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【あれやこれやのポートレート会談】高橋伸哉×酒井貴弘×増田彩来

GENIC 読者の憧れの的でもある3名の写真家が集結。ポートレートについて、あれやこれや、話していただきました。
人を撮る理由から、それぞれの作品に対する想いまで。永久保存版の豪華会談です!

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高橋伸哉

写真作家 1972年生まれ、兵庫県出身。オンラインサロン「写真喫茶エス」主宰。
#shinya写真教室を毎月開催、「shinya写真塾」も開講中。著書「写真からドラマを生み出すにはどう撮るのか?」(インプレス)が発売中。
愛用カメラ:Leica M10-R、Leica Q2、Sony α7R IIIなど
愛用レンズ:Summilux-M f1.4/50mm ASPH.、Summilux-M f1.4/35mm ASPH.など

酒井貴弘

フォトグラファー 1986年生まれ、長野県出身。「私が撮りたかった女優展」への参加や、NGT48本間日陽1stソロ写真集の撮影など、俳優やアイドルの撮影に強みを持った活動を行いながら、これまでの形に囚われない新たなフォトグラファーキャリアを模索している。GENICにて「emergence」連載中。
愛用カメラ:Nikon Z 6II、RICOH GR III、Leica M(Typ262)
愛用レンズ:NIKKOR Z50mm f/1.8 S、Summilux-M f1.4/50mm ASPH.

増田彩来

写真家/映像作家 2001年9月12日生まれ。21歳。東京都在住。静止画の中に動を残すことを大切に、その瞬間を閉じこめたような写真が魅力の写真家。20歳になる節目のタイミングに、個展「écran [エクラン]」を開催し、来年1月にも写真展を開催予定。現在は、自主制作映画やMVの監督を務めるなど、映像作家としての活動も注目されている。
愛用カメラ:Nikon FM10、OLYMPUS PEN FT、NATURA CLASSICA
愛用レンズ:AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G

【あれやこれやのポートレート会談】高橋伸哉×酒井貴弘×増田彩来

PHOTO / 酒井貴弘

友達から言われた言葉で"数学的"から"文学的"な写真へ変化した―酒井貴弘

GENIC

ポートレートを中心に活躍する3名の写真家さんに、「人を撮る」ことについてお伺いしたくお集まりいただきました。元々お知り合いということではありますが…?

増田

私が初めて出展したグループ展のときに、一緒に開催した人とヒロ(酒井)さんが知り合いで、今度一緒に撮りにいきましょうよ、ってナンパしました(笑)。

酒井

あれってまだ高1とか?

増田

高1か中3ですね。

高橋

今何歳になったの?

増田

21歳になっちゃいました。

酒井

もう出会って5年以上経つのか。早いな~。

PHOTO / 高橋伸哉

美しく且つ、自分らしく撮る。その難しさが面白くて人を撮ることにハマっていった―高橋伸哉

人を撮り始めた理由

酒井

僕は趣味でなんとなくカメラを持ち始めたのが6年ちょっと前。そのときは風景写真が好きで、人は友達を撮るぐらいでした。濱田英明さんが好きだったのでPENTAX 67を買って、バックパッカー的にヨーロッパを旅して景色を撮って。その頃、友達に「写真の仕事があるよ」と誘われて、グラフィックデザイナーから転職して写真館で子供をメインに撮り始めたんです。その後SNSを始めたことをきっかけに、モデルを撮り始めたんですが、やっぱり子供を撮るのとは全然違って。それが楽しくてモデル撮影がメインになりました。SNSのフォロワーを伸ばしたかったのもあったし、他の写真を撮る余裕もなくて、とにかくひたすら人を撮ってました。

増田

人の写真のほうがSNSと相性がいいんですか?

