北村佑介
花の写真家 1984年生まれ、東京都出身。出版社勤務、埼玉県観光PRフォトグラファーを経て、ドリーミーフォトと呼ばれる花の写真を撮る写真家として独立。年間約100回の写真教室を中心に、記事寄稿やイベント出演など幅広く活動。2021年より各地のソニーストアで個展を開催。
愛用カメラ:Sony α7 III
愛用レンズ:FE 135mm F1.8 GM
すぐそばにあるドリーミーな世界
日常がどれだけ特別かを教えてくれるのが「花」という被写体
「以前同じ場所を訪れた時は花にも写真にも興味がなく、そこまで何かを感じる場所ではなかったのですが、花が好きになり写真を始めてから訪れたこの北海道のひまわり畑は、まるで別世界でした。こんなにも美しい場所があるのかと、とにかく夢中でシャッターを切りました」。
「会社勤めをしていた頃、昼休みに写真を撮りに出かけ『桜が満開だから少しくらい戻りが遅くても仕方ない』という勝手な理論で2時間ほど帰社が遅れました。もちろん怒られました(笑)。その時、写真家になって好き勝手撮ろう!と決めました」。花の中でも特に身近に咲く花を撮ることが多いという。
「撮りたいと思ったら、その辺に1輪咲いていれば撮ることができる。そんな気軽さが、楽しく花を撮り続けている理由かもしれません。そして日常がどれだけ特別かを教えてくれます。『あれ、もう咲いちゃってる』『なんでこの花だけこんなところに咲いてるのさ!』とか、いつもの風景に色々な気づきを与えてくれるのが花という被写体です。花は架け橋のようなもの。写真のおかげで花の美しさや可愛らしさに気づき、そしてたくさんの人と出会うことができました」。
「満開の中で一際輝いていた彼岸花。美しい夕陽に照らされ、朱色が一層眩しかったです。色も花の大きな魅力なので、その花が持つ色彩の美しさを収められるように心がけています」。
繊細さ、切なさ、儚さ
「対称的なきれいな形のチューリップを見つけ、イメージ通りの写真が実現しそうだと思い撮影。その花の持った形の良さをどれだけ理想的に収めるかが、自分の表現には最も大切なことの一つ」。
「作品としては、繊細さや切なさ、儚さをずっと大きなテーマとしています。それが”幻想的”とか“ドリーミー”と受け取ってもらえる理由かもしれません。技術面でいうとボケは意識しています。花を引いて小さく撮っても、充分な前ボケや後ろボケを得られる中望遠以上の単焦点レンズは、自分が表現したいイメージには必須です」。
自分らしい表現にたどり着くにはどうしたらいいでしょうか?
「自分にとってシャッター数は生命線でした。撮り続けることで個性を確立しました。そして“わざとでも人と違うことをやる”。人とは違う“自分ならではの何か”を見つけることが大切だと思います。注意すべきなのは、個性を意識するあまり基本を疎かにしてしまうことです。基本ありきの個性だと考えています」。
「日常を切り取ったけど、どこか日常を感じさせない。そして、そこに切なさや儚さがプラスされた写真。それが自分らしい写真なのかなと感じました。この道端のビオラにその自分らしさが詰まっていると感じました」。
「レタッチをしている時、なんとなく普段動かさない項目を派手に動かしてみました。そしてこの写真が出来上がりました。この作品を仕上げた時、初めてはっきりと『これが自分の写真だ』と感じました。そしてこの方向性でいこうと決めました。これからもずっと花の写真を撮り続けていくのだと思いますが“始まりの一枚”はこの写真だけです」。
Information
花をながめて大切なことに気づく100の言葉(かんき出版)
美しい花の写真と心に響く100の名言が綴られた1冊。全国の書店、Amazonなどで好評発売中。
GENIC vol.64【あの人が見つけた“自分らしい”写真表現】
edit:Megumi Toyosawa
GENIC vol.64
GENIC10月号のテーマは「写真と人生」。
誰かの人生を知ると、自分の人生のヒントになる。憧れの写真家たちのヒストリーや表現に触れることは、写真との新たな向き合い方を見つけることにもつながります。たくさんの勇気とドラマが詰まった「写真と歩む、それぞれの人生」。すべての人が自分らしく生きられますように。Live your Life.