Focal Length
今回のテーマは「また向き合う楽しさと、距離の変化」。
表現の世界にいると、自分がその世界のなかで螺旋を描くように何度も同じようなものと向き合っている気がする瞬間がある。
同じところを回っているようで、でも実際には少しずつ視点や距離が変わり、重なり合う経験が新しい景色を見せてくれる。
今年出版した写真集『MY FOCAL LENGTH』も、まさにその通過点だった。

あの作品のなかで初めて、「花」という存在とじっくり向き合った。
花は一輪一輪が個性を持ち、光の強さや角度によって全く違う表情を見せる。まるで人間のポートレートのように、その瞬間ごとに個性を変える。
僕は花と向き合う楽しさを知った。
しかし、時間が経つと再び人物のポートレートを撮影したり、俳優としてドラマの現場で役を生きたり、必然的に花から少し離れる瞬間が生まれる。
表現の対象は変わり、距離感も変わっていく。でも、そんな日々のなかでふと「また花と向き合いたい」と強く感じる瞬間が訪れる。
今回、その心のままレンズを向けたのは「ダリア」だった。


ダリアは初夏から晩秋まで楽しめる花だが、最も美しく咲くのは秋だと言われる。
花言葉には「優雅」や「ポジティブな感謝」といった意味が込められていて、花の形や色合いと重なるように、その佇まいからも豊かさと気品が伝わってくる。
前回花と向き合ったときは、モノクロで余計なものを削ぎ落とし、光と影だけで描く世界に夢中になった。
今回は、そこからダリアの持つ鮮やかな「色」と向き合った。色彩を前面に受け入れ、そのなかで遊んでみる。
するとまた、全く違う距離感で花と出会うことができた。


写真の面白さは、同じ「撮る」という行為であっても、どこにフォーカスを置くかによって作品が全く異なることだ。
知らなかった世界が自分の目の前に広がる。
その世界が自分の好みなのかどうかは、撮ってみるまで分からない。
だからこそ一つの対象を何度も異なる距離感で撮ることで、少しずつ自分の「好き」が見えてくる。
秋の季節に合わせて、ダリアと並行してコスモスも撮影した。



光の入り方を工夫したり、背景を変えたり、今まで試したことのないライティングを模索してみたり。
そうすることで、同じ花でもまるで新しい対象に出会ったかのような感覚を得られる。
「常に新しい自分を、花を通して探す」
そんな向き合い方を続けるうちに、同じ花、同じ行為であっても全く違う距離感を見つけ出せる。
今回の撮影では、少し前に購入した NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S を使用した。
繊細な解像感と柔らかく優しい質感の描写が印象的で、花の奥行きや空気感をより豊かに表現することができた。
自分にとって新しい「好きなレンズ」が増えた。
花と向き合うたびに、自分自身との距離もまた少し変わる。
螺旋を描くように繰り返しながらも、確実に新しい層へと進んでいる感覚。
これからもその螺旋のなかで、また何度でも花と、光と、表現と向き合っていきたい。

プロフィール

古屋呂敏
俳優・フォトグラファー 1990年、京都生まれ滋賀/ハワイ育ち。2016年より独学でカメラを始める。NikonZfを愛用。父はハワイ島出身の日系アメリカ人、母は日本人。MBS/TBS「恋をするなら二度目が上等」(2024年)などに出演。俳優のみならず、フォトグラファー、映像クリエイターROBIN FURUYAとしても活動。2022年には初の写真展「reflection(リフレクション)」、2023年9月には第2回写真展「LoveWind」、2025年6月、ニコンプラザ東京 THE GALLERY、2025年7月、ニコンプラザ大阪 THE GALLERYにて、写真展「MY FOCAL LENGTH」を開催。