目次
- 一人ひとり、歩いてきた。そして今、ここで、見つめあう。
- 展覧会「I’m So Happy You Are Here」とは
- 本展の見どころ
- 見どころ1:世界が注目する日本の女性写真家30名が渋谷に集結。記憶、身体、日常、ジェンダーなど多彩なテーマでたどるそれぞれの軌跡
- 見どころ2:アルル国際写真フェスティバルを皮切りに、14万人を動員した大規模世界巡回展。拡大して待望の日本上陸
- 見どころ3:渋谷の街と溶け合い、広がり、発信する ライブ感あふれる祝祭的展覧会
- 第1章 「写真」をめぐる冒険−想像力を解き放て!
- 第1章 出展作家
- 今井壽惠
- 岡上淑子
- オノデラユキ
- 小松浩子
- 今道子
- 杉浦邦恵
- 多和田有希
- 蜷川実花
- 山沢栄子
- 第2章 「記録と記憶」をめぐる冒険−目に見えないものに向かって
- 第2章 出展作家
- 石内都
- 石川真生
- 岩根愛
- 志賀理江子
- 常盤とよ子
- 西村多美子
- 藤岡亜弥
- 米田知子
- 渡辺眸
- 第3章 「女性」をめぐる冒険−ジェンダー、身体、セクシュアリティ
- 第3章 出展作家
- 岡部桃
- 片山真理
- 澤田知子
- 長島有里枝
- 野村佐紀子
- やなぎみわ
- 第4章 「日常」をめぐる冒険−見過ごされた風景の中で
- 第4章 出展作家
- 潮田登久子
- 川内倫子
- 楢橋朝子
- 野口里佳
- 原美樹子
- ヒロミックス
- Column
- Column 1:多様な専門性をもつ作家たち
- Column 2:社会を記録するまなざし
- Column 3:領域を横断する作家たち
- Column 4:「女の子写真」という語り
- Column 5:海を超えた活躍と評価
- 特別出品 出展作家
- 島隆
- キュレーター
- 日本展担当キュレーター 竹内万里子
- ポリーヌ・ヴェルマール
- レスリー・A・マーティン
- 展覧会「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」情報
- 開催日時
- 入場料
- 会場
- 行き方・アクセス
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一人ひとり、歩いてきた。そして今、ここで、見つめあう。
近年、国際的な注目を大きく集めている日本の写真表現。しかしこれまで、その代表として紹介される写真家はとかく男性に偏りがちでした。そうした中、2024年夏には、1950年代から今日まで、表現の世界において重要な役割を果たしてきた女性写真家に光を当てた書籍『I’m So Happy You Are Here』が英仏2か国語で刊行。これにあわせ開催された同名の展覧会は、フランス・アルル国際写真祭を皮切りに世界巡回を続けています。いずれも、新たな角度から日本の写真表現を辿り、その歴史を見直す画期的な出来事として高く評価されています。
その凱旋記念となる本展は、出品作家・展示内容を拡大し30名の女性写真家を紹介するものです。「写真」という枠組みを超え、インスタレーション、コラージュ、映像など、多様なアプローチによる作品約200点が一堂に集結。記憶、身体、日常、ジェンダーなど、様々なテーマに向けられた彼女たちのまなざしと、創造性に満ちたそれぞれの表現。数年後に拡大移転を控えたBunkamura ザ・ミュージアムが、あらゆる個性の渦巻く街・渋谷を舞台に、「写真」を通じて問いかける本展をお見逃しなく。
展覧会「I’m So Happy You Are Here」とは
大型書籍『I’m So Happy You Are Here』(全440頁、Aperture刊・仏語版Editions Textuel刊)の刊行に合わせて、本書の共同編纂者であるポリーヌ・ヴェルマール(ブルックリン美術館写真キュレーター)、レスリー・A・マーティン(Printed Matter エグゼクティブ・ディレクター)、さらに本書寄稿者である竹内万里子の3名による共同キュレーションにより2024年夏、アルル国際写真祭にて開催された展覧会。その後、ハーグ(2025年1月〜5月)、フランクフルト(2025年5月〜9月)を経て、さらにロンドン(2026年6月〜9月)、ニューヨーク(2026年10月〜2027年1月)他へ巡回予定。今回の日本展は、この欧米巡回展を拡大させた特別バージョンであり、またロンドンのThe Photographers' Galleryとほぼ同時開催となるそう。
本展の見どころ
本展は、欧米巡回展の出品作家26名に、さらに4名(今井壽惠、岩根愛、藤岡亜弥、米田知子)が加わり、総勢30名による女性写真家たちの作品が一堂に会する前例のない大規模展。展示内容も一部変更・拡張し、ヒカリエホールの広い空間を生かしたインスタレーションを実現(岩根愛、小松浩子、多和田有希、長島有里枝)。さらに観客参加型作品(澤田知子「OMIAI♡」人気投票)や映像プロジェクション(川内倫子、蜷川実花)など、ここでしか見ることができない大変貴重な内容となるそう。
見どころ1:世界が注目する日本の女性写真家30名が渋谷に集結。記憶、身体、日常、ジェンダーなど多彩なテーマでたどるそれぞれの軌跡
見どころ2:アルル国際写真フェスティバルを皮切りに、14万人を動員した大規模世界巡回展。拡大して待望の日本上陸
見どころ3:渋谷の街と溶け合い、広がり、発信する ライブ感あふれる祝祭的展覧会
第1章 「写真」をめぐる冒険−想像力を解き放て!