酒井

僕的には、ある程度SNSを伸ばして、頑張った先に独立や仕事にしていきたいと思っていたので、ジャンルを絞っていった感じ。自ずとそうなったところもありますね。単純に人を撮るのが面白かったし、やってみたら好きだった、ってこともあるけど、SNS上でも「ポートレート」というジャンルで伸ばしたい、そういう仕事がしたい、ということは考えてたかな。

高橋

いつからか変わったよね?貴弘の写真って。初めから今みたいな感じだった?

酒井

2段階くらいあって、1回はコロナに入るぐらいの時期。友達から「貴弘の写真には"数学的な美しさ"がある。自然や海、空が綺麗みたいな感覚と似てて、"文学的な美しさ"ではない。血が通っている感じではなく、美しさを撮っているみたいな」って言われて、「なるほどな」と思って。どちらかと言うと「自分の理想とする画を撮るために人を撮ってた」感じがあったんですよね。そこに気付いてから、「その人自身を撮る」ということをもっとやってみようと。人と接する距離感だったり、写真の中にその人自身が見えたりしたらいいな、と思うようになりました。もう1回は、Leicaを使い始めたことです。

高橋

カメラを変えたことも大きいかもね。そういうきっかけってあるんだね、やっぱり。

酒井

伸哉さんって、そもそも写真を始めたきっかけは?

高橋

18歳くらいの頃に、付き合ってた彼女が写真好きだったという、めちゃくちゃわかりやすい理由で、趣味でフィルムカメラを持って。NikonのFM2だったかな?初めてファインダーを覗いたときに画角が映画っぽかったんですよね。映画が大好きなのでそこに惚れて。当時撮っていたのは日常の風景に人が入った、要は若者のときに誰もが撮るようなスナップ写真。ただ飲みに行っている写真とか。

GENIC

彼女さんを撮ろうとしてたわけではないんですか?

高橋

わけではないんですよ(笑)。36歳ぐらいからHasselbladでちゃんと人を撮り始めたから、ポートレート歴としては今15年ぐらいは経ってるかな。40代になってから、デジタルでガッツリ撮り出した感じです。

増田

人を撮り始めたきっかけは何かあったんですか?

高橋

30代前半に「ゆるゆる写真部」という活動の部長をしていて、部員の女の子をちょっと撮っていたら、人を撮る面白さみたいなものが出てきて。スナップって一番面白いけど一番簡単でしょ。撮りたい場面が、シャッターを切るだけで撮れる。でも人を撮るときは、「こうして、ああして」と必ずディレクションしてしまうんです。元々美しいものが好きだし、美しく且つ自分らしい雰囲気で撮りたいから。表情はもちろん、角度などで一瞬にして変わる美しい瞬間を切り抜く、その難しさがめちゃくちゃ面白くて、ポートレートをちゃんと始めた感じ。僕は事前に打ち合わせを一切せずに撮る男なので、現場のアドリブでいい瞬間を切り取る面白さにずっとハマってるんです。彩来はどうなん?

増田

さっきの伸哉さんの話に近いんですけど、私がカメラに惹かれた理由は、"ファインダー越しで見る世界"なんです。目の前の世界が目の前の世界じゃなくなるみたいな感覚というか。その世界を覗いているときに、写真が私に「好き」をたくさんくれることに気付いたんです。人間って気付けるか気付けないかだと思っていて。何があっても自分がどう捉えるかだと思うから、その捉え方とか気付きみたいなものを写真はたくさんくれる…というのが写真を始めた理由。私の写真はほとんど人がいたり、いないものでも誰かといた名残りが写ってたりするんですが、目的があって「人」を撮っているんじゃなくて、撮りたいから撮っている。私は人といる時間が好きだから、人を撮っているんだと思います。

PHOTO / 増田彩来

人を撮ることは「目的」じゃない。ただ好きなものを撮っている。それが人だっただけ―増田彩来

GENIC

寂しがり屋なんですか?

