Focal Length
今回のテーマは「カメラが繋ぐ焦点距離」。
この記事は、これまでとは少し違ったアプローチになる。
写っているのは、ただ一枚の何気ないカメラの写真だ。

写っているのは ニコマートFTN。
1967年に発売された、機械式駆動・フルマニュアルのカメラだ。
「ニコマートってニコンと何が違うの?」と思う人もいるだろう。
当時、ニコンが“普及機”として展開していたブランド名で、今も中古カメラ店で比較的手頃に見つけることができる。

このカメラが僕の手元にやってきたのは今年の夏。
ニコンプラザ「THE GALLERY」で写真展「MY FOCAL LENGTH」を開催し、トークイベントのために関西へ帰ったときだった。
久しぶりに実家へ顔を出したその夜、父が食事を終えたあと、自分の部屋からそっと持ってきた。
そして「これ使うか」と、差し出したのが、このカメラだった。
父は長年、教師をしていた。
写真を撮っていたことも、カメラを持っていたことも、僕はまったく知らなかった。
父はハワイで育ち、アメリカ本土の大学を卒業。
その後、イギリスや中東を仕事をしながら旅したことがある。
そして最終的に日本に来て教師を始めた。
そんな断片的な話は聞いたことがあった。

このカメラは、まさにその旅の相棒だったらしい。
砂漠をバイクで走ったこと。
さまざまな国でフィルムを買い集めたこと。
芸術やクリエイティブとは無縁だと思っていた父から、そんな話を聞く日が来るとは思わなかった。
長年眠っていたカメラには、
少し埃を含んだ匂い、擦れたレザー、
旅の記憶を刻む傷がある。


写真を撮ることをやめた父がずっと手元に置いていたのは、いろんな想いがあるからだろう。
誰が見ても特別ではない一台。

けれど、僕にとっては値段をつけられないほど大切で、かけがえのないカメラだ。

カメラが繋いでくれた、父との距離。
いつか自分も、父がしてくれたように
愛用する Zf を誰かに手渡せる日が来たら
それほど嬉しいことはない。
プロフィール

古屋呂敏
俳優・フォトグラファー 1990年、京都生まれ滋賀/ハワイ育ち。2016年より独学でカメラを始める。NikonZfを愛用。父はハワイ島出身の日系アメリカ人、母は日本人。MBS/TBS「恋をするなら二度目が上等」(2024年)などに出演。俳優のみならず、フォトグラファー、映像クリエイターROBIN FURUYAとしても活動。2022年には初の写真展「reflection(リフレクション)」、2023年9月には第2回写真展「LoveWind」、2025年6月、ニコンプラザ東京 THE GALLERY、2025年7月、ニコンプラザ大阪 THE GALLERYにて、写真展「MY FOCAL LENGTH」を開催。