「写真」とは、いったい何でしょうか。それは、撮るだけのものではありません。カメラを使わず印画紙に直接光を当てるフォトグラム、物質性を生かしたコラージュやモンタージュ。スライドプロジェクションやインスタレーションなど、空間的な展開もいまや珍しくありません。本章では、大胆な実験精神をもって「見ること」や「写真」をめぐる価値観を揺さぶる作品をご紹介します。写真は、もっと自由なのです。
第1章 出展作家
今井壽惠
1931年東京府生まれ。生家は中野にあった「今井写真館」。1952年文化学院美術科卒業。父の友人の薦めで写真を志す。1956年、初個展「白昼夢」を開催。詩的かつ幻想的な作風で注目され、〈オフェリアその後〉等のシリーズを生んだ。1959年日本写真批評家協会新人賞、翌年『カメラ芸術』芸術賞を受賞。1962年、写真評論家の福島辰夫の企画による「NON」展に参加。同年、タクシーに乗車中の衝突事故により、視力を一時的に失う。回復後、映画「アラビアのロレンス」で勇壮な馬の姿に感動する。1965年細江英公、寺山修司と同行し、初めて競馬場を訪れた。1966年以降は名馬の撮影に心を傾けた。2009年逝去。
岡上淑子
1928年、高知県生まれ。文化学院デザイン科で出された課題をきっかけにコラージュを始める。瀧口修造に見出され、タケミヤ画廊で初個展「岡上淑子コラージュ展」を開催。東京国立近代美術館でのグループ展にも参加し、活躍したが、1957年の結婚後制作から離れる。1996年「1953年ライトアップ ―新しい戦後美術像が見えてきた」展(目黒区美術館)に4点出品。写真評論家、金子隆一の企画で、2000年に44年ぶりの個展「岡上淑子フォト・コラージュ 夢のしずく」(第一生命南ギャラリー)を開催。その後再評価が一層進み、写真集出版や展覧会開催が次々と実現する契機となった。
オノデラユキ
1962年、東京生まれ。1984年に桑沢デザイン研究所卒業後、服飾デザイン業の傍ら独学で写真を始める。1991年、第1回キヤノン写真新世紀優秀賞を受賞。1993年よりパリを拠点に活動を始め、様々な手法を組み合わせ実験的な作品を数多く制作している。2002年に刊行した写真集『camera Chimera』(水声社)により、第28回木村伊兵衛写真賞を受賞。2006年にはフランスで最も権威のある写真賞と言われるニエプス賞を受賞した。2011年には、前年に開催された個展「オノデラユキ 写真の迷宮(ラビリンス)へ」(東京都美術館)により、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。
小松浩子
1969年、神奈川県出身、東京を拠点に活動。2009年にギャラリー山口にて初個展。2017年に開催された「鏡と穴-彫刻と写真の界面 vol.4 小松浩子」展(ギャラリー α M)での展示《人格的自律処理》と、イタリアの「THE POWER OF IMAGES」展(MAST 財団) における《The Wall, from 生体衛生保全, 2015》の2点により、翌年 第43回木村伊兵衛写真賞を受賞。プリントを壁から床まで敷き詰める、ロール紙を丸ごと垂らすなど、写真が持つ物質性を露わにしたダイナミックなインスタレーションを展開している。
今道子
1955年、神奈川県鎌倉市生まれ。創形美術学校版画科卒業後、東京写真専門学校(現:東京ビジュアルアーツ)で写真を学ぶ。1985年の初個展「静物」(新宿ニコンサロン)以降、本格的な作家活動を開始。野菜や魚などの食材や、花や昆虫を素材として特異なオブジェを制作、自然光で撮影し、幻想的なモノクロームの世界観を作り上げた。1987年、第3回写真の町東川賞新人作家賞を受賞。1990年にフォト・ギャラリー・インターナショナル(現:PGI)で開催された個展「EAT Recent Works」により、翌年第16回木村伊兵衛写真賞を受賞。2021年には神奈川県立近代美術館 鎌倉別館にて大規模個展「フィリア 今道子」が開催された。
杉浦邦恵
1942年、愛知県名古屋市生まれ。1967年シカゴ美術館附属美術大学にて学士号を取得。在学中ケネス・ジョセフソンに師事したことを機に写真を始め、卒業後はニューヨークに拠点を写す。キャンバス上で写真とアクリル絵画を組み合わせたフォトキャンバスや、身近なモチーフを定着させたフォトグラム、それを応用し、著名なアーティストのシルエットを写し出したシリーズなど、実験的な作品を意欲的に制作し続けている。2007年、第23回写真の町東川賞国内作家賞を受賞。2018年には大規模な個展「杉浦邦恵 うつくしい実験 ニューヨークとの50年」(東京都写真美術館)、2025年には「Kunié Sugiura: Photopainting」(サンフランシスコ近代美術館)が開催された。
