menu

「Q.40 飯沢さんが、最近良いと思った写真集は?」飯沢耕太郎|Portrait Q&A 40/45

写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のPortrait Q&A特集。人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「ポートレートの答え」はここにあります。
今回の回答者は、写真家と写真の世界を翻訳する、写真評論家の飯沢耕太郎さんです。

  • 作成日:
目次

プロフィール

飯沢耕太郎

写真評論家/きのこ文学研究家 1954年生まれ、宮城県出身。 1977年、日本大学芸術学部写真学科卒業。1984年、筑波大学大学院芸術学研究科博士課程修了。雑誌やWebなどへ写真評論を多数寄稿。主な著書に『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書)、『デジグラフィ』(中央公論新社)、『きのこ文学大全』(平凡社新書)、『写真的思考』(河出ブックス)、『深読み!日本写真の超名作100』(パイインターナショナル)などがある。

Q. 飯沢さんが、最近良いと思った写真集は?

A. ①小野啓『私のためのポートレイト』 ② 村上賀子『Known Unknown 』 ③ 金川晋吾『明るくていい部屋』

① 小野啓『私のためのポートレイト』/高校生のポートレートをすごく丁寧に撮っていて、かつリアリティがある

小野啓『私のためのポートレイト』
(青幻舎/判型B5変/128頁/税込4,400円)

小野啓『私のためのポートレイト』

「小野さんが20年以上撮り続けている、高校生のポートレートをまとめた写真集。足を運び、どこでどういうシチュエーションで撮るのか、密にコミュニケーションをとりながら、この時期特有の揺れ動くような彼らのリアルを引き出している。よく観察もしていて、本当に丁寧に撮影していることが伝わります。まさに、“私のためのポートレイト”だと思いますね」。

② 村上賀子『Known Unknown 』/写っているのは彼女でもあり、我々でもあり、ときに村上さん自身でもある。それが非常に面白い

村上賀子『Known Unknown 』
(ふげん社/判型B5変/68頁/税込4,180円)

村上賀子『Known Unknown 』

「日常の空間の中で、20代くらいの女性たちがいつもどんな姿でいるのかが、自然体で写り込んでいます。みんな顔は写っていなくて、つまりこの人たちは、彼女ではあるけれども、写真を見ている我々でもあるし、あるいは村上さん自身でもあるという、普遍的な存在になっている。そこが、非常に面白い。村上さんは中判フィルムを使っていて、被写体にはポーズをして止まってもらって撮っている。スナップではなく、まさに顔のないポートレートなのだと感じられます」。

③ 金川晋吾『明るくていい部屋』/環境と人間の関係の変化を写し出していて、それは思考を巡らせるほど共感するものだった

金川晋吾『明るくていい部屋』
(ふげん社/判型A4変/152頁/税込4,290円)

金川晋吾『明るくていい部屋』

「女性一人と男性二人の共同生活を追った作品集で、男性の一人は金川さん自身。1対1の性的な関係におさまらない人間関係は実現できるし、やっていきたいという意志があって、それが写真に表れています。彼らのポリアモリー(複数性愛)やそこに起きる変化を、すごく気持ちのいい、風通しのいい写真に仕上げまとめていて、僕は非常に共感しました」。

写真集をずっと見ていると、必ず自分の表現の仕方がわかってくる。だから、写真をやっている人は誰かの写真集を見ることがとても大事

「今はさまざまなメディアであふれるほどの写真を見ることができるけれど、写真集はやっぱり、視覚的体験として特別なものです。『新写真論』の著者、大山顕さんと対談をしたときに、大山さんがSNSの写真は“おしゃべり”のようなものだと言っていました。おしゃべりの楽しみって確かにあると思うんです。喫茶店でお茶をしながら、バーでお酒を飲みながら、人生の楽しい時間が過ぎていく。でも、写真を撮りたい人というのは、おしゃべりだけでは物足りないところがあるはずで、何か違うものを求めますよね。そんなとき、おしゃべりをある種の物語にしていくための、一番いいサンプルが写真集です。ジャンルもさまざまで、どんな切り口にも対応していて、その人がしたい表現のすべてが詰まっている。写真集を見ることは自らの表現に対して、すごくためになるはずです。なぜなら、何度も何度も見ていくうちに、自分の表現の仕方がだんだんわかってくるから。その“わかってくる”という感覚を得ることはとても大事であり、写真集を見ることの楽しさがわかるのもそこからです」。

information:写真集食堂 めぐたま

写真集食堂 めぐたま

飯沢氏所有の約5000冊の写真集と、日本の美味しいおうちごはんが楽しめるお店。写真集はすべて閲覧可能で、写真関連の催しも多数開催。

  • 〒150-0011 東京都渋谷区東3-2-7 1F
  • Google Map
  • 営業:12:00~22:00(L.O21:00)
  • 定休日:月曜、祝日
  • 問い合わせ:03-6805-1838

GENIC vol.73【Portrait Q&A】飯沢さんが、最近良いと思った写真集は?
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.73

2025年1月号の特集は「Portrait Q&A」。ポートレートの答えはここにある

人にカメラを向けるからこそ、迷いはなくしたい。自分の写真をちゃんと好きでいたい。そのためにどうするか?「答え」はここにあります。写真家や俳優、モデルなど41名が答えた、全45問のQ&A特集です。

GENICオンラインショップ

おすすめ記事

飯沢耕太郎/コラム「撮り続けた軌跡が人生となる。」

「Q.39 子どもにカメラを向けるとき、気をつけたいことは?」大畑陽子|Portrait Q&A 39/45

次の記事