増田

どうなんでしょうね(笑)。ある人に「写真を撮る理由は、きっと写真よりも好きなものがあるからだ」って言われたことがあって、その通りだなと思ったんです。私の写真の中には人がいる。人を撮りたいというよりは、ただ写真を通す前から人が好きなだけ、ってことかなって。

酒井

写真を始めた頃から、自然に人を撮ってたということ?

増田

そう。感情が動く理由がそこだったというか。シャッターボタンを押すって当たり前の行為じゃなくて、何かしらの感情が動かないとシャッターって切れないと思うんです。その理由って、広く言えば愛なんだと思うんです。

愛、感情、シャッター

PHOTO / 増田彩来

見た目だけ綺麗な宝箱なんか撮っても意味がない―増田彩来

高橋

僕と彩来の考え方は似ているね。感情が動かないと、撮る気にもならない。感情が動いた瞬間に押してる。その場面場面が人によって違うってだけで。

増田

本当にそう。綺麗な人や美しい人はたくさんいるけど、自分が撮りたいと思う人は「あなた」だからだし。写真を撮っていて最近すごく思うのは、見た目だけ綺麗な宝箱なんか撮っても意味がない。そこの中身をちゃんと写せる人でいたいなと。

GENIC

いつも彩来さんのそういう言語化が素敵です!つねに写真のことを考えているんですか?

増田

めちゃくちゃ考えているかって言われると、考えているつもりで考えてないし、どうなんだろう。街を歩いていても、写真ってなんか頭にあります。何があっても"撮りたい"が一番に来るのは、相当好きなんだろうなとは思います(笑)。

変わっていくこと

高橋

羨ましくもあるよね。彩来の楽しいという気持ちは。今は仕事もたくさんしてるだろうから、純粋に撮ることを楽しんでいるときとはまたちょっと違う感覚にもなってるかもしれないけど、とはいえまだ21歳だから。好奇心旺盛さとかワクワク感というのは羨ましくもある。

増田

それは変化していくんですか?

高橋

変化していくよ。確実に人を撮るうえでもいろんな壁が来るよ、それは間違いなく。そこからどう変化していくのかを、遠巻きに楽しみにしているよ、僕は。

GENIC

伸哉さんが今お話しされていたことの真髄というのは、「撮ることが純粋に楽しい」という部分と、「仕事でいろいろ撮っていると楽しいだけじゃいられないときがある」、みたいなことを思ってきた、ということですか?

高橋

そうですね。例えば学生時代、自分の場合は20代、30代のときは純粋に楽しんでいて、衝動的に毎日写真を撮っている日々があった。でも今って、毎週のように写真教室や何かしら人と関わることがあって、撮っているときはすごく楽しいけど、ただ純粋に撮っていた20代の頃の感覚とは違う。正確に言うと、成長であるような気もしているんだけど。「伸哉さんの写真はフィルム時代のスナップ写真が好き」っていう人がめちゃくちゃ多い。でも、今の僕の代名詞といえば「情景ポートレート・情景エロス」だということは、どこかで自分の中での転機があって、そこにシフトチェンジしたってことで。何かしらのきっかけで、年代とともに変わっていくことはあるんだと思う。

増田

続けていくなかで、形が変わらないことってきっとないから。これから変わるのかなと思いつつ、今ですら始めた頃と同じかと言われれば絶対に違うし。その変化が自分の人生と並行して進んでるから、それはそれで面白いですよね。

高橋

これから人との関わりはどんどん増えていくじゃん。彩来は今から恋もいっぱいするでしょうし、いろんな出会いがあるわけですから。それによって写真は絶対に変わっていくから、そういう意味でも面白い。人生と並行していく、という彩来の言葉通りなんだと思う。

