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【写真家たちが捉えた瞬間:2】森健人

心が動いた瞬間や心惹かれる人をありのままに写すことは、誰にとっても身近な撮影手法ながら、撮り手の感情や判断が強く反映されるもの。作品が高い評価を受ける写真家5名がそれぞれに抱く「スナップ写真」への想いを、シャッターを切らずにいられなかった瞬間の作品とともに紹介します。
2人目は、ルールや知識に囚われないフォトグラファー、森健人さんです。

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先入観を捨て、場を体感すること。

カメラもノウハウも関係ない。大切なのはその場にいられるかどうか

妻との新婚旅行先で撮影したスナップ作品のみを収録した写真集『It's Better to See Something Once Than to Hear About It a Thousand Times』からの1枚。「行き先は、メキシコ系アメリカ人の妻が一度は訪れてみたいと願っていたフランス。旅の中盤にルーブル美術館とヴェルサイユ宮殿を訪れた時のスナップ写真で写真集を構成しています」。

スナップ撮影をすると、新しい体験や感覚が呼び込まれる

「何百年という時を超え威厳を放ち続ける名画や歴史的空間を前に、世界中から集まった現代の人々がカメラや音声ガイドを片手に慌ただしくしている様は、どこか対照的でユーモラスな光景に映りました。気がつけば展示作品には目もくれず、絶えず館内を行き交う人々に向けてシャッターを切っていました」。

既存の世界に深みや広がりをもたらしてくれるのがスナップ写真

「写真の技術や知識に囚われず、場を体感すること。先入観を捨てて行動すること。そうして撮れた写真が、スナップ写真だと考えています。テーマや被写体が定まっている場合の撮影では、自分がこれまで育んできた知識や経験を生かして能動的に撮影に臨むことが多いのですが、スナップ写真においては、逆に頭を空っぽにしておいた方が新しい体験や感覚を呼び込める気がしているから。自分にとってスナップ撮影は常に受動的で、自分の価値観や世界を広げてくれる大切な瞬間です。実際、スナップ写真がきっかけとなって芽生えた感覚や、新たな被写体が次の撮影テーマになるなど、自分にとって新しいアイディアを生み出してくれることも多いです」。

スナップ写真は、言葉に置き換えられない日記のような存在

「ルーブル美術館とヴェルサイユ宮殿は、誰もが知る一大観光地として、この日もたくさんの人でごった返していました。あまりの人の多さに、ガイドブックで見た推奨ルートや鑑賞ポイントが何の役にも立たないことを咄嗟に感じ、比較的空いている展示スペースを無秩序に散策しはじめました。時には鑑賞ルートを逆行するように歩いていると、それまで来場者の背中ばかりを追いかけてきた景色が一変しました」。

「2022年出版した写真集『It's Better to See Something Once Than to Hear About It a Thousand Times』もまさにそうして生まれました。タイトルを日本語に直訳すると『百聞は一見にしかず』。2012年に妻と新婚旅行でフランスを訪れた際に撮影したスナップ写真でまとめているのですが、事前リサーチから離れて、人でごった返すルーブル美術館とヴェルサイユ宮殿を一歩引いて見たことで、新たな風景が広がっていった。そうして、僕ら夫婦は自由気ままな時間を過ごし、いつか訪れてみたいと思い抱いていた、まさにその場所に立っていることを実感することができたのです。僕はスナップ写真にルールや失敗はないと考えていますが、大事にすることがあるとしたら、“その場にいられるかどうか”、そして“先入観から離れた行動をすること”です」。

森健人

フォトグラファー 1979年、東京都生まれ。高校卒業後、サンフランシスコ「Academy of Art University」にて写真を学ぶ。現在は東京を拠点に、ファッションやカルチャー誌、企業広告、 アーティスト、アスリートのポートレートなどを手がける。2022年末開催した写真展「It's Better to See Something Once Than to Hear About It a Thousand Times」の期間中に販売したタブロイド版写真集を、オンラインストア(kentomori.stores.jp)、書店にて販売予定。
愛用カメラ:PENTAX 67II、CONTAX T3、FUJIFILM GFX 50S II、Canon EOS-1D X Mark II

森健人 Instagram

GENIC vol.69【写真家たちが捉えた瞬間】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.69

1月号の特集は「SNAP SNAP SNAP」。
スナップ写真の定義、それは「あるがままに」。
心が動いた瞬間を、心惹かれる人を。もっと自由に、もっと衝動的に、もっと自分らしく。あるがままに自分の感情を乗せて、自分の判断を信じてシャッターを切ろう。GENIC初の「スナップ写真特集」です。

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