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暗闇に光を探すかのように 大杉隼平(ロンドン)|連載「写真家が選んだ、最高の旅先」第7回

どんな思考回路で「最高の旅先」を選ぶのか。人それぞれだからこそおもしろい。15名が選んだBest Destinationには、熱き想いとたくさんのストーリーが詰まっています。誰かの旅をなぞりながら、「いつか自分の目で」とウィッシュリストに書き加える。そんな楽しみ方をしてみてください。全15回の連載、第7回はロンドンを起点に世界を歩く、写真家の大杉隼平さんです。

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目次

プロフィール

大杉隼平

写真家 1982年生まれ、東京都出身・在住。短大卒業後に渡英し、ロンドンで写真とアートを学び帰国。雑誌や広告、アーティスト写真をはじめ、ブランドとのコラボレーションや国内外のホテル撮影など、活動は多岐に渡る。CP+主催の「The Editors’ Photo Award ZOOMS JAPAN 2020」において、一般投票で最多票を獲得しパブリック賞を受賞。「旅と日常」をテーマに毎年写真展を開催している。
愛用カメラ:Leica M240、Hasselblad

暗闇に光を探すかのように Light from the darkness

苦しいとき、つらいとき、何かを生み出しやすい。“暗闇から何かを見つけたい”という感情が、自分にあるように思う

「教会の扉を開けると、一人の女性が祈りを捧げていました。そこから発せられる感情があって、どうしても撮りたいと思いました。カメラにつけていたレンズは50mm単焦点。本当にゆっくりと近づいていって撮影したこの写真には、緊張感が写っている。のちにこの作品を見た人から、『この女性は、何十年も祈り続けてきた人の手をしている』と言われました。とても大事な一枚です」。

「道路に水が流れる側溝があり、その上に寝そべって、匍匐前進するようにして撮影しました。奥に写る建物はタワー・ブリッジ。ロンドンらしい、赤いハイヒールの靴を履いた女性が前を通った瞬間にシャッターを切りました。寝転がって撮影することがよくあるのですが、おすすめです。『おまえ何やってんだ』と笑いながら声をかけてもらうことが多く、友達ができます(笑)」。

ロンドンは、二十歳の頃に4年間暮らした街でもある。いつも、今も、ロンドンが旅の始発点になっている

「ロンドンではキスをしている人たちをよく見かけます。その度いつも、尊いなと感じます。誰かが誰かを好きになって、相手を想う気持ちや愛がそこにはあって、すごくいいなって。ビッグ・ベンを望むこの場所は、好きでよく歩きます。いつもたくさんの人であふれているけれど、このときは写真の二人しかいませんでした」。

「ウエストミンスターにあるトラファルガー広場。大きな広場で、5月の時季だけ太陽が噴水の向こうに落ちる情景を見ることができます。ロンドンは地形的な理由から雲が多い街ですが、このときの空は晴れ渡っていました。光って本当に世界を変えてくれる。そんなことを感じながら撮影していました」。

「タワー・ブリッジの撮影同様、このときはどしゃぶりの雨の中で、びしゃびしゃに濡れた道路の真ん中に完全に寝そべって撮影していました。絞りを解放にし、道路に跳ね返る雨の雫を幻想的に写しています。ここは昔、父と歩いたことがある場所。そのときのことを思い出しながら撮影していました」。

父がいなくなってから、父の手紙を読んだ。言葉ではうまく表せない感情を歩き回り、写真で返信をしようとしている

「イギリス国内で最大級と言われる食品市場バラ・マーケットから出てすぐのところで、女の子が駆けてくるのが見えました。お母さんに向かって走っているのですが、ちょうど光が当たる場所にいて、咄嗟にカメラを構えて撮影しました。日に照らされて駆けていく子どもの姿が未来に向かい走っているように感じられて、何かいいなって思った瞬間です」。

自分の感情を表現するのが旅。写真には感情が表れ、言葉がある

「ロンドンは、二十歳の頃に4年間暮らした街です。ヨーロッパの中でも屈指の大都市ですが、街はコンパクト。多種多様な文化があり、多国籍な人たちが暮らしていて、自分はどうあるべきかを学んだ場所でもあります。日本にいた頃は周りの意見に流されてしまうことも多く、入学した写真専門学校もあまり面白さを感じられずにいました。それがロンドンへ行くと、誰しもが一人の人間として尊重され、あらゆる議論は“自分はどう思うのか”にありました。それがすごく、心地よいと感じました。以来、僕にとってロンドンは始発点。自分の原点でもあるし、旅としてもそう。イタリアやベルギー、チェコなど周辺諸国を訪れる際も、必ずロンドンをハブにしています。また、街がコンパクトであることは、写真が撮りやすいことでもあります。僕の旅先での撮影スタイルは、朝から晩まで、ひたすら歩き回るというもの。そうして探しているのは、感情です。自分の感情を表現するのが旅であり、探して撮っているのは、旅先の誰かの言葉やその瞬間だけの光などに呼応する自身の感情なのです。苦しいとき、つらいとき、生み出しやすい。暗闇から何かを見つけたいという感情が、自分にあるように思います。ロンドンの街は、曇りの日が多いし、暗くて、どこかネガティブな雰囲気を漂わせています。でもそのなかに、希望のような、光る何かを見つけたい。それが、僕がロンドンに惹かれる一番の理由なのかもしれません。僕の父は2018年に亡くなりました。その1カ月後くらいに父の部屋を整理していると、僕が生まれる少し前に、生まれてくる僕宛に父が書いた手紙が出てきました。その手紙は、とても響くものがありました。今、父の手紙に、43年のときを経て、写真で返信していくということをしています。写真には感情が表れ、言葉がある。来年の展示で、お見せできたらなと思っています」。

GENIC vol.77【Best Destination 写真家が選んだ、最高の旅先】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.77

2026年1月号のテーマは「写真家が選んだ、最高の旅先」

どんな旅をしたらいい?
その答えは、As you like. お好きなように、自分らしく。ルートを持たない余白たっぷりの旅でも。行先を詰め込んだ時間割びっしりな旅でも。
だって、旅は表現だから。
さて、旅人でもある写真家たちが選んだ「最高の旅先」はどこでしょうか?何かがあなたの心を撫でたなら、そこは次の目的地かもしれません。
永久保存版、GENICらしい、新しい旅のガイドブックの登場です。

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