多和田有希
1978年、静岡県浜松市生まれ。東北大学農学部応用生物化学科生命工学専攻卒業、ロンドン芸術大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツ卒業、東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了。現在京都芸術大学教授。人間の精神的治癒をテーマに、自ら撮影した写真を削る、燃やすなどの行為を通して、個や群衆の意識や感情をイメージとして湧出させ、「心の層を可視化する」表現を提示している。近年の主な展覧会に、個展「Poetry, Sci-Fi, Flesh and Spirit」( 国際交流基金ベトナム日本文化交流センター、2025年)、「Photography Now」(Victoria and Albert Museum、2025年)、「見るは触れる日本の新進作家 vol.19」(東京都写真美術館、2022年)がある。
蜷川実花
1972年東京都生まれ。多摩美術大学在学中に「ひとつぼ展」グランプリ、キヤノン写真新世紀優秀賞を受賞。第26回木村伊兵衛写真賞ほか多数の賞を受賞している。これまでに刊行した写真集や展覧会はいずれも数多く、国内外で精力的に作品を発表。最新写真集に『VIRA』(2026年)、『mirror, mirror, mirror』(2026年)がある。2007年には映画「さくらん」で監督デビュー、その後も「ヘルタースケルター」(2012年)等話題作を発表。現在はクリエイティブチーム「EiM(エイム)」の一員としても活動し、空間インスタレーションも多く手掛ける。2025年開催の個展「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」(京都市京セラ美術館)は25万人を動員した。
山沢栄子
1899年、大阪府生まれ。1918年、私立女子美術学校(現:女子美術大学)日本画科卒業。1926年渡米し、カリフォルニア・スクール・オブ・ファイン・アーツで絵画を専攻する傍ら、写真家コンスエロ・カナガの助手となり写真を学んだ。1929年に帰国。1931年大阪の堂島ビルヂングに最初のスタジオを開設。第二次世界大戦など大きな時代の変化の中でもポートレートや商業写真を撮影した。1960年以降は営業のためのスタジオを閉じ、後進の育成と自身の作品制作に専念、アブストラクトのシリーズ〈What I Am Doing〉などの名作を生んだ。1995年、逝去。
第2章 「記録と記憶」をめぐる冒険−目に見えないものに向かって
カメラは目の前の光景を緻密に記録する一方、そのディティールやニュアンスを通じて、目に見えない他者の記憶や気配を喚起することができます。そこでこの章では、目に見える世界(記録)を通じて目に見えない世界(記憶)を掘り下げる作品をご紹介します。そこに共通するのは、歴史が個人の小さな記憶の集積であることを認識し、それらの小さな声に丁寧に耳を傾けようとする姿勢です。つまりそれは、歴史と現在をつなごうとする真摯な取り組みでもあります。
第2章 出展作家
石内都
1947年、群馬県桐生市に生まれ、横須賀市で育つ。現在は桐生市を拠点に活動。1979年、写真『APARTMENT』(写真通信社、1978年)等により、女性写真家として初の第4 回木村伊兵衛写真賞を受賞。2005 年、第51回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出され、「mother's 2000-2005 未来の刻印」と題して出品。2008年、被爆者の遺品を撮影した『ひろしま』(集英社)を刊行、翌年第50回毎日芸術賞を受賞。2013年紫綬褒章受章。2014年にはアジア女性として初めてハッセルブラッド国際写真賞を受賞。衣服や身体に刻まれた時の記憶を、写真を通して表現し続けている。
石川真生
1953年、沖縄県生まれ、在住。1971年、沖縄返還協定を巡る武力衝突をきっかけに写真を志し、1974年WORKSHOP写真学校の東松照明教室で学ぶ。以降、米軍基地を抱える沖縄と、沖縄をめぐる人々を見つめ、寄り添う視点で撮影を続けている。2021年大規模個展「石川真生展:醜くも美しい人の一生、私は人間が好きだ。」(沖縄県立博物館・美術館、2021年)が開催。2014年から取り組んでいるシリーズ〈大琉球写真絵巻〉を中心とした展覧会「石川真生 私に何ができるか」(東京オペラシティアートギャラリー、2023年)により、2024年、第74回芸術選奨文部科学大臣賞および第43回土門拳賞を受賞。
岩根愛
