menu

柿本ケンサク的プロジェクトの思考─視点の再定義

「誰にも頼まれていないのに、シャッターを切り続ける。無駄に思える行為が一番美しく、一番難しい」。「写真は、『沈黙と会話するためのチケット』。誰かの涙、誰かの希望、誰かの孤独が写真の力で、言葉にならないまま浮かび上がる」。など、強く響き渡る言葉が満載のインタビュー。柿本ケンサク オリジナルプロジェクト「Translator」「Trimming」「Time of Light」の写真作品とともに、お楽しみください。

  • 作成日:
目次

プロフィール

柿本ケンサク

演出家/映像作家/写真家 多数の映像作品を生み出すとともに、広告写真、アーティストポートレートなどをはじめ写真家としても活動。映像作品では、美しくダイナミックな世界を作り出すことを得意とし、言語化して表現することが不可能だと思われる被写体の熱量、繊細な感情の揺らぎを生みだす。対照的に写真作品は、目の前に広がる世界から新しい視点を見つけ出し「時間」をテーマに作品制作を行っている。
愛用カメラ:Leica M
愛用レンズ:APO summicron M f2.0/50mm ASPH.、Voigtlander NOKTON 35mm F1.2

柿本ケンサク的プロジェクトの思考─視点の再定義

Translator/自然界に存在する、目に見えない“ゆらぎ”の通訳者としての視点で撮影。

+61 Nov 2024/30

+61 Nov 2024/20

+64 Oct 2024/11

+66 Jan 2025/26

+62 Jun 2025/71

Trimming/何気ない事象を新たな視点で高解像度に再解釈し、ピントを合わせ直すことで新しいデザインとして再生させるシリーズ。

+62 Jun 2025 41

+62 Jun 2025 92

Time of Light/一瞬の刹那で生まれる“時”の作品を透過させ、具体をなるべく抽象にしていくことで、透明だが、たしかにそこにある気配を写し撮った作品。

Oct 2024 60

Jun 2025 54

Feb 2025 82

Oct 2024 99

誰にも頼まれていないのに、 シャッターを切り続ける。 無駄に思える行為が一番美しく、一番難しい。

「僕にとってオリジナルプロジェクトとは、視点の再定義。それは、自分自身の心の深部に問いを投げかける時間でもあります。社会性を含んだ世界とは距離を置いて、自分には世界がこう見えていてほしいという希望のような、もっと言うと、原初的な欲求―“なぜ僕は今、生きているのか”という問いに向き合うようなこと。そこには、何にも縛られず、自分の感覚だけを信じて進める喜びがあります。誰にも頼まれていないのに、シャッターを切り続ける―その無駄に思える行為が、実は一番美しいと思うし、一番難しい行為」。

“自分の声に正直であること”がすべて。予定調和じゃない風景に出会えるのは、オリジナルの旅だけ。

「予定調和じゃない風景に出会えるのは、オリジナルの旅だけです。仕事では“他者の声に寄り添うこと”が求められますが、オリジナルでは“自分の声に正直であること”がすべて。どちらも愛おしいけれど、オリジナルの方が時に孤独で、時に暴力的なまでに自分を写真の中に見ます。オリジナルプロジェクトは、たいていは、言葉にならない違和感や、街でふと見た“歪み”みたいなものが起点。それが心に引っかかって離れない時、少しずつイメージが膨らんで、やがて一つの“問い”に育っていく。問いができたら、僕はそれを写真で解くように動き出します。見たものをそのまま記録するのではなく、カメラを通して見たものをどう感じたのかをありのまま描く」。

写真が嘘をつき始めたら終わり。プロジェクトでは、“感覚の正直さ”=“直感”に従う。

「プロジェクト制作では、“感覚の正直さ”=“直感”に従います。コンセプトに縛られて、写真が嘘をつき始めたら終わり。むしろ、予想外の瞬間に何かがこちらに語りかけてくるような、そんな“偶然の神聖さ”を大事にしています。プロジェクトを行うことにより、自分が『どう社会と関わりたいのか』が見えてきました。かつては、自分の内面ばかりを見つめていたけど、最近は、外の世界とどう響き合うかを考えるようになりました。プロジェクトは、自分を成長させてくれる旅です。今後の夢は、『見えないものを、誰かの中に残すこと』。記憶や感情の中に静かに染み込むような表現がしたい。具体的には、言語を超えた“世界共通の写真詩”のようなシリーズを作りたいです。写真がただ“見る”だけのメディアではなく、“感じること”“共鳴すること”につながる未来をつくっていきたい」。

