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1杯の白湯からはじまる愛しき日々 木本日菜乃 | 連載 Life is Beautiful. 私の愛する暮らし

連載「Life is Beautiful. 私の愛する暮らし」。
大好きな場所で毎日を丁寧に過ごしながら、日々変わりゆく光や機微をすくいあげ、写真に写す──。自身の暮らしを愛する写真家やクリエイターたちが、日常の中で心動く瞬間とは?すぐそばにある美しさに気づくことの大切さを学びます。
全8回の連載、第7回は、写真こそが私の暮らし、という写真家の木本日菜乃さんです。

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目次

プロフィール

木本日菜乃

写真家 1994年生まれ、東京都出身。大学で幼児保育を学び、卒業後、株式会社アマナを経て2020年に独立。フリーランスの写真家として活動中。第50回APAアワード2022写真作品部門に「光の部屋」で入選。
愛用カメラ:CONTAX T2、CONTAX RTS II QUARTZ
愛用レンズ:Carl Zeiss Planar 50mm

1杯の白湯からはじまる愛しき日々

日々生きていて大事にしていることは、自分のペースで物事を考えたり、感じたりすること

「毎朝、起きてまずすることは、お湯を沸かすこと。1日の最初に口にするのは白湯。グラスに入った白湯と湯気を見ながらゆっくり飲むのが好きです」。

「洗濯物をしまうのは苦手なのですが、干すのは好き。気持ちよさそうに干されている洗濯物を見ることは、暮らしのなかで好きな時間です」。

「植物も好きで、家に飾っています。たわいもないものであっても、暮らしの写真は自分が今、ここにいるということの証だと思っています。自分の目の前に存在するものは、そこに自分がいることでしか存在しません。誰かのためではなく、限りなく自分のために、暮らしの写真を撮っていると感じます」。

「料理をしている時間が好きで、基本的に毎日自炊をしています。そんななかで、何気なく撮った2枚です。私は日常的に写真をよく見返しています。だいたいは撮ったときのことを覚えていますが、たまに『そこね、そこを撮ったんだね。良いじゃん』と一人で思ったりしています」。

いくらでも見過ごしてしまう美しい瞬間がそこに在って。それこそが、暮らしの素晴らしさだと思う

「家族と過ごす時間は自分にとってとても大切なことです。姪っ子たちの存在は光そのもの。とはいえ、どんなに大切な家族の存在があっても、人は皆孤独な存在だとも考えています。だからこそ、みんないろいろな手段でこの世界と自分とのバランスを保っている。私にとって自分の暮らしの写真を撮ることは、この世界とのバランスを取る手段のひとつでもあります」。

機微を楽しむことが暮らしていくということで、写真を撮る理由は、その小さなゆらぎや光をただ見たいと思うから

「山が好きでよく登りに行きます。でも、山にいようと家にいようと、どこにいても気になって見てしまうところはあまり変わらないと感じています。それよりも大切にしているのは、自分の目で見ること、そして自分の感覚に素直になることです」。

「何でもない原っぱを撮ることが好きです。それが何であるかということではなくて、言葉になるよりも前のとてもあいまいなものってありますよね。そのあいまいさが写っているなと自分で思えたとき、それが自分らしさであり、自分らしい写真だと思っています」。

「暮らしのなかでとくに撮ることが多いのが、空です。部屋にいるときも、電車に乗っているときも、歩いているときも、隙あらば空を見ています。単純にきれいだなと思ったときに撮っているけれど、実際はもっと早く、きれいだな、美しいなという感情よりも先に、心をゆらすものが生まれた瞬間に体が動いていて。そうした瞬間に出会うと、じっとしていられないタチなんだと思います」。

まず暮らしがあって、その一部として写真がある

「暮らしにおいて、私は自分のペースで物事を考えたり、感じたりすることを大切にしています。誰かと話をしている最中であっても、良い光を見つけたら、一旦会話を止めてまでもその光を見てしまいたくなる。かなり自分勝手ですが、見て感じることを大事にしたいと思っています。その日食べたいものを自分で作って、うまく行かないことがあったら、音楽を聴きながらよくわからなくなるまで考えたり、ときには考え過ぎることをやめてみたり。視点を変えれば大抵のことがなんとかなると思えてくるので、自分の機嫌を取ることは容易いです。それらはつまり、生きていくことは自分の好きを見つける時間でもあるということ。具体的な場所ではなくて、心地よい居場所を探しながら、1日1日を暮らしています。そしてその暮らしには、撮ること自体も含まれています。毎日が違うし、自分の調子によっても日々の感じ方は変わっていくものだから、生きているうちは、何かを感じる瞬間に出会うことが続いていく。そういう機微を楽しむことが暮らしていくということで、写真を撮るのは、その小さなゆらぎや光をただ見たいと思うから。私にも、他者にも、すべての人の暮らしには美しさがあって、それらはいくらでも見過ごすことができるけれど、私は見たいと思っている。それと同時に、そのときにはもう写真を撮っている。だからこそ、よく見てよく生きる、ということをしなければと思うのです。でないとそもそも、写真は撮っていないかもしれません」。

GENIC vol.74 【Life is Beautiful. 私の愛する暮らし】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.74

2025年4月号の特集は「It’s my life. 暮らしの写真」。

いつもの場所の、いつもの時間の中にある幸せ。日常にこぼれる光。“好き”で整えた部屋。近くで感じる息遣い。私たちは、これが永遠じゃないと知っているから。尊い日々をブックマークするように、カメラを向けてシャッターを切る。私の暮らしを、私の場所を。愛を込めて。

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