花井 達
花井達写真事務所 代表 1978年生まれ、愛知県出身。2000年、写真館に入社しアシスタントから、七五三、成人式などの撮影を経て、グアムで海外挙式の撮影、ベトナムで写真スタジオの立ち上げに携わり、帰国。2017年「Weddings」(京都文化博物館)に出展。2020年写真集「祝!結婚した」(赤々舎)を出版、個展「祝!結婚」(富士フイルムフォトサロン東京/大阪/名古屋)、写真展「祝!結婚した-晴れの日 褻の瞬間-」(スパイラル)を開催。
愛用カメラ: Canon EOS 5D Mark IV、Hasselblad 500C/M
愛用レンズ: Canon EF16-35mm F2.8L/EF70-200mm F2.8L IS III USM、Carl Zeiss Planar C 80mm f/2.8 T*
みんなも主役
「ハレの日のケの瞬間」を写したい。非日常の中に日常が写った写真が理想
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「前撮り撮影をしていたら、急にサンタがフレームイン。僕は誰にも気付かれないように、ずっとサンタを撮っていました(笑)」。
結婚式という非日常でも、構えていない自然な表情が印象的な花井さんの写真。通常の撮影の流れは、「前撮りの場合、なぜ前撮りをしたいの?から始まって、それなら実家で撮影しましょう!といった感じで、新郎新婦と一緒に撮影場所を決めることが多いです。ポーズを依頼することもあって、特にご実家で家族写真を撮影する際は、その家族ならではのポーズといいますか、写真を見返した時に、その瞬間がちょっと楽しい思い出になるようなシチュエーションを思いついてお願いすることがあります。結婚式当日は、記録しなければならない瞬間を撮ることができたら、あとは新郎新婦をフレームから外して周囲の人々を撮影することが多いです」。
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「おばあちゃんに花嫁姿を見せたいからと、おばあちゃんの家で前撮りをした花嫁さん。幼少期の思い出を辿りながら、未来に向けて残した写真です」。
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「新郎友人によるインタビューの余興。いろいろな人から爆笑エピソードを引き出していましたが、新婦父は思わず涙。ふたりのコントラストで楽しい写真になりました」。
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花嫁姿の孫と対面するおじいちゃん。「!!!」。
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ご先祖様に結婚の報告をする新郎新婦を、そっと見守るおばあちゃん。
「今では小さくなった、おばあちゃんのまあるい背中」。
晴れ舞台にいる"人"の気持ちを写したい
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結婚式当日、新婦家にて撮影した1枚。
「捕まえたら絶対に離さない♡」。
「両親が芸術家で、幼少の頃からカメラに触れる機会も多く、家族旅行で撮った写真を両親が褒めてくれるのがうれしくて、写真が好きになりました」という花井さん。ふとしたきっかけから写真館に就職して、海外でもブライダルフォトの仕事に携わり、帰国後に独立。
「結婚式の写真は当然、新郎新婦とその家族のために撮影していますが、当事者ではない人たちも写真を見て、ちょっと温かい気持ちになって、楽しい瞬間を喜んで見てくれる。それがうれしくて、作品としても発表するようになりました」。
花井さんの撮る結婚式の写真は、その場にいるみんなが主役。
「結婚写真を撮り始めた頃、自分なりに新郎新婦を素敵に撮れたので、喜んでもらえるかな?とワクワクしていたのですが、新郎から、『祖父が僕からの手紙を読んでいる写真が一番好きでした!』と言われて。その時に、結婚式は新郎新婦が主役だけど、新郎新婦から見たら、みんなも主役なんだと気づき、周りの人たちもたくさん撮ろうと思いました。僕は人が好きだし、日常生活のあれこれを取っ払って、純粋に人が人をお祝いする気持ちで溢れている、結婚式にいる人たちが大好きだから、そんな人の気持ちを写したい。目の前の出来事の中で、今、誰がどんな気持ちなのかを考えながら、誰かの心に乗り移ったつもりで撮影しています」。
誰かと誰かが、相手を想う気持ち。それさえあれば場所や人数など関係なく、人の心を写せる
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真冬に「前撮りの撮影をお願いします」と
ロケーション撮影の依頼がきました。
「木々も寒々しいし、あと1ヶ月もすれば桜も咲くので
お急ぎでなければ春になってからではいかがですか」
とお話をしました。
しかし、新郎さんは「1ヶ月も残ってないんです」と。
それは、大好きなおばあちゃんのことでした。
お孫さんの結婚式を何よりも楽しみにされていたのですが、
ご病気が悪化し入院中で、結婚式出席はおろか、
意識もうろうとしている状態のようで。
「おばあちゃんに花婿姿を見せたいから前撮りをする」
病院で前撮り??
