増田彩来
写真家/映像作家 2001年生まれ。東京都在住。2021年9月、20歳になる節目に個展「écran [エクラン]」開催。11月、「渋谷芸術祭」公式プログラム「渋谷ストリートギャラリー」にて、作品「深呼吸の在処」を掲載。さまざまなジャンルの方との企画【saramasuda photo relay project】so much moreを開始。写真家として企業広告、アーティスト写真などのスチール撮影を行うほか、映像作家としてアーティストのMVの監督を務めるなど、活動の幅を広げている。
愛用カメラ:Nikon FM10、OLYMPUS PEN FT、NATURA CLASSICA
愛用レンズ:AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G
肌は生きている
人間という生きものとして肌にフォーカスする時、そこに自分の感情を写し出すことで、弱さも脆さも愛せるようになる
「自分の中で大きかったものを失って、すごく苦しくて、全部壊したい、何もかもが嫌だと思っていた時の写真。壊せるものなら何でもいいという感じで、目の前にあったドライフラワーを使いました。誰かに見せるつもりはまったくない状態で撮った写真ですが、今ではとてもお気に入りで、見てほしい作品に」。
「目はすごくその人自身が出る部分なので、この写真は“あなた”を“あなた”として撮ったものです。人を表す時に目という要素が一番強いなと思っていて、目を撮ってしまうと、“その人”と認識して撮っている感じがします」。
水のように変化する、生きている素肌が好き
payuさんと展示『氷晶』を行った時の写真。被写体は全員同じ黒髪ボブで、顔を見せないという条件で撮影。
「どんなに顔が見えなくても、同じ髪型でも、少しずつ違っていて。人間を生きものとして捉え、造形や肌など、顔が見えないからこその美しさというところを意識しながら、誰かに見てもらう前提で、テーマに沿って撮った作品です。水がとても好きなので、たとえば人が水に沈んでいく、本当に短い時間の、瞬間の美しさにも惹かれます」。
時間とともに枯れていく花が素肌に宿る“生”を感じさせる
情報量を全部削ることで、撮り手の感情を写し出す
「素肌やヌードを撮る時に思っているのは、要素になるような情報はいらないということ。洋服もモノも全部、情報になるじゃないですか。私の場合、ヌードを撮りたいのではなく、結果としてヌードになるというか、その“形”だけでいいと思うので、顔も写さないことが多いです。人として写すと、どうしてもその人が写るから、逆に人を人として見ずに切り取ることで、すごく自分の感情を写すものになります」という増田さんは、気持ちが沈んだ時にヌードを撮りたくなることが多いそう。
「マイナスの感情の先って、すごく美しいと思うんですよ。たとえば誰かと何かがあって、一緒にいられなくなって、苦しかったとしても、その感情が作品になるなら、その人と出会えてよかったと思えるんです。でも悲しみの原因になった誰かをもう撮ることはできない、何かで表現したい、となった時に撮りたいと思うのがヌードで」。
増田さんにとってヌードを撮ることは、一種の浄化作用。
「私が最終的にシャッターを押すのは、その瞬間を愛しているから。そういう意味で、撮った瞬間、苦しい感情をも愛せるのだと思います。撮ることで、すべての感情を愛せる。悲しみも辛さも写真にさえできたら、それだけで救われて、前に進めますね」。
温度がある、時が流れている素肌の、美しい表情を切り取りたい
植物と人間の1週間を追った作品。
「ある人からいただいた花がとても大切で、変わっていく様子を撮りたいなと。人と撮ったらより美しいと思って、同じ人と花を撮り続けました。1週間で人間の変化はわからない、でも切り取られた花は枯れていく、その時間の流れ方の違いを表現したくて。植物を軸に撮っています。静止画の中に“動”を詰め込みたいというのはずっと思っていることですが、広い意味でいうと、自分の中で“時間”というものが写真のテーマなんだと思います」。
「人を生きものという枠で見た時は自分の感情を写そうとすることが多いですが、目の前にいるあなたとして撮る時は、肌のきれいさはもちろん、パーツの美しさ、形の可愛さに惹かれます」という増田さん。
GENIC Vol.56「“好き”を撮る」の表紙、チェリーをのせた膝の写真は彼女の作品。
「素肌を撮る時、人の形が出るのが好きで。形としてきれいなパーツやここの形が好き!と思った瞬間を私なりの視点で写しています。表紙の写真も、膝の形が可愛いなと思って撮ったもの。見方によっては膝に見えないのも面白さですね。また、光の当たり方によって表情が変わるのも素肌の魅力。美しいと思ったところ、美しいと感じた瞬間を切り取っています。素肌って、植物の葉を美しいと思うのと同じで、“生”を感じるんですよね。人の肌には温度があって、時間が流れている。生きているところがすごく好きです」。
GENIC vol.62 【印象的な「肌」の世界】
Edit:Yuka Higuchi
GENIC vol.62
テーマは「素肌と素顔を写す」。
人の美しさを大切に写しとった「素肌」と「素顔」の世界をお届けします。「性」ではなく「生」を感じる、神秘的で美しい森に迷い込んでしまったような写真たちと、そこにある撮り手の想いに迫ります。