SNAP PORTRAIT
その人が見ているのはカメラではなく僕自身。相手を敬うことで、それに応えた表情を向けてくれる。
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「1981年にロンドンの地下鉄で偶然見かけ、撮らせてもらったミュージシャン、ジョー・ストラマーの写真は、ファンたちの間で今なお、“拝む”写真として残っていると聞きます。それはなぜなのか。きっと、ステージでのパンクな姿とはまったく異なる、彼本来の優しさに満ちた人間性が写し出されているから。相手を敬い、謙虚に丁寧に向き合うと、それに応えた表情を人は見せてくれる。そういう経験は幾度となくありました。相手へのリスペクトは写真に反映されるものですね」。
撮って終わり、ではないからこそ生まれるその先のストーリー。
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「ロンドンに住んでいた70年代の頃から現在に至るまで、相手に許可をとってから撮影するのが僕のやり方。自分に興味を持ってもらえると、相手の瞳の色が変わっていく。カメラマンって、すごく見られているんですよ。また、声をかけたことで生まれた小さな関係が、後にずっと続いていくようなことも度々経験してきました。『写真を撮らせてもらってもいいですか?』の一言から、僕の初恋が生まれたことも。いいバイブレーションの行き来が生まれるのでしょうね」。
写しているのは生きる希望と人々の再生
人に生きる勇気を与えてくれる。そういう力が内包されている写真は、ずっと残っていく。
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「天台宗の開祖である最澄の言葉に、『一隅を照らす、これすなわち国宝なり』というものがあります。僕が写しているのもまさに、人間の生きる本質、すなわち“希望”や“再生”です。人はそれぞれに自分の持ち場があり、どんな仕事や境遇であっても、ひたむきに努力して生きている人は本当にいい表情をしている。人が持つ強さや美しさ、真心が、写真を通して他の人にも伝播し、社会、ひいては世界全体がポジティブになっていったらというのは、僕が常々目指していることです」。
僕の持ち場、やるべきことは、立ち上がる人々を賞賛すること
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「僕のスナップ写真は、街中で見かけた人にちょっと声をかけて、彼らがどうぞとなってから撮っています。声をかけてしまったから相手は意識もしているし、その地点でポートレートの世界に半分足を踏み入れてはいるんですよね。光のいいところに若干移動してもらうこともあるし、でも相手は何だろうと思いながら撮られているスナップ写真でもあり、そういう曖昧なところをミックスして、自分の作品を“スナップポートレート”と呼んでいます。とはいえ、モデルさんを連れてきて撮るというのとはやっぱり違くて、いかに自然体を残すか、その人が持つ美しさや強さに目を向けるかを大切にしています」。
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「東日本大震災の後、被災地を度々訪れ、被災された方々を撮りました。その時に避難所で撮影した女性から、何年か経って、巡り巡って連絡をいただいた。『写真集に私がいて、笑っていたんです。あの状況の中で、私は笑っていた。自分は強い人間なんだと自信を持つことができました』とおっしゃるんですよね。災害があったり、戦争が起きたり、つらいことはたくさんある。それでも立ち上がる姿を賞賛する。それが僕の“持ち場”だと思っていて、そうして撮った一枚の写真が、社会全体がポジティブになるきっかけとなってくれたら嬉しいですね」。
希望を撮り続けているのは自分が欲していたから
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「生きる希望や人々が再生する姿を撮りたいと思うのは、他でもない、僕自身が希望を欲していたから。僕は生まれて2か月半で結核性カリエスを患い、常に腰に痛みを抱えた状態で、コルセットが手放せない暮らしを送っていた。体育の授業に参加したこともなかったし、仲間に入れてもらえなくて、遠足では皆から少し離れたとろこで母とお弁当を食べているような子ども時代でした。それが、10代の終わり頃、医師から『骨もだいぶ固まってきて、無理な運動をしなければ生きられそうだ』と言われました。その時に初めて生きる希望が生まれて、喜びに満ちたその感情こそを、これから始まる第二の人生のテーマにしようと思った。僕より少し先輩の牛腸茂雄さんは、同じ病気を患い、36歳の時に亡くなっています。彼の作品は子供たちがポツン、ポツンと写っていて、生きていく者と死んでいく自分という目線なんですよね。距離があって、両者の間を川が隔てている。それが僕の場合、川に橋が架かった。僕の写真や撮り方は、その子たちのもとに駆けていって、“一緒に生きよう”っていう声かけなんだろうと思っています」。
写真は正直なものだから。リアルであることにこだわっている。
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「映画や演劇など、世の中には作られたものがたくさんあって、それらはプロフェッショナルな仕事で巧妙に作られている分、観る人はひどく感動もするでしょう。対してスナップ写真というのは、美化はせず、現実にある世界を捉えたドキュメンタリー。でも時に、フィクションにも勝る“本当にこういうことが起きるんだぜ”っていう事実があって、それこそが面白いと感じています。リアルであることにこだわり、レタッチやトリミングもしていません」。
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ハービー・山口
写真家 1950年生まれ、東京都出身。中学2年生の時に写真部に入る。1973年、東京経済大学卒業後渡英。10年間の滞在中、パンクロックからニューウエーブに移行するエキサイティングな時代に遭遇し、多くのアーティストと交流。ロンドンでの写真が高い評価を受け、写真家としての礎を築く。写真のほか、エッセイ執筆、ラジオやテレビのパーソナリティ、作詞など活動は多岐にわたる。2011年度、日本写真協会賞作家賞を受賞。『LONDON AFTER THE DREAM』『LONDON Chasing the Dream』『代官山 17番地』『and STILLNESS』『HOPE 空、青くなる』『1970年、二十歳の憧憬』など写真集多数。
GENIC vol.69【SNAP PORTRAIT】
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.69
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1月号の特集は「SNAP SNAP SNAP」。
スナップ写真の定義、それは「あるがままに」。
心が動いた瞬間を、心惹かれる人を。もっと自由に、もっと衝動的に、もっと自分らしく。あるがままに自分の感情を乗せて、自分の判断を信じてシャッターを切ろう。GENIC初の「スナップ写真特集」です。