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暮らしは光とともに 川野恭子 | 連載 Life is Beautiful. 私の愛する暮らし

連載「Life is Beautiful. 私の愛する暮らし」。
大好きな場所で毎日を丁寧に過ごしながら、日々変わりゆく光や機微をすくいあげ、写真に写す──。自身の暮らしを愛する写真家やクリエイターたちが、日常の中で心動く瞬間とは?すぐそばにある美しさに気づくことの大切さを学びます。
全8回の連載、第2回は「太陽とともに生きる」写真家の川野恭子さんです。

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目次

プロフィール

川野恭子

写真家 神奈川県出身。「日常と山」を並行して捉え、自身に潜む遺伝的記憶の可視化を試みた作品制作を行う。ここ数年は山小屋勤務を経験しながら山の歴史・文化に造詣を深めることに努めている。メディアへの写真提供、撮影、執筆、講師、テレビ出演(NHKにっぽん百名山ほか)など、多岐にわたり活動。京都芸術大学通信教育部美術科写真コース非常勤講師。著書に、写真集『山を探す』(リブロアルテ)、織田紗織氏との共著『山の辞典』(雷鳥社)ほか多数。
愛用カメラ:OM SYSTEM OM-5、FUJIFILM GFX 50R、RICOH GR IIIx
愛用レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO、MINOLTA MC ROKKOR 58mm F1.4など

暮らしは光とともに

「干したまま取り込み忘れていたブラウスに映る光と影。少し湿り気を帯びてしまっても、美しい光に恵まれたから、良き一日に」。

「お気に入りのグラスで水分を摂るのが朝のルーティーン。光に透けて輝くグラスを見ると、それだけで心も潤います」。

語るほどのテーマは無いけれど、いつも太陽を意識して暮らしているかもしれない

「晩秋から梅春ごろまでは、冬らしい柔らかな光がキッチンに注ぎ込みます。洗い終えた食器が輝く光景を見ると、『またこの季節がやってきた』とうれしくなります」。

「洗いものを済ませるためにシンクの前に立つ。洗剤ボトルに目を向けると、小さな虹が。こんな小さな空間にも幸せがあることに気付く」。

「飛ぶ虫たちが右往左往しながら見せてくれた、小さな命の輝き。自分も誰かから見たら輝いて見えるのかもしれない…と思う夏の夕暮れどき」。

日々の何気ないものから“尊い”を発見することに、幸せを感じます

「仕事の合間。ふと手のひらを見ると、サンキャッチャーが放つ虹。希望の光のように感じ、光が消えてしまう前に、そっと写真に閉じ込めました」。

作り込みすぎず、ありのままに写すこと。“自分らしい写真”であること

「自宅への帰り道。眩しいほどの夕焼け。子どものころ、日が暮れるのを惜しみながら草むらを走り回ったことを思い出しながら撮影した1枚」。

「庭のミモザが満開になるとスワッグに仕立てるのが我が家の恒例行事。家に飾ったり、お裾分けしたりしています」。

「物を作る喜びは、山を登る喜びに近い。誰に褒められずとも、自分を褒めてあげられます」。

「夏に山小屋で味わっていたレモンジャムを作りました。苦味を含む爽やかな酸味が、あの日の日差しと風を思い出させました」。

美しい光に恵まれて、暮らしは成り立つ

「山に登るようになってから、より太陽を意識するようになりました。山では『早出早着』が基本と言われ、日のあるうちに行動するので、日の出日の入りを強く意識します。夜明けのころ、日が差し込んだ途端に気温が暖かくなっていくのを肌に感じるたび、太陽の力は本当に偉大だと改めて思います。昔の人は夏至や冬至などを意識し、太陽に感謝していたけれど、現代において、私自身その意識が薄くなったように感じていて。だから山に登り始めたことで、太陽の存在の大きさに改めて気づかされたのだと思います。自宅の東側に大きな窓があり、毎朝差し込む太陽の光に癒されています。時間帯によって光の差し込む位置が変わるし、季節によって光の柔らかさも変わる。そうした光の変化がもたらす光景を楽しみにしながら暮らしています。普段は見過ごしてしまうようなものが、太陽の光を浴びて輝く瞬間、なんてことのないものが尊いと思えた瞬間、その光景をずっと見ていたいという思いで写真に閉じ込めています。暮らしを撮ることは、自身の『幸せ』を認識する手段としての価値があり、その幸せを収集することによって、達成感や満足感を感じているのかもしれません。写真を撮っていると、毎日同じ光は見られないことに気付かされます。転じて、当たり前に過ごしている日常そのものも永遠ではないことに気付かされ、より大事にしたいと思うようになります。そして、自分に関すること、自分の記憶に関わること、または自分の経験から導き出された気付きが含まれた写真は、“自分らしい写真”になると考えています」。

GENIC vol.74 【Life is Beautiful. 私の愛する暮らし】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.74

2025年4月号の特集は「It’s my life. 暮らしの写真」。

いつもの場所の、いつもの時間の中にある幸せ。日常にこぼれる光。“好き”で整えた部屋。近くで感じる息遣い。私たちは、これが永遠じゃないと知っているから。尊い日々をブックマークするように、カメラを向けてシャッターを切る。私の暮らしを、私の場所を。愛を込めて。

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