Fujii Yui
フォトグラファー 兵庫県出身。小学校6年生の頃に撮り始めて以来、写真に没頭。京都造形大学に進学し、写真について学ぶ。東京の広告代理店を経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動をスタート。現在はRoaster Inc. の社員として撮影をしながら、個人で雑誌やウェブメディアのファッション撮影なども手掛けている。
愛用カメラ:Canon EOS 5D Mark IV / AutoboyJet、Polaroid SLR 680
愛用レンズ:TAMRON SP 45mm F/1.8、SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art、CanonEF85mm F1.4L IS USM
幻想的日常
公園で仲間と作品撮り。「黒い布を敷いて、モデルの安藤百花さんに寝転がってもらい、上から撮影。闇夜に桜の花が浮かび上がっているように見えるダークな感じがお気に入りです」。
感情が動き回っているから人って飽きない
「小学校の友達が雑誌のモデル募集に応募することになり、写ルンですで応募写真を撮ってあげたのが、人を撮るようになったきっかけです。当時はガールズフォトブーム、蜷川実花さんの可愛くて、少し毒のある世界観に憧れて、自分もこういう写真を撮りたいと思っていました」。
以来、人を撮り続けているのは、飽きない、というのが1番の理由。
ファッションブランドrurumu:®のルック撮影の写真で、モデルはモトーラ世理奈さん。
「春の終わりに満開の花を求めて栃木まで行き、山を探し歩いて発見した桜の木。夕方の光で撮ったことで、どこか幻想的な雰囲気に仕上がったと思います」。
「人って感情が動き回っているような感じで、なんだか気になる。人とのコミュニケーションはあまり得意なほうではありませんが、人が好きなんだと思います。撮りながらアンテナを張って、いいところを探していますね。表情で気持ちを想像し、呼吸を合わせ、人によって違う接し方で楽しむようにしています。相手に引っ張ってもらう時もあれば、私から向かう時もあり、何よりも自分がいつもオープンでいることが大切。分かり合える人とそうでない人がいますが、写真って残酷なもので、そういうすべてを写してしまうところにも魅力を感じます。やめたいけどやめられない、そう思う時もありますね」。
光や自然に 溶け込んでいるような 人の姿はとても美しい
ファッションブランドCANDY STRIPPERのウェブマガジン撮影で、ハウススタジオにて。
「思っていたより暗かったのですが、光が差し込んだ時、すりガラスの模様がきれいでした。窓から入る最低限の光で撮るのは好きですね」。
女性の美しさに惹かれ、どこか不思議な幻想的日常を表現しているというFujiiさんの作品。
「孤独だけど力強さがあるのが、自分らしさでしょうか。人にはどんなことがあってもリカバリーする能力がある気がしていて、その静かで底知れぬ生命力を表現できたらいいなと思います」。
なにげないコミュニケーションから、かけがえのない1枚が生まれる
プライベートでも仲良しのモデル甲斐まりかさんと作品撮り。
「ふたりでふらっと朝から公園に行って撮影。きれいなままの桜が落ちていたので、押し花にしようと思って持ち帰り、写真に貼って遊んでみた1枚です」。
「フォトグラファーと被写体は合わせ鏡なところがあるので、この表情でこういう雰囲気でいこうというのがわかる気がします。撮影中に感じる波を掴むような感じで、いい表情が撮れたら最高ですね。たわいのないおしゃべりをしながら、お互いのスイッチが入った時、集中していっぱい撮影しますが、強い1枚が残せたら私的には満足です」。
「曇っていたことで逆に、桜の雨のような感じで、面白く撮れました」。
生命力を感じると同時に刹那的な 女性と花の交わりが好き
シンガーソングライターの松井優子さんをモデルに、画家ミレーの作品『オフィーリア』をイメージ。
「作品撮りで千葉へ出かけ、岩に光が反射する、きれいな渓流を見つけて撮影しました。松井さんに浴衣を着て浅瀬に寝てもらい、フローリストの友人にあじさいを散らしてもらって完成した”和製オフィーリア”。もうこれ以上のものは撮れないんじゃないかと思うほど、好きな作品です」。
人を撮る時は被写体と同じくらい、その場の雰囲気や空気感、背景、衣裳などを大事にするというFujiiさん。
「自然の中での撮影が好きですね。いつだって想像を超えてくる自然に、力を借りているような気持ちです。常に移り変わる温度や光、空の天井で気持ちが解放的になって、体が勝手に動きます。”自分”という言葉は”自然の分身”を略したものらしいのですが、自然に包まれていると自由でいられる気がして、それは撮られる側にも感じられるような…。光や自然に溶け込んでいる人の姿は、とても美しいと思います。そして花も、必ず入れると意識しているわけではないですが、私の世界を作る要素になっているかもしれません。いつの時代も花はただ美しく、生命力を感じますし、でもすぐに枯れてしまうところが刹那的で、女性と花との交わりがすごく好きです」。
そんなFujiiさんの作品は”絵画に近い写真”がテーマ。
「好きな絵画をずっと眺めていられるような感覚で、特定の人を撮っていても、広く人間として解釈してもらえるような、普遍的な力を持つ写真が撮れた時が一番うれしいです」。
人を撮り続けているのは見たことがないものを見たいから
モデルは甲斐まりかさん。「暗い背景に人が浮かび上がる”幽霊っぽさ”を意識。絵画のようなライティングで、白いドレスがふわっと動く様子をスローシャッターで撮影」。
大自然が広がる群馬の湖で、こちらもモデルはまりかさん。「湖の反射と彼女を多重露光で撮りました。まるで一心同体のように大木と溶け合っていて美しかったです」。
雑誌『PECHE002』のメイクページの1枚で、モデルは中村里砂さん。
「定常光ライトHMI でライティングして、カラーフィルターを使って虹色の美しい光を作りました」。
<Photography Tips>優しい光にニュアンスを
フラットな優しい光にどこかニュアンスを感じさせたいので、自然光とストロボのミックス光で撮ることが多いです。プロフィールに掲載している愛用レンズはすべてポートレート撮影で使用していますが、SIGMA Artシリーズの滑らかな感じとボケ感が好き。
パキッとした写りは好みではないので、霞みがかった質感になるKenkoのレンズフィルター フォギーはよく使います。そこからもう少し輪郭を出すといったように、編集で自分の好きなテイストにしています。
GENIC VOL.58 【表現者が人を撮る理由】
Edit: Yuka Higuchi
GENIC VOL.59
特集は「だから、人を撮る」。
最も身近にして最も難しい、変化する被写体「人」。撮り手と被写体の化学反応が、思ってもないシーンを生み出し、二度と撮れないそのときだけの一枚になる。かけがえのない一瞬を切り取るからこそ、“人"を撮った写真には、たくさんの想いが詰まっています。泣けて、笑えて、共感できる、たくさんの物語に出会ってください。普段、人を撮らない人も必ず人を撮りたくなる、人を撮る魅力に気づく、そんな特集を32ページ増でお届けします。