【写真家たちが捉えた瞬間：4】松藤美里

音が聞こえる、臨場感。

スナップ写真は完全に主観。撮らないよりは絶対に撮った方が良い

「横断歩道ですれ違った子犬が可愛くて声をかけました。初めてのお散歩だったようです。子犬の表情を捉えたくて屈んで下から撮影しました」。

「穏やかなこの情景を撮影した直後にハプニングが連発して、写真には何も写っていないけれど見る度にそれが思い出されます。個人的な記憶のヒントというボーナスポイントが付いてくるから写真は楽しい」。

良いスナップが何なのかは永遠の疑問。でも、音が聞こえるような臨場感のある写真を、いつも目指している

「野外レイヴ明けの朝、一晩中続く爆音と混沌の末に辿り着いた静寂。神々しい朝日の中になんとなく人影があることで、想像が深まる奥行きが生まれていました。SFっぽい雰囲気にも見えて好きです」。

「スナップ写真はパーソナルでエモーショナルなものであり、イメージとして良い写真かどうかや何かを伝えることよりも、この瞬間を保存したいと思ったその気持ちを捉えることに意義があると思います。スナップ写真を撮るための目、すなわち決定的瞬間を逃さない瞬発力や判断力は、使っていないとすぐ衰えてしまう筋肉のようだと考えていて、常にオンにしているにはかなり鍛えていないといけない（笑）。
そのため、少しでも刺激を受けることがありそうな時は必ずカメラを持って出かけます。ニューヨークは秋がすごく綺麗で、４年前に拠点をこちらに移してからは、秋の写真が増えた気がします。写真を撮り始めてから時間が経ってきた最近は、スナップ写真を撮っておいて良かったと思わされることが本当に増えました。撮らないよりは絶対に撮った方が良い。作り込まないからこそ自分自身の感覚や感情が反映されて、その時の自分の興味や心情に後々気づかされることがあるのも面白いですから。自分と他者を繋げてくれて、素敵な気持ちにさせてくれる。私にとってスナップ写真は、自分自身を理解するためのツールであり、ライフワークなのです」。

大事な瞬間を積極的に残す撮影は、宝物を集めるような感覚

パーソナルでエモーショナル。その瞬間の気持ちを捉えることに意義がある

「2020年、コロナ禍でロックダウン中のニューヨーク。普段なら観光客で賑わっているチャイナタウンを象徴するこの通りをはじめ、街中が静まり返っていました。異様な空気感が伝わるタイムピース」。

同じ写真を何枚も撮らない。選ぶのが面倒だし、大抵、最初の1枚が一番良いから

「人物の表情が見えないことによって、肌に輝く水滴や水面に反射する光に目がいったり、ストーリーを想像したりする余白が生まれていると感じた1枚です」。

「友人とスナックバーを貸し切りにして開催したイベントからの1枚。年齢も人種も職業もごちゃ混ぜで、とにかくみんな酔っ払って良い時間を過ごした証。楽しい笑い声や叫び声が聞こえてきます。自分が楽しい時に写真を撮っておくのは良いものだなと思わされます」。

「泣いている女性と大笑いする男性、二人の表情の対比が面白くて、綺麗な写真ではないけれど、敢えて撮っておいて良かったなと思っています」。

「高校３年生の頃、『ビューティフル・ルーザーズ』という、90年代NYのストリートカルチャーを題材にしたドキュメンタリー映画に影響を受けたり、ピーター・サザーランドやパトリック・ツァイなどの写真家と出会う機会に恵まれたりしました。彼らのスナップ写真の撮影スタイルはそれまで持っていた自分の写真のイメージとは大きく異なり、衝撃を受けた。そこから自分でもやってみたいと思って、まず実家にあったフィルムカメラを手に取ったことが私のスナップ写真の始まりです。写真を撮り始めた学生の頃は活動を通して自分の人生をオープンに人と共有することに楽しみを感じていて、頭のどこかでいつも人に見せる前提で写真を撮っていました。しかしここ数年は人と共有することへの興味が冷め、写真活動が人との繋がりや刺激を受け取る機会になってくれているというシンプルな事実だけを見つめ、素直にリラックスした気持ちで向き合えるようになりました。身近な人の素の表情を撮るのが好きで、また犬も好きなので、愛犬に限らず犬を撮ることも多いです。自分にとっての大事な瞬間を積極的に残す、まさに宝物を集めるような感覚で撮影をしています」。