スパイスとカレーで巡る、この素晴らしき世界
旅先選びは探求したい。スパイスやカレーがそこにあるかどうかがすべて
タイにて。
「料理を撮影するときは、自然光のみが当たるシチュエーションばかり追いかけてしまいます。単純に好みだから。きれいに盛りつけられたものよりも、市場からテイクアウトしたものをばっと開いただけの方がおいしそうに見えたりするんです」。
タイのレストランで。
「手が入っている料理の写真が好きです。お店の人が持ってきたときの手、食べる人たちが伸ばしている手、スプーンやフォークを差し入れている手。ファインダーに手が入ってくるまで待つことも」。
ペルーの市場で食事をする家族と店の人々。
「家族の雰囲気がなにか独特で、ちょっと時が止まったような感覚になりました。自分のモットー通り、”隠し撮りにならないように”と気をつけ、カメラを構えたまましばらく待って、家族が僕を認識してから(嫌がらないことを確認したうえで)シャッターを切りました」。
メキシコにて。
「海外を旅すると、まるで映画のワンシーンのような場面に遭遇することはよくあります。それだけ非日常感が強いからですが。ハットをかぶった男性がかっこよかったので、彼のハットが映える場所にくるタイミングを待ちました」。
パキスタンのレストランで、2階の仕込み場を見せてもらったときに見つけた穴から。
「できあがった大鍋をゆっくり下におろすと、売り場にすぽっと収まる仕組み。覗き込むと店頭で売るおじさんが見える。正円と直線(直角)がバランスよく配置された構図で撮影」。
トルコのレストラン。
「調理場はすぐに覗いたり入って行ったりしたくなる。2階席に通されて、階段を上っていく途中に調理場が見えた。おいしそうな料理が手前にあったので、何枚か撮影。途中で料理人のひとりが僕に気がついて、サムズアップ。その瞬間がよかった」。
自分の目で確かめたい。カレーの旅は、旅すること自体が"こだわり"なんです
「小学1年生のときに両親と行った浜松市にあったインド料理専門店『ボンベイ』の味に夢中になったのが、カレーに興味を持ったきっかけです。写真は、学生時代にヨーロッパ各国を訪れた際、コンパクトカメラに36枚撮りのモノクロフィルムを入れてスナップを撮りながら旅をしたのが始まり。帰国後、大学の写真部を訪ねてフィルム現像とプリントの手ほどきを受けたとき、その作業が魅力的でハマったんです。そこで、幼い頃から好きだったカレーと大学時代に出会った写真とが結びつきました。今まで旅した国は30か国くらい。旅先の選択は、探求したいスパイスやカレーがあるかどうかがすべてです。テーマが決まったら旅をしますが、旅路で次の行き先が浮かぶことも。たとえば、唐辛子に興味を持ったのは、トルコ滞在時。原産地の南米ペルーを訪れたくなり、ついでにメキシコにも寄りました。カレーの旅は、旅すること自体が"こだわり"。ネットで検索したり、人に聞いたりすることで終わらせず、自分の目で見て確かめたいと思っています。写真を撮るときには、カメラを構えていることを察知してもらったり、アイコンタクトを取ったりして、その上でカメラを気にせずいつも通りにしている姿を撮りたい。撮影は、できるだけフォーカスしたい被写体の周囲も撮れるように"ズームを使わない(基本的には28mm単焦点)" 、"できるだけドラマチックにならないように、縦位置では撮らない"のがマイルール。どちらも自分なりにですが、"記録写真"であることを尊重するためです。この素晴らしき世界を、スパイスやカレーという超マニアックな切り口に限定して捉えるというのが、自分にしかできない行為だと思っています」。
ジンケ・ブレッソン(水野仁輔)
記録写真家 1974年生まれ、静岡県出身。カメラ歴は29年。学生時代、バックパックで訪れたパリで写真に目覚め、街をうろつき暗室にこもる日々を送る。以後、ライフワークである「カレーとは何か?」を探る世界各地への旅にカメラを携え、記録を続けている。
愛用カメラ:Leica Q2、Nikon D80、RICOH GR
Information
B5版オールカラー40ページの、世界のカレーを探る旅の記録写真集。
『CURRY JOURNEY』(イートミー出版)シリーズ vol.1~9 発売中。
GENIC vol.68【This is my Journey. 我が旅をゆく。】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC vol.68
10月号の特集は「旅と写真と」。 まだ見ぬ光景を求めて、新しい出逢いに期待して、私たちは旅に出ます。どんな時も旅することを諦めず、その想いを持ち続けてきました。ふたたび動き出した時計を止めずに、「いつか」という言葉を捨てて。写真は旅する原動力。今すぐカメラを持って、日本へ、世界へ。約2年ぶりの旅写真特集。写真家、表現者たちそれぞれの「旅のフレーム」をたっぷりとお届けします。