東京都出身。1991年渡米し、ペトロリアハイスクールに留学、自給自足の暮らしの中で学ぶ。帰国後1996年に写真家として活動を始める。2006年ハワイで日系人の墓を撮影したことをきっかけに、移民が受け継いできた盆踊りのエネルギーに魅せられ、東日本大震災後はハワイで人気の「フクシマオンド」のふるさと、福島との繋がりに着目し撮影を続けている。2013年より福島県三春町を拠点に活動。初の写真集『KIPUKA』(青幻舎、2018年)で2019年第44回木村伊兵衛写真賞、第44回伊奈信男賞等を受賞。著書に『キプカへの旅』(太田出版、2019年)、写真集に『A NEW RIVER』『Coho Come Home』(ともにbookshop M、2022/2024年)がある。
志賀理江子
1980年、愛知県生まれ。ロンドン芸術大学留学を経て、2008年より宮城県在住。同年刊行の写真集『Lilly』(アートビートパブリッシャーズ)『CANARY』(赤々舎)にて、第33回木村伊兵衛写真賞を受賞。訪れた地のコミュニティを取材し、その営みを深く探求。東日本大震災の被災経験を経て生まれた〈螺旋海岸〉は、同名の個展(せんだいメディアテーク、2012年)や写真集(赤々舎、2013年)等を通して、多くの人々に衝撃をもって受け止められた。他に主な個展は「ヒューマン・スプリング」(東京都写真美術館、2019年)等。近年は自身のスタジオを開放してのトークやワークショップなどにも力を入れている。
常盤とよ子
1928年、神奈川県横浜市生まれ。1950年東京家政大学を卒業。横浜の通信社勤務時代、後に夫となる写真家・奥村泰宏と出会い、自身も撮影を始める。1956年に初個展「働く女性」展(小西六ギャラリー)を開催。看護婦やショップガールなど14の職業に就く女性たちを写した作品の中でも、赤線地帯で働く女性を捉えたシリーズは社会的にも注目を集め、翌年には取材をまとめた写真エッセイ集『危険な毒花』(三笠書房)がベストセラーとなった。その後も横浜を拠点に、働く女性の他、米軍基地のある横須賀や沖縄の街、老人問題などを取材し、一貫して社会問題に取り組み続けた。2019年逝去。
西村多美子
1948年、東京都生まれ。1969年東京写真専門学院(現:ビジュアルアーツ)卒業。在学中に唐十郎率いる状況劇場の無台に通い、麿赤兒や四谷シモンなどを撮影。粗粒子、ハイコントラストによる、スナップ調のモノクローム作品で知られる。北海道と東北を中心に日本各地へ旅し、『しきしま』(東京写真専門学校出版局、1973年を出版。90年代以降はヨーロッパ、中米、東南アジアなど海外も訪れ撮影を続けている。主な写真集に、『熱い風』(蒼穹舎、2005年)、『憧景』(グラフィカ編集室、2012年)、『舞人木花咲耶姫 — 子連れ旅日記』(禅フォトギャラリー、2016年)等。『旅人(My Journey)』(禅フォトギャラリー、2018年)、『続 (My Journey II. 1968-1989)』(禅フォトギャラリー、2020年)、『あれから(My Journey III. 1993-2022)』(禅フォトギャラリー、2022年)、『追想』(禅フォトギャラリー、2024年)がある。
藤岡亜弥
撮影旅行を経て、2007年文化庁新進芸術家派遣制度でニューヨークに滞在。2013年より故郷の広島を拠点に活動している。戦後約70年の広島を撮り続けた写真集『川はゆく』(赤々舎、2017年)により、第41回伊奈信男賞受賞、2018年第27回林忠彦賞、第43回木村伊兵衛写真賞を受賞。2021年からは住民グループ「小田みんぞく事始め会」を発足させ、地元の記憶をつなぎとめる取り組みを続けている。主な写真集として他に『私は眠らない』(赤々舎、2009年)、『Life Studies』(同、2025年)等。
米田知子
1965年、兵庫県生まれ、ロンドンを拠点に活動。戦争や災害、事件など、史実の舞台となった場所に赴きその風景を撮影、静謐な風景の中に負の記憶を呼び起こすシリーズ〈Scene〉など、歴史と記憶をテーマに制作を続けている。主なシリーズとしては他に〈Between Visible and Invisible〉、阪神・淡路大震災をテーマとした〈震災から10年〉などがある。2021年にマフレ財団で個展開催。2013年に東京都写真美術館で開催された「米田知子 暗なきところで逢えれば」展により、翌年芸術選奨⽂部科学⼤⾂新⼈賞を受賞。主な出版物に「米田知子:雪解けのあとに」(赤々舎、2014年)、「Between Visible」(Nazraeli Press、2004年)など。
渡辺眸
