美しい人たち
ポートレート写真とは、鏡のようなもの。被写体を通して、僕も写っている。
今回の写真は、すべて上野公園およびその周辺で撮影。「コロナ規制が緩和されて多くの花見客が行き交う中で、道の真ん中で正座しながら“鬼ころし”を飲んでいた姿が微笑ましくて撮影」。
「撮影のために10年上野公園に通っていて、射的の出店を見たのは今年が初めて。着物姿で働く女性が気になり、男の子も含めて記録的に撮影しつつ、お姉さんのポートレートになるよう心がけた一枚」。
「僕が思うスナップ写真とは、計算せず、考えるよりも先に『ふっ』と思った時にシャッターを切って、自然な形や雰囲気の中で撮影されたもの。その後に現像しプリントした写真を見返すと、いろいろな偶然性が入り込んで、自分の意図しないものが生まれるところがスナップ写真の面白いところだと思います。そしてポートレート写真とは、鏡のようなもの。カメラを通じて被写体を撮影しますが、被写体は撮影している僕を見ているので、必然的に、写真には僕も写るわけです。鏡のように写る割合は、半分のハーフミラーくらいがちょうど良いかな、という感じ。あまり何かをさせたりとかせず、素直に被写体に向き合う。それを続けて、いっぱい撮影して、その写真を何度も見返す。その行為を大事にしていくと勝手に自分が写って、自分らしい写真が撮れていくと思います」。
路上ポートレート撮影を通して、人々との繋がりを感じている
「珍しく東京で大雪が降る日は、あえて必ず上野の路上へ。僕以外は誰もお客さんがいないのに頑張っている大道芸人を、演目後に撮らせてもらった。フラッシュ一発!」。
「遠くから見ても魅力的だったタイ人の双子さん。2人がアンバランスなポーズをしつつも、ちゃんとカメラを見ている点がお気に入り」。
「写真の専門学校に通っていた頃から、路上でいろいろな人に声をかけてポートレート撮影をしています。被写体を見つけるには、ひたすら歩くのみ。いつも同じようなエリアで撮影するので、この時間帯はどこの光がきれいか、どの辺に人が多いかなどわかっているため、その経験を生かして常に動いています。良い人、良い場面がなければ次のところに動く。ひたすら、その繰り返しです。大切にしているのは、礼を尽くして相手が不快にならないよう、尊敬の心を持って撮影すること。撮った写真を見た時にぞわぞわする感覚になることがあるのですが、そんな言葉にできないイメージに出会った時に喜びを感じます。写真を通して人々との繋がりを感じる、路上でのポートレート撮影に魅了されています」。
いろいろな偶然性が入り込んで、自分の意図しないものが生まれるのが面白い
「1人で花見しながら自撮りしていた女の子。後ろの女子高生の集団など、いろいろな人が背景に写るのが面白くて、この画角を選択」。
「東北から出稼ぎに来たという人。足のムカデの刺青と、表情がわかるアングルを意識」。
「年に数回開かれる上野骨董市で、着物の出店に来ていたお客さん。割れた姿見をガムテープで補正しているのが上野らしくて、ここに映ってもらった」。
「七五三で訪れていた家族。3人の関係性がよく出ていると思い、お気に入りの一枚」。
「公園で花を生けていた男性。話しているうちに、亡くなったお嫁さんと現役バリバリで働いている息子さんたちの家族写真を見せてくれた」。
淵上裕太
フォトグラファー 1987年生まれ、岐阜県出身。スタジオ勤務を経て独立。2016年より上野界隈に集まる人々を撮影した『路上』シリーズを継続的に発表。東京都写真美術館にて、『見る前に跳べ 日本の新進作家 vol.20』の出品作家の1人として展示(2024年1月21日まで)。2023年10月20日に新刊写真集『上野公園』を刊行。
愛用カメラ:PENTAX 67 / 645Z
愛用レンズ:smc PENTAX 67 90mm F2.8 / D FA645 55mmF2.8AL SDM AW。
GENIC vol.69【街で出会った人を撮る】
Edit:Satoko Takeda
GENIC vol.69
1月号の特集は「SNAP SNAP SNAP」。
スナップ写真の定義、それは「あるがままに」。
心が動いた瞬間を、心惹かれる人を。もっと自由に、もっと衝動的に、もっと自分らしく。あるがままに自分の感情を乗せて、自分の判断を信じてシャッターを切ろう。GENIC初の「スナップ写真特集」です。