人はいつも答えを探してしまうけれど、写真は問いのままであっていい。『正しくなくてもいい』。

「僕の写真にあるのは、整った美しさよりも“壊れかけているもの”“消えそうな何か”。キーワードで言えば〈儚さ〉〈限界〉〈断片〉〈呼吸のような違和感〉といった言葉が浮かびます。“写す”というより、“見つけたものと一緒に黙る”という感覚に近いですね。“自分らしい”というのは、言い換えれば『自分が責任を持てる感覚かどうか』。完璧に撮れたかどうかではなく、“その光景に出会った”という、ある種の導かれた運命。その光景を撮っていいんだと、世界に許された瞬間のようなものです。僕が写真を通して伝えたいのは、『正しくなくてもいい』ということ。人はいつも答えを探してしまうけれど、写真は問いのままであっていい。作品の前に立った人が、自分の感情を投影したり、過去の記憶を呼び起こしたりする―。そんなふうに、“自分と対話する鏡”のように機能すれば嬉しいです」。

写真は、『沈黙と会話するためのチケット』。誰かの涙、誰かの希望、誰かの孤独が写真の力で、言葉にならないまま浮かび上がる。

「僕は、何かを伝えるためではなく、“誰かが何かを感じる余白”を用意したい。できれはその余白に清らかなものがあってほしい。写真は、僕にとって“思考の素描”です。映像や演出は構造や時間の設計が必要になりますが、写真はもっと自由で、直感的。言うなれば、呼吸と同じ。あまりにも自然で、あえて“職業”だとは感じていません。でも、だからこそ、すべての始まりは写真にあります。構図の中に“物語が生まれる瞬間”を見つけた経験が、映像でも舞台でも、演出の核になっています。“見ること”の精度を鍛え続ける―それが写真家であることの役割であり、僕の原点です。写真は、声にならないものと出会い、向き合うためのメディア。また、言葉を発しない撮影者=今回で言うと僕、と会話する装置。いわば、『沈黙と会話するためのチケット』です。誰かの涙、誰かの希望、誰かの孤独―それらが言葉にならないまま浮かび上がるのが、写真の力だと思っています。写真とは“一瞬の時間を捉えたもの”ですが、僕にとっては同時に“時間を裏切るもの”でもあります。過去にも未来にも属さない、でも確かに『今ここにある』―そんな奇跡を信じられる瞬間、それが写真です」。

柿本ケンサク的プロジェクトRules

1.言葉にできることは表現しない

言葉にできることは、すでに誰かの理解の中にある。そこには、驚きも発見もない。そして言葉にできるから、解釈が変化していく。僕が作品にしたいのは、「自分でもまだ理解できていないもの」。曖昧さや違和感、感情の端っこにある何か―そういった言語の手前にある感覚を、写真として焼き付けたい。

2.答えを限定するものは作品にしない

“これはこう見るものだ”“こう感じるべきだ”と、観る人に答えを限定するような作品は、僕にとって不誠実です。アートは問いかけるものであって、解決するものではない。観る人の過去や痛み、記憶に応じて、まったく違う物語が立ち上がってくるような、そんな余白がほしい。

3.光の機嫌をうかがう

写真は、被写体ではなく“光”を撮るものだと考えています。その瞬間の空気、気配、温度―すべては光が決める。どんなに構図が良くても、光が嘘をついていれば、写真は生きない。逆に言えば、ほんの僅かな光の変化だけで、世界は一変する。だから僕は、光の機嫌を一番にうかがい、その声に従ってシャッターを切ります。“光が語るものを信じる”。それが、僕の表現の核です。

Photo Book「TRANSLATOR」

GENIC vol.76 【柿本ケンサク的プロジェクトの思考─視点の再定義】
Edit:Satoko Takeda

GENIC vol.76

2025年10月号のテーマは「 撮ることのその先へ This is My Project.」

あなたは「何」を撮っていますか? 自分の表現を説明できますか?
タイトルをつけることができますか?
オリジナルのプロジェクトを持つことは、自分の写真を「言語化」すること。
1つの企画によってまとめられた作品群からは、“作家の声”が聞こえてきます。

あなたも、写真プロジェクトを始めませんか。
一歩進む。撮ることのその先へ。

GENIC SHOP

おすすめ記事

ほがらかに。Melodious. 林響太朗

「写真(プロジェクト)は自身の映し鏡」瀧本幹也 ~吉沢亮写真集/写真展『FOSS』より

次の記事