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【記録と記憶-ドキュメンタリーポートレート:6】増田彩来

目の前に人がいれば、何かが起こり、心は動く。撮らずにはいられない衝動を、記憶にとどめたい瞬間を、ありのままに記録するドキュメンタリーポートレート。それぞれの視点で、さまざまな表現で、誰かの人生の一瞬を切り取る6名の写真家とその作品を紹介します。
6人目は、"一緒に過ごす時間"を写し出す写真家・増田彩来さんです。

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増田彩来

写真家・映像作家 2001年生まれ、東京都出身。静止画の中に動を残すことを大切に、その瞬間を閉じ込めたような写真が魅力の写真家。20歳になる節目のタイミングに、個展「écran(エクラン)」を開催し、来年1月にも写真展を開催予定。現在は、自主制作映画やMVの監督を務めるなど、映像作家としての活動も注目されている。
愛用カメラ:Nikon FM10、OLYMPUS PEN FT、NATURA CLASSICA
愛用レンズ:AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G

山田ジャンゴ

俳優 1996年生まれ、北海道出身。映画やドラマ、MV、雑誌などで活躍。増田彩来による初めての中編映画『ブルーバーズの詩』では主演を務めた。

アイツとワタシ

撮りたいって思った。撮り続けたいって思った

side Sara「出会いは2020年1月、私の自主映画のオーディションだった。ただ、ジャンゴを"撮りたい"って思って選んだ。みんなで話し合いながら進めていくうちに、"撮り続けたい"って思うようになって、以来、月1で撮影をしている」。

side Jango「彩来がシャッターを切るタイミングは心地よくて、最初からフィーリングが合っていた。写真には新しさが感じられて、撮影にのめり込んでいく感覚が俺にはあった。自分の表情や、その場所で何を拾ったらどんな写真になるのか、探して見つけていく訓練になっていた」。

side Sara「それでも1年目は、理由や意味は求めていなくて、ただ楽しくて、撮りたいから撮っていた。大きな変化があったのは、2年目。きっかけは、ジャンゴの撮影前日に恋人から別れを切り出されたこと。写真なんてどうでもいいってなるほどキツかった」。

side Jango「今日は行けないって連絡が来たけど、やっぱり撮る、と。彩来は泣きながら撮っていた。でも、そこから撮影は変わった。苦しくても撮る、何があっても絶対に撮るってなっていった。その翌々月は、はじめて都内を離れて、阿蘇に行った。最終日、氷点下の森林で、ヌードを撮ってほしいと伝えた」。

"近すぎる"関係は、互いの自己中で成り立っている

side Sara「すごくよい作品になった。阿蘇では、いろんなことを話した。今苦しいことは何か、嫌なことは何か……睡眠も足りてなくて、寒くて、極限状態の中で限界まで撮った。自分たちが出せるもののすべてを出し切った撮影が阿蘇だった」。

side Jango「その時から、撮影は自分のことを立ち返る場所になった。写真には生きてきた自分が出るから、1ヶ月何もしてこなければ変化はなくて、お互いもそれに気づく。いろんなことをがんばらないといけないし、がんばる理由になっていった」。

好きとか嫌いとかじゃない、これは愛。シャッターを切るって、大げさじゃなくて愛だから

side Sara「阿蘇を終えて次何するか、じゃあ毎日撮ろうって。やってどうなるかなんてわからなかったけど、やるしかない、と。同じ部屋で、同じ服を着て、同じろうそくを灯して、1日1時間ずつ1ヶ月、31時間」。

side Jango「それは決して、"二人でやろう"ということではなかった。なくなっていくろうそくの儚さや切なさに、自分は毎日1時間どう向き合って、表現していくのかというのを考えていた」。

ジャンゴの見る景色を信じてるし、その目に未来を見ていきたい

side Sara「私はそれをどう撮って、どう残すのか、感情に合わせて切り取るってどういうことだろうって考えていた。毎日向き合うってすごく苦しい。でも何もない部屋でジャンゴだけを撮っていく中で、美しいなって強く思った。ちょっと先に個展を控えていて、作品のテーマは〝未来〞だった。人に聞かれた『未来って撮れると思う?』という問いに、私のたどり着いた答えは『できる』だった。相手の未来を想像して撮っていくことは、未来を撮っていることになるのではないか。私はジャンゴの見る景色を信じてるし、その目に未来を見ていきたいと思った。だから自分の未来を切り取るなら何を撮るかと考えたときに、ジャンゴの目を撮ることにした」。

side Jango「個展を終えたその年の12月、彩来に強く後押しされて、北海道の実家へ帰った。俳優として成功するまでは帰らないと決めていて、上京してから5年経っていた。誰か連れて帰るなんて想像もしてなくて、彩来とそこまで行っている、行ってしまっていることに、俺らがやってることの深さを見た」。

ずっと探していく。これは生きることそのもの

side Sara「作品と記録の境目って、あるといえばあるし、ないといえばない。一人の人を撮り続けていく中で、阿蘇のような作品があって、その作品があるから、じゃあその人が生きていく分岐点を撮らなくていいかっていうと、それは違う。実家に向かう道中で泣きそうになってる顔とかも、ちゃんと残したいし、見ておきたいと思った。薄っぺらくなっちゃわないように、すべてを含めて、深く見たいし、残したい」。

side Jango「生きていても残らないものを、無理やり残している。俺たちがやっていることは、生きているだけなのかもしれない」。

side Sara「探し続けているし、生き続けている。一生撮り続けるって本気で思ってる。でないと、ジャンゴを未来になんて当てはめなかったと思うから」。

増田彩来 Instagram
増田彩来 Twitter
山田ジャンゴ Instagram
山田ジャンゴ Twitter

GENIC vol.65【「記録と記憶」ドキュメンタリーポートレート】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.65

GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。

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