「タイ」という愛おしい私の帰る場所。旅らしい旅と暮らしのまんなかで
「ねえ、またタイにいくの?」のセリフをこれまで何人の友人から聞いたことだろう。
ね〜私もびっくりだよ。また行くんですよ。懲りないよねえ。なんて私も定番のセリフを笑って返す。
初めてタイに降り立ったのは2016年の秋で、あまりにも大きすぎるスワンナプーム空港にびっくりして、嗅いだことのない匂いにもびっくりして、身体中にまとわりつく独特のむわっとした熱気に震えて、読めない看板の店の、やけに安くてオレンジ色したタイティーを飲み干して。あまりの甘ったるさに咽せていたら、気づけば恋に落ちていた。
タイが好きだ。愛してる。
なのでタイの良さなんて書き始めたら脳が暴走して止まらないのだけれど、あえてひとつだけ冷静にこの国の良さを語るとしたら「旅と日常の両方の匂いがちゃんとするところ」なのかな、と思う。
どうしても他の国に行くと、日常が自分ごとにならない。
いつまでも私は旅行者で部外者で、そこでの営みはバーチャルみを帯びたまま、私との間に大きな溝をつくる。
それが心地よい時もあれば淋しい時もあって、それが旅の醍醐味なのかもしれないけど。
でもねタイは不思議とちゃんと日常の手触りがある。
ここに暮らしても良いのよと、何度だって帰ってくれば良いじゃない!と開いている。
でもそこにはちゃんと旅の空気も残っているから、安心と非日常が隣同士に仲良く並んでいる感じがして。
誤解を恐れず言葉にするなら「実家とディズニーランドのハイブリッド」のような国だなあ、といつもしみじみ思っている。
滞在中はいつも何をするわけでもなく、ただ町をぷらぷらする。カフェで涼んだり、本を読んだり、仕事をしたり。屋台でおやつを食べたり、公園で昼寝したり。チェンラーイやホアヒンの田舎に行くこともあるし、バンコクのホテルに泊まったりもする。
何処に向かうにも足の裏からはもはや嬉しさや楽しさが滲み出てしまっていて、もし私がサイレント映画の主人公になったとしても「あの子、きっといい事があったんだわ」と視聴者にばれてしまうくらいには、とにかく始終上機嫌で過ごしている。
タイの良さをひとことで語るのは難しい。もちろん好きじゃないところもいっぱいあるよ。そんなの挙げ始めたらきりがないけれど、それもまるっと受け入れられてしまうのが、恋ってやつでしょう。
この記事が公開される頃、まさに私はタイにいる。どんな感情になっているのだろう。泣いてしまっているかもしれない。それともいつも通り、空を見上げてのんびりと、川沿いでタイティーでもすすっているだろうか。
考えるだけで胸がドキドキする。
わたしは今日も全力で、初めて降り立った頃から変わらずタイに恋をしているのだ。
「私なりのサスティナブルツーリズム」古性のち
その土地にお邪魔する前に。自分がこれから訪れる国がどんな歴史的背景を持っているのか、どんな文化を大事にしているのかを、事前に調べたり、人から教えてもらったりする。何か目標や信念があるわけではなく、旅人である私がするべき、礼儀だと思っている。
例えばその土地特有の農産物や植物、動物のことを知り理解すること。
例えば昔から受け継がれている技法に触れること。ローカルのお店に行ってみること。
「サスティナブルな旅をしよう!」「持続可能な旅をしよう!」と大きなことを思わなくても。私たちがその地域でしか体験できないことを、昔から脈々と受け継がれていた文化を知り、理解し、体感すること。それが自然とサスティナブルツーリズムに繋がるのだと考えています。
次世代の旅人たちが安心して訪れられるように、そして愛する国に暮らす人々の生活を考えること、守ること。それは私たち旅人の義務であり、マナーであると思う。文化も自然も無限ではないからこそ、今私たちができることをひとつずつ丁寧に積み上げていきたいと思います。
古性のち
1989年横浜生まれ。写真家・コラムニスト・BRIGHTLOGG,INC 取締役。日本と世界中を旅しながら、写真とことばを組み合わせた作品を作っています。現在は東京と岡山の二拠点生活中。2022年秋に初単著「雨夜の星をさがして 美しい日本の季語とことばの辞典」を出版。