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営みに宿る「生」 宮﨑美咲(インド)|連載「写真家が選んだ、最高の旅先」第5回

どんな思考回路で「最高の旅先」を選ぶのか。人それぞれだからこそおもしろい。15名が選んだBest Destinationには、熱き想いとたくさんのストーリーが詰まっています。誰かの旅をなぞりながら、「いつか自分の目で」とウィッシュリストに書き加える。そんな楽しみ方をしてみてください。全15回の連載、第5回は写真を通して人の心に小さな気づきや揺さぶりを届ける、写真家の宮﨑美咲さんが訪れたインドです。

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目次

プロフィール

宮﨑美咲

写真家 1994年生まれ、群馬県出身、静岡県在住。介護職を経てスタジオ勤務を経験した後、2018年に静岡東部へ拠点を移し、フリーで活動中。2024年にはインドの旅の記憶を表現した個展「-māyā-」を開催。
愛用カメラ:PENTAX 67、Nikon FE、FUJIFILM GFX50S II
愛用レンズ:smc Takumar 105mm F2.4

営みに宿る「生」

マザー・テレサの本をきっかけにインドへの旅が始まった

コルカタ「柔らかな光が街を包み、人々の1日が静かに始まる。店先には新鮮な野菜や花が並び、売り手と買い手の間に交わされる言葉が、街角をやさしく満たしていく。それぞれの役割を果たす人々の営みが、今日もここにある」。

「ひとつの場所に長く滞在し、そこの人々と関わりながら暮らすように過ごす旅が好きで、インドにも3年前から年に一度、2ヶ月ずつ滞在しています。小学生の頃に読んだ、マザー・テレサの本をきっかけに介護の道へ進み、そこで“人間らしい死”とは?という疑問が深まりました。その疑問に向き合うため、マザー・テレサが設立したコルカタの施設を訪れたいと思ったのがインドへの旅の始まりです」。

涙も笑いも怒りも、隠されず、そのまま路上に存在している

プラヤグラージ「世界最大の宗教行事と言われるマハ・クンブメーラ。その喧騒から少し離れた場所で、男性が銀色の箱を抱えていた。箱の真ん中には小さな神様が包まれ、大切に守られていた。男性はこの地まで小さな祈りを運び、神はただその箱の中で静かに男性の歩みに寄り添っていた」。

バラナシ「インドの街を歩くと、野犬は風景の一部のようにあたり前にいる。寝転がっているその体の下には、誰かが敷いた古い毛布があり、夜には店の人がいらなくなったご飯を差し出す。狂犬病という危険があっても、人々は完全に排除するでもなく、ただ『そこにいる命』として受け入れている。保護でも無関心でもない。生きもの同士として折り合いをつけて共に暮らしているように感じる」。

「インドは、私にとって世界の見方そのものを変えてくれた場所。初めてコルカタを訪れたときから、街のざらついた空気も、人の歩く速さも、祈りの匂いも、すべてが私の想像を軽々と超えていて、そこに圧倒されると同時に『生きている』という実感が身体の内側から立ち上がりました。誰かの涙も笑いも怒りも、隠されず、整えられず、そのまま路上に存在している。写真を撮るという行為は、そこにある『生』の断片をただ受け取らせてもらう作業だと、この場所が教えてくれました」。

初めて「人間として生きて死ぬ」ということが見え始めた場所

バラナシ「路地で出会った修行僧、アゴーリ。伝統的な儀礼のなかには死体に触れ、そこから生と死の境を溶かそうとする行為も含まれるという。その行為は世間から批判されることも多いが、世の中で隠されがちな領域を抱きしめるもうひとつの信仰のかたちだと感じた」。

バラナシ「朝日に照らされた神たち。特別な祈りの日でなくても毎朝こうして神たちに祈りを捧げる。祈っている時間そのものが、その人の呼吸を整え、不安をほどき、孤独をやわらげ、結果としてその人自身を救う。祈りとは、目に見えない誰かに向けたものに見えて、自分の内部に向かう静かな帰路なのだと思う」。

「旅を重ねるほどわからないことが増え、理解したつもりの輪郭が崩れ続ける。この矛盾こそが私にとってのインド愛。そこからコルカタ以外のインドの暮らしや祭りにも興味が湧き、旅を続けています。この土地は、正直どこを撮ってもフォトジェニック。だからこそ焦らず、まずは実際にその世界に触れ、心を揺さぶられてからシャッターに手を伸ばすようにしています。もの作りの手、チャイを注ぐ瞬間、祈る姿など、ひとつひとつの営みがどれもその人の生き方を映しており、特別な場面よりも、そんな日々のささやかな営みに宿る“生”を撮りたいと思うのです」。

バルドマン「マスタードの黄色い花。冬のベンガル地方では、一面に広がるマスタード畑が季節の風物詩。まだ冷たい空気の中で咲き誇る小さな黄色い花々は、まるで光の粒が大地に降り注いだかのように鮮やかで、冬から春へ向かう心を明るく照らしてくれる。毎年冬にインドを訪れる私は、この風景を見ることが楽しみのひとつになっている」。

コルカタ「洗濯物を干す女性。決して裕福ではない小さな家が連なる細い路地。電線は交差し、隣同士の生活の音も近い。子どもが笑う声、チャイをかき混ぜる金属音。どこにでもある営みなのに、ここで繰り返されているというだけで、私にはとても尊いものに見える。世界は派手な瞬間だけでできているわけではない」。

コルカタ「屋台の前で、2人の男性が黙々とじゃがいもを剥いていた。油の音や人の声が飛び交う喧騒のなかで、手元だけは静かに、迷いなく動いていた。一見なんてことのない日常の一場面。けれどその背後には、毎日繰り返される営みと、ひとつひとつの動作に染み込んだ時間の積み重ねがある」。

バラナシ「ガンジス川に投げ入れられた花輪。川の静かな流れと、花輪が描く軌跡だけが残るその姿は、目に見える形が消えても、祈りや願いは確かに存在し続けることを静かに教えてくれる光景だった」。

グワハティ「船に乗る人のためにお菓子を売る男性。船が岸につくたび人が押し寄せ、また静寂が戻る。この往復のリズムとともに、一日の糧をここで積み上げている」。

バラナシ「朝日がゆっくりと空を染め始めるその時、冬の間だけやって来る渡り鳥たちが空を舞い始める。無数の翼が朝の光を浴びて、その軌跡は空に道を描き、風に乗って遥かな場所へと続いていく。静かな空に、ただその美しい姿が刻まれ、ガンジス川で羽を休めた鳥たちは、やがてまた、どこか遠くへと旅を続ける」。

GENIC vol.77【Best Destination 写真家が選んだ、最高の旅先】
Edit:Satomi Maeda

GENIC vol.77

2026年1月号のテーマは「写真家が選んだ、最高の旅先」

どんな旅をしたらいい?
その答えは、As you like. お好きなように、自分らしく。ルートを持たない余白たっぷりの旅でも。行先を詰め込んだ時間割びっしりな旅でも。
だって、旅は表現だから。
さて、旅人でもある写真家たちが選んだ「最高の旅先」はどこでしょうか?何かがあなたの心を撫でたなら、そこは次の目的地かもしれません。
永久保存版、GENICらしい、新しい旅のガイドブックの登場です。

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