当時の結婚写真は、スタジオで撮影するのがお決まりで、
病院で結婚式の前撮り撮影をするなんて、
見たことも聞いたこともありませんでした。
しかし、新郎さんの想いをどうしても叶えてあげたくて、
病院に同行しました。
病室に入ると、看護師さんが「昨夜まで昏睡状態でしたが、
今朝、奇跡的に意識を取り戻しました」と。
新郎さんはグッと顔を寄せ、
涙も見せず優しい笑顔でおばあちゃんの手を握り、
何度も何度も「ありがとう」と。
おばあちゃんは新郎さんを認識し、
酸素マスクの中の口が微かに動いて、
言葉にならない声で何かを伝えているようでした。
新婦さんは半歩後ろでグッと涙を堪えているのに
僕は、自分でも引くほど泣きながら(笑)
その光景を必死に写し続けました。
新郎新婦の背中にある景色や細部、その場で起きていた楽しい瞬間をふたりに見せてあげたい
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新郎新婦退場時は爆音で音楽が流れていて、「一礼してください」と言っても聞こえないため、舞台裏はこのような状態に。
「見えなきゃいいんです(笑)」。
人の人生のハレの日を撮影するにあたり、心がけているのは「まずは失敗しないこと。そしてリスペクトとユーモアを大切に。良い写真が撮れる時は、良い瞬間が勝手にファインダーの中に入ってきます」と花井さん。
「撮り始めた頃からずっと変わりませんが、新郎新婦が本当に喜んでくれた時が一番うれしいです」。
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「お兄さん、お姉さんの声援も耳に入らないくらい集中して、大切に大切に指輪を運びました」。
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「親族紹介で緊張感漂う中、カシャッカシャッと撮影していたら、空気読めよ!と言わんばかりに睨まれてしまいました(笑)」。
楽しくて心温まる結婚写真もあることを伝えたい
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こちらも「笑」な1枚。
「訳もわからず結婚式に連れてこられた子供たちの奇想天外な行動は、撮影していて楽しいです」。
「初めまして!の新郎新婦やその家族でも、不思議なことに、親友の結婚式に列席しているみたいに、感情移入して被写体と向き合って撮影できます。そして、時間が経つにつれ、列席者の皆さんも身内のように接してくれて、誰もカメラを意識しなくなるので、さまざまな瞬間を切り取れるところが楽しいです。結婚式当日、新郎新婦は自分たちの背中にある景色や細部までは見られません。そこで僕がふたりの眼となり、こんなに楽しい瞬間があったんだよ!ということを見せてあげたくて、それを意識しながら撮影してきました」。
そんな花井さんが考える理想のウェディングフォトは、非日常(ハレ)の中に日常(ケ)が写っている写真。
「結婚写真というと、ポーズを決めた新郎新婦が、美しい光と背景を前に佇む綺麗な写真をイメージすると思いますが、そういった写真だけではなく、楽しくて心温まる写真もあることを世の中の方に知ってもらえたらいいなと。それぞれの家族の繋がりやストーリーを想像しながら、自身の人生と重ね、さまざまな感情に浸って楽しんでいただけたらうれしいですね。僕の写真で、みんながちょっと笑顔になってくれて、世界がちょっと平和になったら幸せです」。
Information
写真集「祝!結婚した」は赤々舎webサイト/Amazon/全国書店にて発売中。
結婚式の撮影依頼はwebサイトのCONTACTページにて受付中。
https://tatsuhanai.com/
GENIC vol.65【「記録と記憶」ドキュメンタリーポートレート】
Edit:Akiko Eguchi
GENIC vol.65
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GENIC1月号のテーマは「だから、もっと人を撮る」。
なぜ人を撮るのか?それは、人に心を動かされるから。そばにいる大切な人に、ときどき顔を合わせる馴染みの人に、離れたところに暮らす大好きな人に、出会ったばかりのはじめましての人に。感情が動くから、カメラを向け、シャッターを切る。vol.59以来のポートレート特集、最新版です。