【龍崎翔子のクリップボード Vol.19】深夜のアメリカンダイナー

龍崎翔子<連載コラム>

龍崎翔子<連載コラム>第1・第3木曜日更新
23歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

【龍崎翔子のクリップボード Vol.19】深夜のアメリカンダイナー

深夜12時、私はポートランドの街角のダイナーにいた。

ROXYと名付けられたその店内は、ピンク色のネオン管の光で満たされ、イエスキリストの彫像や色あせたセレブ達のポスターが怪しげに照らされていた。そこにいたのは、奇抜な髪型をした小太りの30歳ほどの女性と、ティーンエイジャーのカップルだけ。

私はカチカチのパンケーキを激甘シェイクで流し込みながら、映画のワンシーンのような世界に浸り、全ての感覚器官でアメリカを感じていた。

日本のアメリカンダイナー風のレストランでは決して感じることのできない、本物の空気感。エッジの効いた空間に、そこにいる人の醸し出す物語や、食事の絶妙な美味しくなさ。それらの全てが、圧倒的なリアリティで私がアメリカにいることを実感させた。

アメリカンダイナーの起源は食堂車にあると言われている。古くなった食堂車の車体が、駅や線路沿いで格安のレストランとして営業し始めたのが由来らしい。だからなるほど、細長い店内にカウンターキッチン、窓際にボックス席というのも頷ける。

小さい頃に、家族でアメリカ横断旅行をしていたとき、ハイウェイ沿いのダイナーでステーキをよく食べていた記憶が朧げにある。人々の生活の一部であり、旅の中継地点でもあり、かつては食堂車として旅そのものでもあった。そんな、旅と日常のグラデーションを切り取っているのがアメリカンダイナーの魅力なんだろうと思う。

ホテルに泊まった後、レストランに行った後、私たちはいくつかの評価項目に基づいて星をつけてレビューすることを求められる。だけど、旅先の真に豊かな経験はそれでは測れないのかもしれない。パンケーキが固いことも、店員が無愛想なことも、全てが融合してその土地らしさとなって調和する瞬間のために、私は旅に出ている。

深夜のアメリカンダイナーは孤独じゃない。そこには生活の断片と、果てしない旅情と、静かな興奮がある。

【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー

Vol.18 ニューエイジの産後ケア
Vol.17 最果ての旅のオアシス

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。

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