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【偏愛というロマン:2】秦 淳司

独自の愛する被写体を持ち、撮り続けている4名の写真家の「撮りたい!」という衝動の裏にある想いとは?
長きにわたり追いかけ、真っ向から向き合うその情熱に迫ります。
第2回は、ファッション誌を中心に第一線で活躍しながら、愛してやまない「デコトラ」を撮り続ける、フォトグラファーの秦 淳司さんです。

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秦 淳司

フォトグラファー 赤坂スタジオ勤務後、小林和弘氏に師事。1994年よりフリーランスフォトグラファーとして、ファッションを中心に雑誌、広告、アーティスト写真、動画などで活躍している。写真集『DEKOTORA-Spaceships on the Road in Japan-』(ダイヤモンドヘッズ)発売中。
愛用カメラ:Sony α7R III/α7S III、Hasselblad 503cx
愛用レンズ:Sony FE 35mm F1.4 GM/FE 24-70mm F2.8 GM

DEKOTORA "無駄なことだらけ"な夢が詰まった、この世に一台のアートピースに魅せられて

僕はトラック乗りとデコトラのいちファン。プロでやっているときとは違い、撮影も素人目線でいられる楽しさがある

秦さんが15年前に初めて撮影したデコトラ「龍虎丸」。車体を包むさまざまな色の輝きは、電飾そのものだけでなく車体へ映り込んだ光も含まれている。

根底にあるのは憧れの気持ち

「好きなアイドルの追っかけをする、電車が好きで日本各地を訪れる、そういう感覚と僕も同じで、デコトラを撮り続けているのは、トラックとトラック乗りへの勝手な憧れからです。最初はビューティーページの背景合成素材として撮影させてもらったのですが、その時に出会ったデコトラ『龍虎丸』が本当にかっこよくて、以来年に1~2回、プライベートで撮りに行くようになりました。仕事ではないから、決め事もクリアしなければならないことがあるわけでもない中で、その時々の状況を見ながら本当に楽しんで撮っています。とはいえ、こう撮りたいというのはあります。リアリティーよりはファンタジー。撮影はいつも夜なのですが、写真は、僕のデコトラへの憧れを闇夜に浮かぶ宇宙船に変換し、イメージしながら撮っています。写真に、目視では気づかなかった、より新しい意外な面を見つけると、嬉しい気持ちになりますね」。

「キラキラして眩しいくらいだけれど、デコトラは本当に千差万別で、各車違った表情をしています。『手に負えません(笑)』ってなることもあるけれど、それでも撮らずにはいられません。いろんな角度から見て好きな部分を見つけて、一か所ずつパーツまで撮る。むしろ、『撮っておかないともったいない』と思ってしまうところがあります」。

「前から見た顔が、いかつくて怒っているみたいだったり、笑っているように見えたりする。それぞれの車体の持つ表情は、見ていても撮っていても、写真になっても面白く、デコトラに惹かれる理由の一つだと思います」。

街を走る車とは全然違って、デコトラはひとつとして同じものがない。千差万別、思い思いの構成は、"表現"であり"アート"に他ならない

江戸の艶やかさを感じる昔ながらのデコトラ 
「デコトラは、時代の潮流を反映している物体でもあります。LEDの台頭やステンレスの加工技術の進化など、車体や電飾の質感も時代ごとに変わっていく。またモチーフも、江戸時代の艶やかなものからキッチュな昭和感、最近ではアニメキャラクターまでいろいろです。移り変わったり、混ざり合ったり、また戻ったり、その変化も面白いですね」。

昭和感あふれるデコトラ。
「年月を重ねていくほど劣化もしていく。またその時は新しいと感じても、10年経つと懐かしさを覚えるようなこともあります。儚さを感じて、そこにもデコトラのロマンがあるように思いますね」。

「トランスフォーマーのような、近未来を感じるような装飾がかっこよくて、いろいろな角度を探りました」。

まるでディズニーランドのエレクトリカルパレードのような、鮮やかできらびやかなデコトラ。
「画一的とも感じられる街中を走る自動車とは全然違って、デコトラは人が好きなものを好きなようにデコレーションして作られた芸術作品なのだと思います」。

デコトラをもっといろいろな人に

「台数も年々減り、絶滅危惧車ともいわれるデコトラですが、海外の人たちから日本独自のポップアートとして愛されている一面もあります。デコトラって、スピードや効率に逆行しながら、各ドライバーがある意味無駄ともいえることを全力でやって、表現されたもの。それってまさにアートだし、海外からの反応は、各ドライバーが趣味趣向を持ってちゃんと努力しているからこそ得られているものだと思うんです。デコトラそのものもそうですが、そういう感性を持った人たちがいなくならないでほしい。シンプルな光の塊としてでも、ただのステンレスの塊としてでも、『かっこいいね』『きれいだね』、はたまた『なんじゃこりゃ』でもいいから、まずはデコトラのことを幅広い世代に知ってもらえたらと思っています。そして、無駄なことの中にこそあるアートや夢、人が紡ぎ出す楽しさを、一緒に楽しんでくれたら嬉しいです」。

秦 淳司 Instagram
DEKOTORA PROJECT

GENIC vol.66【偏愛というロマン】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.66

GENIC4月号のテーマは「撮らずにはいられない」。
撮らずにはいられないものがある。なぜ? 答えはきっと単純。それが好きで好きで好きだから。“好き”という気持ちは、あたたかくて、美しくて、力強い。だからその写真は、誰かのことも前向きにできるパワーを持っています。こぼれる愛を大切に、自分らしい表現を。

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