極めて即興的なドキュメンタリー
一歩遅れたら退屈なものになってしまう。だから撮影は、考えるより感情的に
「祖父母の家がある佐渡ヶ島に渡るフェリーの甲板で撮影しました。かっぱえびせんを手に持って待ち構えているだけで、カモメは風に乗りながら器用に食べてくれるのですが、その決定的瞬間を切り取ることにこだわりました」。
「お師匠の花代さんと、愛犬キビの入浴中の1枚。場所は花代さんのご自宅のお風呂です。あまりにも可愛くて嘘みたいなワンシーンなのですが、これが彼女の生活の些細な瞬間に過ぎないことに感動しながら撮影していました」。
自然な状態で撮りたいから、自分の存在感はひたすらに消す
「公園にあるバスケット場で。撮影のためにこんなことをしているわけではなく、彼がいきなりバスケットゴールに登り出してゴールにハマったので、その瞬間を必死で撮影しました。降りる時が大変そうでした(笑)」。
「和歌山のとある山奥に廃墟があるのですが、そこを外から観察していたところ、立ち入り禁止のテープの中からじっとこちらを見ている猫がいたので、望遠レンズで撮影しました。この後野犬も出てきて大変でした」。
「スナップ写真とは、日常的なワンシーンの切り取り。即興的でスピードがあって、ドキュメンタリー的なものだと捉えています。極めて自然体な状態で撮りたいから、存在感を消すことに努め、写真を撮られているという意識を被写体になるべく感じさせないようにしています。自分の写真の中心にあるのは、写真を始めた頃から変わらず、好きな人やシーンを撮影することです。そのため、スナップ写真も友達と過ごしているような時に撮影することが多いですが、とはいえ、なんでもないシーンで撮ることもあれば、何か予期していないハプニングが起きて突発的に撮影することもよくあります」。
状況を理解するより先にシャッターを切れた時、それはいいスナップ写真であることが多い
「遊びに来ていた友達が帰る時に、何気なく玄関で撮影したカット。この時、この子が少し落ち込んでいるような雰囲気があって、それがなんとなく気になって写真を撮りました。撮り方に意図はなく、鏡があったのでこういった構図で撮影したのだと思います」。
「友達のバンドのツアーについて行った時に、岐阜の小さなライブハウスで撮影しました。店内は壁も照明も赤くて、リハ中やライブの合間にいろいろ写真を撮って遊んでいました。このカットは、たまたまここに立っていた2人に、『上向いてみて』と頼んで撮影」。
「撮影当時、お師匠さんの事務所がとても変わった形のビルの中にあって、なんとなく配置された全てのものが無作為で、気になって撮った1枚です」。
決定的瞬間と、その前後、数コンマの曖昧な時間。いかにその瞬間を捉えられるかにこだわっている
「スナップ撮影にあまり決まりごとはなく、自分の感情が動いた時に、いかにその瞬間を捉えられるかにこだわっています。色味もフィルムのようにありのままが写るほうが好きだし、撮影者の癖が滲み出る切り取り方や構図もそのままに、あまり試行錯誤はしていません。そうして撮ったスナップ写真の素晴らしさは、後から見て驚かされたり、教わることができたりする点。写真に導かれている感覚を得られる、思考の一歩先にあるものだと考えています」。
池野詩織
写真家 1991年生まれ、神奈川県出身。ファッション誌やブランドのルック、広告、音楽家のビジュアル撮影など、ジャンルを問わず様々な写真表現の挑戦を続ける傍ら、定期的に展示会の開催や作品集の発表など、東京を拠点に国内外で精力的に活動。2022年にLAの写真出版レーベル「Deadbeat Club」よりZINE『SADO』を出版。
愛用カメラ:CONTAX T3、Canon Autoboy 120、Canon EOS5
愛用レンズ:Canon EF50mm F1.4 USM/EF70-210mm F3.5-4.5USM
GENIC vol.69【写真家たちが捉えた瞬間】
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.69
1月号の特集は「SNAP SNAP SNAP」。
スナップ写真の定義、それは「あるがままに」。
心が動いた瞬間を、心惹かれる人を。もっと自由に、もっと衝動的に、もっと自分らしく。あるがままに自分の感情を乗せて、自分の判断を信じてシャッターを切ろう。GENIC初の「スナップ写真特集」です。