目次
- プロフィール
- ほがらかに。Melodious.
- 写真から受ける感動って、自分の記憶と結びついて生まれた共感みたいなものなんじゃないかなって、世界の小さな輝きみたいなものを、集めたいと思いました。
- 撮影を進める中で決めたタイトル。テーマが明確になり、「自然体でいいんだ」と思えた瞬間でした。
- 世界は今日も、小さな輝きにあふれている。
- レールのない道を進むのは初めての経験。とても難しく、悩みは尽きなかった。
- 自分の名前を使ったタイトル決めが、ターニングポイントになった。
- 自分の見ている景色がちゃんと響くことに、自分が肯定されている感じを受けた。
- 両親と弟、そして妻への感謝。写真集は、よりパーソナルなものへと落とし込んだ。
- PhotoBook &Goods
- GENIC vol.76
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プロフィール
林響太朗
映像監督/写真家 1989年生まれ、東京都出身。多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコース卒業後、DRAWING AND MANUALに参加。多摩美術大学情報デザイン学科デザインコース非常勤講師。クリエイターとしての活動と同時に、大手グローバルブランドの広告や、メジャー・インディ問わずさまざまなミュージックビデオの演出・監督を行う。2025年、初の作品展「ほがらかに。」を東京・品川にあるキヤノンギャラリーSにて開催した。
ほがらかに。Melodious.
写真から受ける感動って、自分の記憶と結びついて生まれた共感みたいなものなんじゃないかなって、世界の小さな輝きみたいなものを、集めたいと思いました。
2025年 夏、東京・品川で行った作品展「ほがらかに。」は、林響太朗さんにとって個人初のオリジナルプロジェクトだった。その先に見た景色を、林さんはこう言葉にする。
「展示を通して、自分が見ている景色はみんなにもちゃんと響くということを知れたのは、とても大きいことでした。なぜならそれは、自分が肯定されているような。そんな感じがしたから」。
約2年にわたる制作期間、悩み、考えながら撮影を重ねていく中で、林さんはまるで導かれるように“自身”へと回帰していった。
「写真や映像から受ける感動って、その人の記憶と結びつくことで生まれる共感みたいなものだと考えています。記憶に寄り添った見たことがある景色が映し出された作品を見ると、心が休まるんじゃないかなって感じて、世界中の小さな幸せみたいなものを集めたいと思いました。とはいえ、何を幸せに思うかって人それぞれ異なるとも思うんです。それを限定してしまいたくないなという思いから、メインビジュアルは抽象的な作品から選んでいました」。
撮影を進める中で決めたタイトル。テーマが明確になり、「自然体でいいんだ」と思えた瞬間でした。
ほがらかに。
自分の名前に「朗」という漢字が入っていなかったとしたら。きっとこの題名で展示をしていなかった気がします。名前は、授けてくれた人の願い、もしくは希望であり、そして同時に呪いや魔法のようでもあり。その名前のように人は、人生を歩んでいくことが多いと思います。多分無意識に。まだ気づいていない人も多いかもしれません。僕は、無意識の中で、この名前に導かれて生きてきたように感じます。そして、自分の名前に助けられ、今日この場所で展示をさせてもらえているように感じています。この展示は、「今まで自分の見たことない景色を、そして今まで見たことのある景色に出逢いに行こう」、その気持ちを心の真ん中に置いて、自分自身の衝動を大切に撮り溜めていきました。ほがらかに。この視点を共に体感してもらえたら嬉しいです。
──林響太朗
「僕自身、映像のおかげで今があると思っていて、なので最初から、映像と写真を流動的に見せていくことを軸に考えていました」。
映像も写真もフォーマットをそろえて基本縦位置で撮影。どちらにもきちんと目がいくよう、境界をあえて曖昧にすることで二つの表現を流動的に見せた展示は、妻でありアートディレクターの黒谷優美さんが中心になって設計した。
世界は今日も、小さな輝きにあふれている。
展示会場には、より林さんの作品世界へと誘うアンビエントな音楽が流れていた。
「映像に音楽は欠かせないもの。展示が決まったとき、すぐに音楽家である父の林有三に作曲を依頼しました。作品を撮っては父に送り、作品を見て父が音楽を作り、送ってくれるというセッションのようなことを行いながら進めていきました。最終的に、映像は展開や動きをあまり持たせず、没入感を得て心地よい時間を感じてもらえるような編集を意識し、父がそれに合う音楽を作り上げてくれました」。
レールのない道を進むのは初めての経験。とても難しく、悩みは尽きなかった。
