛の春夏秋冬を切り取る、フォトグラファーの前田景さんです。

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目次

プロフィール

前田景

フォトグラファー/アートディレクター 1980年生まれ、東京都出身。広告代理店を経て、2015年、祖父である風景写真家の前田真三がつくった(株)丹渓に入社。広告、書籍、ウェブなどのデザインを手掛けながら、フォトグラファーとしての活動を開始。フォトギャラリー拓真館にて、2024年、前田真三・晃・景による「IMAGINARY ROADS」展を開催。
愛用カメラ:FUJIFILM GFX 100S II

写真家それぞれのランドスケープ

INTO THE NORTH~北へ~

「今回の写真の撮影地は、全て北海道・美瑛一帯。北の澄んだ空気を感じる写真を選んだが、下の写真は特に気に入っている一枚。祖父の代表作に『麦秋鮮烈』という写真がある。夕陽に照らされた真っ赤な麦畑の写真は、美瑛を象徴するような作品だ。麦の季節には、その写真がいつも僕の頭の片隅にある。この霧の麦畑は、祖父の作品へのオマージュの気持ちで撮影した、僕なりの今の『麦秋』」。

美瑛の風景は、まるでパズルのピースのように、僕の中の空白を埋めてくれる。

「フォトグラファー、アートディレクターとして半々くらいで活動している。僕にとってこの2つは、切っても切り離せない関係。撮影している自分はフォトグラファーで、その写真を料理しているのはアートディレクターの自分。アートディレクターの自分がフォトグラファーの自分にお題を投げることもあるし、フォトグラファーの自分がアートディレクターの自分にディレクションをお願いすることもある。写真家としては、僕はまだスタートしたばかりだと思っている。40歳を過ぎてから写真家になった祖父が語っているが、写真家になってからより写真家になる前の人生の方が写真を撮る上で大切だったというのは深く共感する」。

「青みがかった山々、風に揺れる麦の穂、白樺の並木道…。美瑛は北海道のほぼ中央に位置し、雄大に広がる丘陵地帯の彼方には大雪山系の山々を望める。僕の祖父、写真家の前田真三がその代表作の数々を撮影した地でもある。僕は2020年春に40年間住んだ東京を離れ、妻と娘と美瑛に移り住んだ。そして祖父の足跡を辿り、丘へ、山へ、森へと足を延ばした。北で暮らしながら見えてきた風景は、まるでパズルのピースのように、都会での生活で見つけられなかった僕の中の空白を埋めていってくれる。なぜこの地を祖父が選んだのか。また、多くの風景写真を撮影する人々が集まる場所なのか。それはおそらく、美瑛が変化と起伏に満ちた場所だから。火山活動によって生まれた丘陵の変化に富む地形と、毎年作付けする作物が変わる畑の色彩は、訪れるたびに全く違う風景を見せてくれる。また、山へと向かえば標高によってタイムマシーンのように季節を行ったり来たりできる。縦軸と横軸、その両方の変化が美瑛の四季を豊かにしている」。

目に見えない「風」を写すのが、風景写真だと思う。

「幼い頃から見ていた祖父の写真は、自分にとっては全ての表現の土台。祖父と写真のことを話したり、実際に撮影する姿を見ることはなかったが、遺された写真と言葉を通じて、祖父から多大な影響を受けている。祖父、父、自分の3代にわたり同じ地を撮影している写真家というのは、おそらく世界広しといえどほとんどいないだろう。1972年に祖父が美瑛を初めて訪れて以来、およそ50年分の写真のアーカイブがあるということは、今後さまざまな手法で新たな作品を生み出していけるはず。3人が撮る写真の違いは、正直わからない。感じているものは、おそらく共通する部分の方が多いだろう。
そして、あえて違うことをしようとも思っていない。僕らは風景を創り出しているわけではなく、あるがままのものを撮り、生かすだけだから。ランドスケープは英語で直訳すれば『地景』だろうが、東洋では『風景』。目に見える『地』ではなく、見えない『風』になった。『風』を写すのが風景写真だと思う。
北海道での暮らしの中で、短い春夏秋と長い冬、その激しい変化を見つめ続けることで、自身の自然風景への解像度が上がった。暮らしから地続きの風景、そして春夏秋冬との出会いの瞬間を表現することを大切にしている。こだわっているのは、端正に撮ること、空気を撮ること、あるがままを撮ること。自分が被写体を見つめているだけではなく、被写体からも見つめられているという意識を持ち、人と自然との調和を写したい。そして、丘の風景を撮り続けるのと同時に、よりミクロな世界、足元の小さな風景を探求していきたい。どんな広大な風景も、一枚の葉、一本の草、一輪の花からできている。ミクロとマクロの両視点から風景を捉えて表現していきたい」。

GENIC vol.72【写真家それぞれのランドスケープ】
Edit:Satoko Takeda

GENIC vol.72

9月6日発売、GENIC10月号の特集は「Landscapes 私の眺め」。
「風景」を広義に捉えた、ランドスケープ号。自然がつくり出した美しい景色、心をつかまれる地元の情景、都会の景観、いつも視界の中にある暮らしの場面まで。大きな風景も、小さな景色も。すべて「私の眺め」です。

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