最果ての旅のオアシス/龍崎翔子のクリップボード Vol.17
iPhoneを手にしてから、私はあっという間にインスタントな活字刺激に依存し、かつての文学少女の姿は見る影もなくなるほど本というものを読まなくなった。だから、小説を読んで心を揺さぶられたり、気怠い感情に身を任せたりすることもなくなった。
そうして、140字で切り取られる世界で、10秒後には忘れてしまう喜怒哀楽をめまぐるしく摂取して、振り返ると自分の中には記憶もおぼろげな断片となった言葉だけが崩れ去りそうに積み上がっていた。
人間関係に苦しんで死にそうになりながら渋谷に出かけ、マークシティの下りエスカレーターに乗りながらiPhoneを眺めていた時に「最果タヒ」さんの詩と出会った。ちょうどクリスマスの時期で、雪が降っていた。タイムラインに流れてきたその言葉たちは、他人から紡ぎ出されているものなのだけれど、未来の世界線を生きている私自身の言葉のようにも思えた。
悲痛で切れ味の鋭いナイフのような詩だったのに、荒れ野のようだった心がなんとなく晴れるような気がした。悲しい気分の時に明るい曲を聴いても癒されないのと同じで、きっと自分のムードとリンクした表現に触れた時に渇いた心に沁み渡っていくのだろうなと感じた。
最果さんは、谷川俊太郎ぶりの売れる詩人と評されているのを目にしたことがある。本を読まなくなった現代、140字と写真4枚で心の琴線に触れることができる“詩”という形で表現したからこそ、それは必然なのかもしれない。
京都・東九条のロードサイドにひっそりと佇む『最果ての旅のオアシス』HOTEL SHE, KYOTOと、スマホの画面に収まる情報量の言葉で乾いた心を潤す、デジタル砂漠のオアシスのような最果さんの詩が出会い、溶け合うコンセプトルーム企画『詩のホテル』をこの冬に行うことになった。
詩のレコードを始め、壁や天井、額縁に枕、冷蔵庫の中に至るまで、客室の随所に詩の断片がひっそりと佇んでいる。不意打ちの言葉との出会いが、きっと人生を豊かにする。
- photographer: yukinobuhara(二枚目の画像)
- photographer: momosuke_art(三枚目の画像)
【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー
龍崎翔子
2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。