東京都生まれ。1968年、東京総合写真専門学校卒業。その卒業制作展で〈香具師の世界〉を発表。その後も取材を続け『アサヒグラフ』『写真映像』に作品が掲載される。この頃、新宿で全共闘ムーヴメントに遭遇、街中や東大安田講堂で繰り広げられる学生運動にファインダーを向け、『東大全共闘 われわれにとって東大闘争とは何か』(三一書房、1969年)を出版。1972年にはアジアを旅し、特にインド、ネパールに触発され『天竺』(野草社、1983年)等を刊行。他に主な写真集として『猿年紀』(新潮社、1994年)、『1968新宿』(街から舎、2014年)、『TEKIYA 香具師』(地湧社、2017年)、『LOTUS』(野草社、2024年)などがある。
第3章 「女性」をめぐる冒険−ジェンダー、身体、セクシュアリティ
あるがままの自分でありたい。誰もがそう願いながら、実際には容易ではない現実の背景には、女らしさや男らしさといった社会規範(ジェンダー)や外見至上主義(ルッキズム)など、様々な要因があります。とりわけ女性の身体はそうした価値観にさらされてきました。この章では、ジェンダーや身体をめぐる問題を多角度から探る作品をご紹介します。それらはカメラを通して自分の身体と向き合い、生きることの手触りを他者との関わりの中で確かめる、切実な試みなのです。
第3章 出展作家
岡部桃
1981年、東京生まれ。6歳までフランスで育つ。日本大学芸術学部卒業。1999年第8回キヤノン写真新世紀展優秀賞(荒木経惟選)を受賞。セクシャルマイノリティの恋人に肉薄した写真集『Dildo』(SESSION PRESS、2013年)と翌年の『Bible』(同)は、特に欧米で高く評価され2015年にFOAM’s Paul Huf awardを受賞している。自身の体外受精と妊娠、出産を記録した『ILMATAR』(Mandarake、2020年)、最新作『MY BLOODY HAND』(Little Big Man、2025年)と全4冊の写真集は、鮮烈な生々しさをもって見る者に迫り、胸の奥にかすかな潰瘍を残して去っていく、いずれも濃度の高い内容となっている。
片山真理
1987年、埼玉県生まれ、群馬県太田市で育つ。現在は伊勢崎市在住。東京藝術大学大学院美術研究家先端芸術表現専攻修士課程修了。自身の身体を模したオブジェを用い、幼い頃より親しんだ裁縫やコラージュを活かしたセルフポートレートを制作している。写真集『GIFT』(United Vagabonds、2019年)及び第58回ヴェネチア・ビエンナーレ 国際美術展「May You Live in Interesting Times」における展示により、2020年第45回木村伊兵衛写真賞を受賞。2011年より「ハイヒールプロジェクト」を開始、歌手やモデルとしても活動している。2025年に写真集『Synthesis』(SPBH Editions / MACK)を刊行。
澤田知子
兵庫県神戸市生まれ。成安造形大学造形学部デザイン科写真クラス研究生修了。デビュー作《ID400》で2000年キヤノン写真新世紀特別賞、個展「Costume」に至る写真活動に対して、2004年木村伊兵衛写真賞を受賞。2007年からポーラ美術振興財団の在外研修助成によりニューヨークに10ヶ月滞在。さらに2010年から2年間、文化庁新進芸術家海外研修制度の下、その後も2013年まで同地に滞在。学生時代に出された課題をきっかけにセルフポートレートにのめり込み、自身の外見を変幻自在に変え撮影する手法で「内面と外面の関係」をテーマに制作を続けている。国内外で展覧会を開催、写真集の他絵本も出版している。2021年には東京都写真美術館にて個展「澤田知子 狐の嫁いり」が開催された。
長島有里枝
写真家/アーティスト/文筆家 1973年、東京都生まれ。武蔵野美術大学在学中に公募展を経て美術の活動を開始。カリフォルニア芸術大学MFA写真専攻、武蔵大学人文社会研究科前期課程修了。写真では第26回木村伊兵衛写真賞、第36回写真の町東川賞国内作家賞を受賞、文芸作品では短編集『背中の記憶』(講談社、2015年)で第26回講談社エッセイ賞、『「僕ら」の「女の子写真」から わたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林、2020年) で日本写真協会賞学芸賞を受賞。近著に『Self-Portraits』(Dashwood Books、2020年)、『こんな大人になりました』(集英社、2023年)、『去年の今日』(講談社、2023年)など。武蔵野美術大学造形学部客員教授。白水社『ウェブふらんす』で連載「猫ちゅみ観察記」を連載中。
野村佐紀子