「今回の展示は、Canonからオファーを受けて実現したものです。それまで、自分が個展を開くとは想像していませんでした。僕の仕事は主に広告やミュージックビデオを制作することで、仕事の撮影には何かしら“1”があって、1をどこまで高く飛ばせるかということをやってきました。一方、プロジェクトのスタートは限りなく0に近いもので、何をやったらいいのかすらわからないというところから始まりました。レールのない道を進むことの難しさに直面し、かなり悩んで、悩みながらも、せっかくやらせてもらえるなら、とにかく楽しいことをやろうと思いました。楽しくやるのなら、妻も一緒に面白いことがいいなと思って『旅行に行くか』と。普段撮影の仕事で海外に行くと、忙しい合間に血眼になって時間を見つけてスナップを撮るということをしていたので、自分の撮影だけを目的に旅行してみるとどうなるんだろう、という気持ちもありました。
ところが実際に旅行先で撮影を始めると、今度は果たしてこれでいいのかどうかわからないという気持ちに。最初の旅行先は南フランスだったのですが、本当に、休日にただ撮っている写真ばかりになってしまって。どういう気持ち、姿勢であるといいのかなど、撮り方を考えながら撮影をしていくも、答えは出ないまま旅行期間が終わりました。それでも次にフィンランドへと向かうのですが、最初の頃は、とにかく撮り続けるということを、そして『いいなぁ』と思う情景を信じて、前へと進んでいきました」。
自分の名前を使ったタイトル決めが、ターニングポイントになった。
「展示のテーマが定まったのは、タイトルを決めたときでした。撮影の中盤、ギャラリーのプレスリリースを出すタイミングがきて、タイトルを先に決めなければいけませんでした。そこでまずは、ある程度溜まっていた作品を見返すということをしました。撮り方のルールを決めて撮影できていたわけではないのですが、見返すと、手をつなぐおじいちゃんとおばあちゃんの姿や、わいわい楽しそうにしている人たち、素敵なカップル、鮮やかな洋服を着た人など、さまざまな人の生活に対し自分はシャッターを切っていることに気づかされました。なんだかほんわかした感じがいいなと思って、自分の名前に入る『朗らか』という言葉へとつながっていきました。撮り方を決めずとも、自ずと自分は導かれていた。自然体でいいんだ、と思えた瞬間でした」。
自分の見ている景色がちゃんと響くことに、自分が肯定されている感じを受けた。
「これまで、展示をしようと思ったことはありませんでした。理由は本当にシンプルで、“自分の作品”というものが明確になかったから。もちろん広告やミュージックビデオも作品といえば作品かもしれないけれど、やはりそれらはアーティストや音楽のためのものだと思っていて、それを自分の展示に、みたいなことはまるで考えていなかったんです。でも今回、自分だけの作品作りにチャレンジしてみて、続けていきたいと、すごく思いました。展示に向けて改めていろいろな写真家の方の展示を拝見したのですが、みんなすごいじゃないですか。ステートメントも本当にかっこいい。自分はこんなにかっこいいことが言えるのか、無理だろうってずっと思っていたんです。でも、いつかそうなれたらいいなとは思いつつ、今自分がやれることは自分の名前に向き合うこと、自分の生きてきたことに向き合うことなのかなって、思いました。素直でいればいいんだって。そうして実際に展示を迎えると、本当にたくさんの方が来てくださった。会場に立ち、訪れてくれる人たちを眺めたり話したりしていると、何だか自分が肯定されているような感じがしました。自分の見ている景色がみんなにもちゃんと響くんだな、綺麗なものをちゃんと見せられているんだなっていうのをちゃんと知れたことは、すごく大きかったです」。
両親と弟、そして妻への感謝。写真集は、よりパーソナルなものへと落とし込んだ。
「ページをめくって見る写真集には、展示とはまた異なる物語があるように感じて、名前をつけてくれた両親や、プロジェクトを共に歩んでくれた妻への感謝も込めて、よりパーソナルなものへと落とし込んでいきました。『ほがらかに。』は、僕のライフワークになっていくと感じています。自分の名前の大切さに気づき、自分自身にもちゃんと向き合えた良い時間でもあったから、今後も続けていきたいです」。
PhotoBook &Goods
よりパーソナルなものへと落とし込んだ写真集『ほがらかに。』には、林さんが原点だと感じた母の実家や祖父母を写した作品も収録されている。展示会場で500部限定で販売され、完売していた写真集の重版が決定。写真集の他、『GENIC』76号の発売に合わせて再販準備が進められた「ほがらかに。」の作品がプリントされたTシャツなどもある。購入はWEBから。
GENIC vol.76 【ほがらかに。Melodious.】
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.76
2025年10月号のテーマは「 撮ることのその先へ This is My Project.」
あなたは「何」を撮っていますか? 自分の表現を説明できますか?
タイトルをつけることができますか?
オリジナルのプロジェクトを持つことは、自分の写真を「言語化」すること。
1つの企画によってまとめられた作品群からは、“作家の声”が聞こえてきます。
あなたも、写真プロジェクトを始めませんか。
一歩進む。撮ることのその先へ。