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【偏愛というロマン:1】toshibo

独自の愛する被写体を持ち、撮り続けている4名の写真家の「撮りたい!」という衝動の裏にある想いとは?
長きにわたり追いかけ、真っ向から向き合うその情熱に迫ります。
第1回は、「廃墟」を撮り続けているtoshiboさんです。

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toshibo

写真家/会社員 珍スポットやB級スポットと言われる人目につかないスポットを紹介するブログの運営をしている中で、廃墟に強く惹かれるように。これまで1000を超える廃墟や廃墟に親和性のある場所を訪れ、撮影。廃墟の写真集などにも作品が採用されている。
愛用カメラ:Sony α7R III、DJI Mavic3、iPhone 13Pro Max
愛用レンズ:ZEISS Loxia 2.8/21、SIGMA 24-35mm F2 DG HSM | Art、SIGMA 14mm F1.8 DG HSM | Art

体がざわめくクールなデストピア廃墟

廃墟ってすごくカッコいい。実は日本中いろんな場所に無数にあって、コレクションしていくような楽しみもあるんです

「一番熱心だったころはそれこそ毎週末どこかしらの廃墟に行っていました。その原動力って、単純に『いてもたってもいられない、やらないと気がすまない』みたいなところなんです。行きたい廃墟を見つけたら、とっとと行かないと夜も眠れない(笑)。どこかでコレクター欲、収集癖みたいなものも関係しているのでしょうね」。
廃墟写真でtoshiboさんが一番大切にしているのが、できるだけ目で見たままに近づけること。そのためにHDR(ハイダイナミックレンジ)にすごくこだわっていて、1枚の写真をもとに『ベース』と、抜き出した『ハイライト部分』、『シャドウ部分』の3枚を作り出し合成。
カメラに搭載されたHDR機能や加工ソフトではまかない切れない部分まで、手動でHDRをしている。
「めちゃくちゃめんどくさい(笑)。でも窓の外の景色も、暗がりの部分も、目でみたままにちゃんと見えてほしいんです」。

人によって評価が分かれるからこそ考える余白が大きく、それが魅力でもある。まだまだサブカル的な扱いだけれど、写真を通して廃墟の地位を高めていけたら嬉しい

「いろいろ知った状態よりも、何も知らないほうが固定概念なく見ることができるので、事前のリサーチはしません。それで撮影がうまくいかなくても、それは次回以降達成していければいいというスタンスを大切にしています」。
またtoshiboさんは、廃墟撮影では撮りすぎないことも心がけている。
「どこかで区切りをつけないと、ずっと撮ってしまう。それだと、廃墟を全然見てなかったなって感じるところがあって。ひと通り撮影したら意識して『はい、終わり!』と区切りをつけて、後は自分の身だけで廃墟を堪能しています」。

「心霊スポットに何の恐怖も感じずに好奇心だけで入っていける人がいるように、僕も最初のころは廃墟にずかずかと入っていくようなところがありました。でも、今はもうそれはしません。写真を発信していく以上、撮影許可をちゃんと取れることや、そもそも入っていい廃墟であることが前提。それが叶わなければ、外から見て楽しむようにしています」。

「撮っているときは案外わからないのですが、それまで撮った同じ写真を並べると劣化の進行など変化がよくわかります。その瞬間がすごく面白くて、やっと廃墟写真が完成したと感じることがあります」。

廃墟を撮ることで開けた写真家への道

「廃墟そのものが、美しい、怖い、汚いなど、人によって捉え方が異なるという性質があります。廃墟写真を見て、朽ちていく様に美しさや儚さを感じる人もいれば、早く取り壊してしまえと言う人もいる。僕と写真を見る人との間にも感情の拮抗はあるはずで、でもそれこそが廃墟写真の面白さ。考える余白がすごく大きいのが廃墟写真なんです。僕自身は、バリバリカッコいいものとして廃墟を見ています。時間が止まっているように見える廃墟ですが、実際は、いずれ朽ち果て森の一部へとなっていくほどの変化がある。荒んでいくコンクリートやそこに入るヒビ、生い茂っていく草…全部がカッコよくて、本当に好きになった廃墟は崩れてなくなるまで通い続けることもあります。僕は小さな頃からどこかひねくれているところがあって、どちらかというと少数派のもののほうが好きだった。好きなことに理由なんてなくて、もとから琴線に触れる何かがあるから好きなのだと思っていて、その筆頭が廃墟なんです。なので最初は、あくまで記録として廃墟を撮っていました。それがあるとき写真展に声をかけていただき、作品として飾れるような写真を撮りたいと考えるようになりました。また、僕が撮り始めたころには廃墟はひとつのジャンルとして確立してはいたけれど、まだまだニッチで、本屋ではサブカルチャーの棚の隅にひっそりとあるだけでした。もっと前に出てこないかな、有名にできないかなって、承認欲求みたいなところでも写真とより真面目に向き合うようになっていきました。自分が写真家という側面を持つようになったのは、ひたすら廃墟が好きであることの、ひとつの表れに過ぎないのだと思います」。

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GENIC vol.66【偏愛というロマン】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.66

GENIC4月号のテーマは「撮らずにはいられない」。
撮らずにはいられないものがある。なぜ? 答えはきっと単純。それが好きで好きで好きだから。“好き”という気持ちは、あたたかくて、美しくて、力強い。だからその写真は、誰かのことも前向きにできるパワーを持っています。こぼれる愛を大切に、自分らしい表現を。

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