1967年、山口県下関市生まれ、東京都在住。九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、91年より荒木経惟に師事する。93年に初の個展「針のない時計」(Egg gallery)を開催。湿潤な空気を感じさせる室内で、目の前のモデルから濃密なまなざしを引き出した男性ヌードの他、俳優やダンサー、花や風景など、様々な被写体と対峙し撮影を続けている。主な写真集に『黒闇』(Akio Nagasawa Publishing、2008年)、『夜間飛行』(リトルモア、2008年)、『Flower』(リブロアルテ、2015年)『愛について』(ASAMI OKADA PUBLISHING、2017年)、『majestic』(Bcc Co., Ltd.、2022年)『Lirio(bookshop M Co., Ltd.2025年)など。2016年の写真集『もうひとつの黒闇』(Akio Nagasawa Publishing)により、翌年第33回写真の町写真の町東川賞新人作家賞を受賞。
やなぎみわ
美術家/舞台演出家 1967年、兵庫県神戸市生まれ、京都在住。1993年、京都のアートスペース虹にて初個展「The White Casket」を開催。一見華やかでありながら、閉鎖的な空間に閉じ込められた若い女性を描いた〈エレベーター・ガール〉シリーズは、ジェンダーの視点からも国内外で高く評価された。2009年、第53回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本代表作家となる。2011年より舞台演出を手掛け、2016年より野外劇を上演するなど、ジャンルを超えて幅広く活動。2019年から翌年にかけて、大規模個展「神話機械」が全国を巡回した。
第4章 「日常」をめぐる冒険−見過ごされた風景の中で
冒険とは、日常とかけ離れた状況に身を置くことを言います。しかしだからといって、日常の中に冒険がないわけではありません。むしろ身近な日常に目を凝らし、そこに新たな価値を見出す冒険的な姿勢こそ、写真が得意とするもののひとつです。この章では様々な作品を通して、取るに足らないとして見過ごされてきた日常の光景に新たな視点を導入する可能性を探ります。その気づきは、一人ひとりが生きてゆく日々を肯定するための力になることでしょう。
第4章 出展作家
潮田登久子
1940年、東京都生まれ。桑沢デザイン研究所で石元泰博と大辻清司の指導を受ける。1963年、同研究所リビングデザイン研究科写真専攻卒業。1966年~1978年、桑沢デザイン研究所及び東京造形大学で講師を務め、1975年頃よりフリーランス。身近な対象を淡々と観察し、ひとつひとつ記録するようにシャッターを切っていった。主なシリーズに〈冷蔵庫/ICE BOX〉〈マイハズバンド〉等。写真集『本の景色/BIBLIOTHECA』(ウシマオダ、2017年)により2018年に土門拳賞を受賞。このシリーズの最新作「玉里文庫 —鹿児島大学附属図書館貴重書庫の景色—」が2025年にPGIにて展示された。
川内倫子
1972年、滋賀県生まれ、千葉県在住。2001年刊行の写真集『うたたね』『花火』(リトルモア)により、第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。生と死、光と影といった、日常に存在する両極かつ隣り合わせの要素が、淡くやわらかい光と色調の中に浮かび上がる作品は国内外で高く評価されている。2013年芸術選奨文部科学大臣新人賞、2023年にはソニーワールドフォトグラフィーアワードの特別功労賞を日本人として初めて受賞している。2022-2023年、東京オペラシティアートギャラリーと滋賀県立美術館で大規模個展「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」を開催。
楢橋朝子
1959年、東京都生まれ、在住。早稲田大学第二文学部美術専攻卒業。翌年自ら発表の場として暗室も兼ねた「03FOTOS」をオープンし2001年まで継続する。1997年に写真集『NU・E』、2003年にはカラーで日本国内を撮影した『フニクリフニクラ』(蒼穹舎)、2007年『half awake and half asleep in the water』を刊行。他の写真集に『Ever After』(オリシス、2013年)『ギプス』(オリシス、2018年)、『春は曙』(オリシス、2021年)などがある。受賞歴に写真協会新人賞(1998年)、写真の会賞(2004年)、写真の町東川賞国内作家賞(2008年)。
野口里佳