家族写真

GENIC

みなさん、家族写真は撮られるのでしょうか?あまり発表はされてないように思いますが。

高橋

僕、家族写真は撮らないんです。スマホでしか撮らない。でも、Hasselbladとかフィルムで撮ったら…面白いでしょうね。ある意味、家族写真って簡単になっちゃう部分があって、どんなアングルであろうが、子供が笑顔だったら100人中96人が「いい写真ですね」って言う。その感じも含めて、自分が撮る必要があるのかなと。まぁ、そこまでじゃなくても、もっと難しいほうへいきたいという想いに至ったかな。ドキュメンタリーよりも、演じたうえで周りを共感させるほうがはるかに自分にとっては難しいと思っているので、リアルに見せながら「この人の写真はなんかしら気配を感じる」というか、そこに持っていくことのほうがすごいと思う。そういうわけで、家族写真は撮らないんです。もし撮っていても、世の中には絶対に出さないですね。

酒井

僕は別に撮らないわけじゃないんです。作品として撮って世に出せるなら全然出したいですけど、撮れないんです。家族写真をちゃんと自分の作品として残していたり、自分の満足いく写真として出したりしている人ってすごい。たぶん写真に対しての考えとか、価値とか役割が違うのかなって。この間、子供の運動会があって、200mmのレンズで最前列から撮りまくったんです。

高橋、増田

おおおおおー!

酒井

(笑)そういうのは全然撮りたいし、子供が可愛いなと思って撮るんですけど、モデルを撮るのと違って自分のために撮るという感覚が強い。世に出そうみたいなことが頭に入ると、単純に子供の写真が撮れなくなって嫌な気持ちになる。うまくいかないと「くそー!」みたいな気持ちになって、思い出のために子供の写真を撮っているのに、そうなっちゃうのが嫌で。みんな自分の中で写真の位置づけみたいなものがあると思うんですけど、モデルや誰かを撮っているときは、半分は自分のため半分は誰かのなにかの目的のため、として撮るのが自分としては自然で。家族を撮るのは、単純に自分を含めた家族のためだけなんですよね。LINEにアルバムを作っていて、フィルムやiPhoneで撮った子供の写真を入れているんですけど、この間、夜公園を散歩しているときに久しぶりに見返したらちょっと涙が出ちゃって(笑)。センチメンタルな気持ちになりました。そうやっていろいろと思い返せるから、大切さはもちろんわかるし、撮ることは撮るんですけど、それを世に出そうとは考えていないですね。同じ「人」ではありますが、僕はモデルを撮ることとはまったく感覚が違うんです。彩来ちゃんはどんな感じなの?遊んでいるときとかに、「みんな~写真撮るよ~」とか言ってよく撮っているでしょ。それって、どんな感覚なのかなって。

記録と作品

PHOTO / 高橋伸哉

増田

う~ん…。そうですね、私のなかで記録としての写真と、作品としての写真みたいなものは近いんだけど分かれていて。撮りたいがための写真と、ある意味その後を見てる写真。撮りたい感情に素直でいたいなと思っていて。撮りたいって感情は何かしらで心が動いているからで、それは「いいな」と思ったのか、逆に「嫌だった」のかもしれないし。どちらにしても、私の中で最初に来る感情は明らかに「撮りたい」なんです。悲しかったら撮りたいし、嬉しかったら撮りたいし、みたいな。だからそれが作品でも記録でも、それ以上に「私が撮りたいんだから撮るんだよ!」という話で(笑)。撮りたいという感情は自分がこうしたいと思うことだから、そこに対しては素直でいたいし、そこには逆に目的も何もないから…。

GENIC

2020年の『"好き"を撮る』号に出ていただいたときも、「作品写真と思い出写真というのはちょっと違いがある」みたいなことを話されていましたね。

増田

大きな軸は変わっていないんですが、最近はそこって近いのかもとも思ってて。ずっと一緒に撮り続けている人がいて、その人を撮った写真は作品なんですけど、でもある意味記録だと思うこともあって(※編集部注)。前にインタビューしていただいたときからちょっと変わっているとしたら、区別しているのは変わらないけど、切り離せないものだなとも思うようになったことかもしれません。

※編集部注:【記録と記憶-ドキュメンタリーポートレート:6】増田彩来

GENIC

記録って積み上げることによって、作品的になることもあると思うんですがそういうことなのでしょうか?

