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伝えたい想いがあるから。 山口祐果/フィルムディレクター(映像監督)

第一線で活躍するプロたちに聞く、今までの道のりや仕事に対する想い。クライアントワークとは?撮ることを仕事にするとは?それぞれの向き合い方や姿勢を通して、そんな疑問への答えを探します。
「プロとして活躍するフォトグラファーたちの軌跡」。今回は、フィルムディレクター(映像監督)の山口祐果さんです。

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目次

プロとして活躍するフォトグラファーたちの軌跡

<BIOGRAPHY>
23歳 広告代理店退職
24歳 DRAWING AND MANUAL参加。助手として編集、企画を担当。映像制作に励む
25歳 フィルムディレクターとして初仕事
27歳 独立
現在に至る。広告やファッションフィルムを中心に活動中

FUTURE LIFE FACTORY by パナソニック-ThinkYourNormal(2021)

「ThinkYourNormalは、イキイキと毎日を過ごすために『生』と『性』について自問自答する機会を届けたい、というクライアントの想いからつくられた映像です。同性愛者やメイクをする男性、毛の処理をしない女性などさまざまな人の姿を通して、個“性”を育むことを目指していました。私自身ずっと生きづらさのようなものを抱えていたこともあり、自分を肯定されているようで、涙が出ました。この仕事が大きなターニングポイントとなって、自分も広告を通して、少しずつでも社会をアップデートしていきたいと考えるようになりました」。

自分の意思を持つことは絶対。でも、リーダーシップを発揮することより、素直に助けを求めることを大事にしている

BEAMS HOLIDAY(2023)

「写真に比べると映像はかかわる人数がすごく多い。その分、フィルムディレクターとして自分がこうしたいと思うものに対して、DOP(Director of Photography/撮影監督)をはじめ、他の人の意見がかなり加わりやすくて。でもそれこそが、映像の楽しさだと感じています。『いいものを』って、みんなで切磋琢磨することは、運動会的な楽しさがあり、やりがいにもつながります。BEAMS HOLIDAYの仕事も、楽しくてとても充実した仕事でした」。

海外に行くことは、気持ちをリセットするためにすごく大切な行為

メキシコ(2023)

「つくりたい作品のインスピレーションは、自分の生き方から生まれることが多いです。例えば昨年末、メキシコに行きました。旅行前は自分が挑戦してみたいことと年齢にギャップを感じていてネガティブになっていた。でもメキシコの人達は、固定観念に縛られることなく、自由に生きているように見えました。『独身』や『母親』などの肩書に縛られる様子もなく、年齢や立場を気にせずに新しい挑戦へと向かって行動していく印象を受け、すごくさっぱりした気持ちになれました。他の国の文化に触れることで気づきを得たり、自分の考えていることが明確になったりすることはよくあり、作品づくりにも生きています」。

アプローチの方法やトーン、ストーリー、キャストなどを決めるのがフィルムディレクターの仕事

+tmr(プラストゥモロー)公式ブランドムービー(2023)

「子供のころから、いつもどこかで社会になじめていないのを感じていました。私は頭がおかしいんじゃないかって、不登校になったことも。それが大学での授業で、日本のジェンダーに対するステレオタイプでつくられた概念を目の当たりにし、衝撃を受けた。社会不適合者のような目で見られ苦しむ人が、私以外にもたくさんいると想像しました。以来ずっと、根底には変わらない想いがあって、それは、“社会の概念をアップデートしていきたい”ということ。広告ならそれができるのではないかと考え、広告代理店を退職したあとは、アシスタントとして演出を学びながら、とにかく自分のリール制作に励みました。この仕事はつながりだけじゃ依頼はこない。見てもらえる作品があることがすごく大事なんです。フィルムディレクターの仕事とは、本当にさまざまな形態があるけれど、『こういうコンセプトで、こういうことをしたい』という依頼をいただいて、それを具現化していくこと。アプローチの方法やトーン、ストーリー、キャストなどを決めるのが仕事です。もちろん仕事なので、私の想いばかりはのせられません。でも、たとえば誰かを傷つけるような女性像を描くようなことを求められれば、何度も提案したり、アプローチを変えてみたり、苦しい作業ですが、通常の何十倍もの時間をかけて納得してもらうようなこともあります」。

自分が苦しんできた概念を変えられるかもしれない職業に、私は就いた

Yonex | Beyond What I See | Diede de Groot(2024)

「東京パラリンピック2020の車いすテニス 女子でも優勝した、世界ランキング1位のディーデ・デフロート選手を、彼女の住むオランダで、ドキュメンタリー的に撮影しました。ディーデ選手の、内側から発せられるような強さがすごくかっこよくて、見惚れながら現場に立っていました。全員海外のクルーで、すごく楽しい撮影でもありました」。

「一方で、用意された企画コンセプトや出演者の姿に、励まされたり感動させられたりすることもすごく多いです。今まで自分が苦しんできたことを、もしかしたらちょっとでも、ちょっとずつでも変えられるかもしれない職業に今、就いている。そして切磋琢磨できる仲間がいるって、本当に幸せなこと。生み出す苦しさは常につきまといますが、これ以上ないやりがいと楽しさを感じています」。

山口祐果 プロフィール

山口祐果

フィルムディレクター(映像監督) 大学卒業後、広告代理店に入社。退職後、2018年、DRAWING AND MANUALに参加。林響太朗氏の助手として編集、企画を担当し、2020年より広告やミュージックビデオなどの演出を担当している。大学時代にジェンダー問題の深刻さと問題解消の必要性を学んだことにより、既存の価値観を更新していけるような作品を生み出すことを目指している。

GENIC vol.70【プロとして活躍するフォトグラファーたちの軌跡】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.70

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