1971年、埼玉県生まれ、沖縄県在住。日本大学芸術学部写真学科卒業。1992年より写真制作を始め、近年は立体や映像による作品も制作している。身近にある小さな命の営みから、遠い宇宙の壮大なスケールまで、独自の視点と透明感のある色彩で表現。〈フジヤマ〉(1997‐2011年)、〈太陽〉(2005-2008年)、〈きゅうり〉(2017年)、〈クマンバチ〉(2019年)など数々のシリーズを生み出している。主な個展に「光は未来に届く」(IZU PHOTO MUSEUM、2011-2012年)、「不思議な力」(東京都写真美術館、2022-2023年)、など。2002年、写真集『鳥を見る』等により第52回芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)を受賞。
原美樹子
1967年、富山県生まれ、神奈川県川崎市在住。慶應義塾大学文学部卒業後、東京綜合写真専門学校で写真を学ぶ。1996年に初個展「Is As It」(ギャラリー ・ル デコ)を開催。以降、国内外で作品を発表。クラシックなカメラを用い、あまりファインダーを覗かず、ピントも目測で合わせるスナップショットのスタイルを貫いている。2017年、日米仏で共同出版された写真集『Change』(The Gould Collection、2016年)により第42回木村伊兵衛写真賞を受賞。2023年には写真の町写真の町東川賞国内作家賞を受賞。写真集は他に『Small Myths』(Chose Commune、2022年)など。
ヒロミックス
1976年、東京都生まれ。1995年「写真新世紀」グランプリを18歳で受賞。以降、1990年代のガーリー・フォトブームを牽引する写真家として音楽・カルチャー誌をはじめとする様々なメディアで活躍。写真集『HIROMIX』(Steidl)でKODAK PHOTO PRIZE(1998年)、写真集『Hiromix Works』(ロッキング・オン、2000年)で第26回木村伊兵衛写真賞を受賞。ソフィア・コッポラ監督の映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2004年)に出演し、海外でも広く知られる。その他の主な写真集に1997年の『girls blue』『光』(共にロッキング・オン)、『JAPANESE BEAUTY』(マガジンハウス)などがある。
Column
Column 1:多様な専門性をもつ作家たち
異なる専門分野で学んだり活動してから写真にたどり着いた作家は数多くいます。本展出品作家では、山沢栄子(日本画、油画)、今井壽惠(油画)、石内都(染色)、今道子(版画)、川内倫子(グラフィックデザイン)、小松浩子(音楽活動)、多和田有希(生命工学)などが挙げられます。そうした背景が個々の作品世界をどのように豊かにしているかを想像してみると、新たな視点が得られるかもしれません。
Column 2:社会を記録するまなざし
既成概念にとらわれず、カメラを通して目の前の現実を記録することも写真家の重要な役割のひとつです。日本女性写真家のパイオニアの一人である常盤とよ子は、戦後社会で様々な職業に就く女性を撮影し、赤線地帯で働く女性を取材して『危険な毒花』(1957年)を出版しました。1960年代末の東大安田講堂事件では、渡辺眸が唯一の女性写真家としてバリケード内を撮影しました。米国統治下の沖縄で生まれた石川真生は、日米間で揺れる沖縄を1970年代から撮り続けてきました。藤岡亜弥は自身の出身地・広島で、ステレオタイプな平和都市としてではない街と人々の姿を記録し続けています。
Column 3:領域を横断する作家たち
写真に自らを限定することなく、複数のジャンルをまたいで活動する作家も少なくありません。
杉浦邦恵は写真と絵画の境界を横断する作品でも知られ、多和田有希は陶芸家と共同制作をしています。やなぎみわは従来の演劇の枠にとらわれない野外劇等の演出、小松浩子はミュージックビデオの監督、蜷川実花は映画監督としても活躍中です。他にも長島有里枝が短編集『背中の記憶』で三島由紀夫賞候補になったり、志賀理江子が梅原猛人類哲学賞を受賞するなど、多方面でその活躍が評価されています。
Column 4:「女の子写真」という語り
1990年代、日本で写真を撮る若い女性の作家たちが台頭した際、彼女たちの作品は技術的に拙く視野が狭い未熟な存在としてひとくくりにされ、「女の子写真」と呼ばれて本質から離れた部分でもてはやされました。その中心的な存在とみなされていた長島有里枝、蜷川実花、ヒロミックスは、2001年に写真界の芥川賞と呼ばれる木村伊兵衛写真賞を同時に受賞しましたが、それは日本社会における著しいジェンダーギャップ(男女格差)を反映する象徴的な出来事でもありました。のちに長島は『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』を出版し、当時の言説に内在した問題点をフェミニズムの視点から分析・検証しています。