増田

結局作品なのか、記録なのかは、自分がどうあってほしいかだと思うんです。写真を撮り続けたときに、その一枚に対する自分の思いは過去分も乗る。例えば2度目に撮った写真だったら、前回の思いが自分の中で写真に乗った「重み」になるみたいな。だから作品になるのかなって。「記録」、「思い出」、「作品」、いろんな言葉に写真を当てはめますけど、結局全部同じなんだとも思うんです。自分が愛してるかどうか、それだけな気がする。写真家をしているうえで、その愛を捨てたら終わりだなと思います。

お互いの写真について

PHOTO / 酒井貴弘

関係や状況で写真がどう変わるのか。いつか、誰かを撮り重ねていってみたい―酒井貴弘

高橋

情熱的なときって、一番輝いてるじゃないですか。今の年齢の彩来にしか撮れないものを撮っているから、僕らには撮れないものなんですよね。15歳から写真をやってて、それを世に出していって5年間続けているというのは、本当にすごい。その情熱と彩来にしか撮れない今の作品は、すごくみんなを魅了するんだろうなと思います。

増田

わ~!すごい嬉しいお言葉を!

高橋

俺とか貴弘にはもう撮れないよね、そういうのは。

GENIC

酒井さん、同じ年代にされてますけど大丈夫ですか(笑)。

酒井

カテゴリーとしてはそうじゃないですか(笑)。ただ、僕は落ち着くところまではまだいってなくて、その前段階の悶々としてるところですけどね。「そのときしか撮れない」っていうのも、やっぱり感覚は鈍っていく気がするんです。周りがどうとか、環境とか年齢のせいではないこともありますけど、単純に高校時代に聴いた音楽とか、若いときに観た映画のほうが記憶に残っていて、それに触れるだけで全部思い出す感覚ってありますよね。そこに全部感情が詰まってるみたいな。そういうのが彩来ちゃんにはありますよね。前に「感情を撮りたい」みたいなことを言ってたし。感情で撮ってるのが魅力なのかなと思いますね。

増田

私しか、今しか撮れないっていうのはすごい嬉しい!そのうえで、私から見たおふたりはやっぱり今のおふたりにしか撮れないもの撮ってて、すごく好き。「今見ているものはあなたにしか見られないもの」で、「自分にしか見られないもの」。そこを大切にしている人の写真はすごく輝いてる。だから、私はそういうおふたりの写真がすごく好きです。

高橋

愛ですね。

理想、希望、渇望

酒井

愛です。さっき、彩来ちゃんがひとりを毎月撮り続けている話がありましたけど、伸哉さんは、そういう時期ってあったんですか?

高橋

それはなかったな…。それって一番難しいよね。ずっと撮り続けている人がいる、というのはすごく羨ましい。

酒井

一度はやってみたいですよね。

GENIC

家族みたいな対象ではやり得ない?

増田

「作品を作るうえで」ということですよね。自分と一緒に景色を探してくれる相方みたいな。

酒井

そうなんだよね。

高橋

これは僕に限らず、自分の年代の人たちのプロの写真家からよく聞くんですが、そういう人は全然見つからない。下手したら一生見つからないですよ。僕はそういう結論に至ったんです。

GENIC

それはどうしてですか?

高橋

きっと一生見つからない理想像を探しているから。家族写真はリアル。真実はダメなんです、自分の作品の中では。あくまで、見た人がドキッとするような、ざわつく魅力のある写真を撮りたいので、そうなるとそれを継続するのはすごく難しい。「撮ってください」という人がいたとしても、その人を撮り続けたいかと言うと、なかなかそうは思えなくて…。永遠の悩みですね。

GENIC

同じ人を撮り続けてみたい理由はなんでしょうか?経年による変化ということではなくて、同じ人だからこそできることがあるということですか?