Column 5:海を超えた活躍と評価
日本女性写真家の活躍と評価は国内にとどまりません。パイオニアの一人である山沢栄子は、海外渡航が大変困難だった1926年に27歳で渡米しました。その37年後の1963年には杉浦邦恵が20歳で渡米し、67年から今日までニューヨークを拠点に活動しています。1990年代以降は留学する人も増え、オノデラユキ(パリ)や米田知子(ロンドン)など海外を拠点にする写真家もいます。海外における評価も着実に高まっており、オノデラがフランスで最も権威ある写真賞「ニエプス賞」を(日本人初)、岡部桃がオランダの権威ある若手写真賞「ポール・ハフ・アワード」を(日本人初)、石内都が写真界のノーベル賞と言われる「ハッセルブラッド国際写真賞」を(アジア女性初)受賞しています。
特別出品 出展作家
島隆
1823年、上野国山田郡上久方村(現:群馬県桐生市梅田町)の岡田家に生まれる。1841年頃、一橋家の祐筆(文書の作成や記録を担う役)となるため江戸に上り、通訳士として同家に出入りしていた絵師・島霞谷と出会う。1855年に結婚し浅草に居住、維新後は下谷に拠点を移し、諸国を遊歴しながら霞谷より写真術の手ほどきを受けた。霞谷を撮影した1864年の肖像写真には「写真師 島隆」の裏書があり、これが日本で初めて女性写真師を名乗った痕跡とされている。1870年に若くして霞谷が亡くなると、郷里桐生に戻り写真館を開業。1899年没。
キュレーター
日本展担当キュレーター 竹内万里子
竹内万里子
批評家/作家/キュレーター/京都芸術大学教授 1972年東京生まれ。写真を専門とする批評家として国内外の新聞雑誌、作品集、図録への寄稿、共著書多数。フルブライト奨学金を受け渡米。東京国立近代美術館、国立国際美術館に客員研究員として勤務。「パリフォト」日本特集、「ドバイフォトエキシビジョン」日本部門など、数多くの展覧会をキュレーション。企画・翻訳に『あれから-ルワンダ ジェノサイドから生まれて』、単著に『矛盾の海へ』、『沈黙とイメージ 写真をめぐるエッセイ』などがある。京都在住。
ポリーヌ・ヴェルマール
ブルックリン美術館写真キュレーター 1978年フランス生まれ。アンリ・カルティエ=ブレッソン財団(パリ)、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ニューヨーク国際写真センター(ICP)、マグナム・フォト(ニューヨーク)等に勤務。ソール・ライター財団理事。2017年、Bunkamuraザ・ミュージアムにて『ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター』展を共同キュレーション。2022年、フランス文化省(文化大臣)より芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受勲。写真集『I’m So Happy You Are Here』共同編集者。ニューヨーク在住。
レスリー・A・マーティン
Printed Matter エグゼクティブ・ディレクター アーティストブックの普及・理解・鑑賞を目的とする非営利団体「Printed Matter」エグゼクティブディレクター。これまでアパチャー財団のクリエイティブディレクターを務め、『The PhotoBook Review』を創刊、「パリフォト・アパーチャー財団フォトブック・アワード」を共同設立。川内倫子『Illuminance』、ホンマタカシ『Tokyo』など、150冊以上の写真集を編集してきた。2015年よりイェール大学客員批評家(2025年まで)。2020年、写真集出版の功績に対して英国王立写真協会賞を受賞。写真集『I’m So Happy You Are Here』共同編集者。ニューヨーク在住。
※テキストはすべて、 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」プレスリリースより
展覧会「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」情報
開催日時
2026年7月4日(土)~8月26日(水)10:00~19:00
会期中無休
※最終入場は18:30まで
入場料
一般 2,200円ほか
※2026年5月下旬一般発売予定
会場
ヒカリエホール
- 〒150-8510 東京都渋谷区渋谷 2-21-1 9F
- Google Map
行き方・アクセス
<電車>
JR線・京王井の頭線「渋谷駅」と2階連絡通路で直結
東京メトロ銀座線「渋谷駅」と1階で直結
東急東横線・田園都市線・東京メトロ半蔵門線・副都心線「渋谷駅」B5出口と直結