高橋

そうです。すごく難しいんだけど、例えば半年間同棲してその生活の記録を撮るとか、そういうことをやりたがりがちなんですよ、写真家って。

GENIC

関係値が近くなっていくことによって、撮れるものが変わると?

高橋

そこが究極に難しいところで、被写体を惚れさせないといけないぐらいの勢いで。それぐらいの関係性で密に撮っていきつつも、こっちは完全に写真家という立場で撮りたいという、ね。一生見つからないそういう理想を探してる。そういう意味でも、家族写真を撮ればいいんですけど、それだと真実すぎてダメという、一番難しいところなんです。

酒井

関係性が変わるからこそ見える写真もあると思うんですけど、その状況によって雰囲気が変わったり、記録的なものが入ったりするのも大きいと思いますね。そういうことが重なった写真を撮ったことがないので、単純にやってみたい。ただ、そこまでを重ねてやりたい意欲や、撮りたいと思う興味がずっと続く人に出会えてはないですね。

高橋

ないものねだりですよね、完全に(笑)。撮り続けてる人を尊敬しているし、彩来みたいに毎月撮れる人がいるというのは、羨ましい。すごく大事だと思う。

撮り手と写り手の関係

PHOTO / 高橋伸哉

僕と彩来は似てるね。感情が動かないと、撮る気にもならない―高橋伸哉

酒井

人を撮るときに、全然噛み合わない相手なことってあると思うんですよ。例えばコミュニケーションが取れなかったり、その場に立ってもらっていろいろ試すんだけどいい感じにならなかったり。本当にどうしようもないときに、みなさんはどうしていますか?

増田

写真に関係なく、人って合う合わないってあると思うんですよね。生きているうえで相性がいい人間と、全然合わない人間って確実にいる。ポートレートって撮り手だけで成り立つものではなくて、写り手がいて成り立つものだから、同じものを見ていなかったら、その人を撮ること自体が成立しない。でも、相性が合わないというのもまた面白いところだなって。そのうえで何を撮るかを見つけるのは楽しいと思うんです。そのなかで今日何を見て、何をお互い感じて、何を話して、どういう時間を過ごそうか、何を残そうか…と考えてみる、ということな気がしています。

酒井

伸哉さんは誰でも撮っているし、いろんな人がいてもある程度伸哉さんカラーに、情景エロスになりますよね。美しい人を撮るというよりは、どんな人でも作品として成り立たせているから、そういうテクみたいなものがあるんですか?

高橋

貴弘の質問は難しいんだけど、未だかつて噛み合わないと感じたことがほぼないんですよ。はじめましての人ばっかりを撮っているけど。それはもう昔からだからね、難しい。

酒井

伸哉さんは「ええやん!ええやん!」ってずっと撮ってますよね。

高橋

そうそう、自己肯定感を上げまくるっていう作業しかしていないから(笑)。

酒井

僕はそこまで出来ないんですよね。もちろん「いいな」って思ったときには「いいな」ってなるんですけど、ずっとその感覚でいられるのがすごい。

高橋

人には撮れない顔を引き出すために、会った瞬間から終わりまで、とにかくひたすら、延々に褒めちぎってます。そしたらめちゃくちゃ女の子の表情が変わってくる。話すのも得意だから、あんまり撮りにくくなることがないんです。特に困ることはないんですよ(笑)。

酒井

「ええやん」っていい言葉ですよね。

GENIC

関西弁は、そういうところが羨ましいですよね。今回、3人で対談していただいて、写真家さんそれぞれ個性があるから、いろいろな写真があるんだな、と改めて実感しました。とても面白かったです!お忙しいなか、ありがとうございました。

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GENIC vol.65 あれやこれやのポートレート会談
Edit:Izumi Hashimoto

GENIC vol.65

GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。

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