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猫のいる旅館/龍崎翔子のクリップボード Vol.16

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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猫のいる旅館/龍崎翔子のクリップボード Vol.16

ペットを飼うことが長年の悲願だった。金魚とかではなく、毛が生えていて抱っこできるタイプのペットを。


私の家族は海外に出かけることが多かったり、賃貸暮らしだったり、戸建に引っ越したと思ったら仕事が忙しくなったりとなかなかペットを飼う環境を整えるのが難しかった。なので、夢は夢のままで、Twitterで流れてくる可愛い動物の動画を眺めていつか迎える日が来ることを願うばかりだった。


小学生の頃、住んでいた団地の裏庭で野良猫の子猫が生まれた。一個上の階に住んでいた年下の女の子が親に見放された子猫を見つけて、私に教えてくれた。弱っていたので近所の動物病院に押しかけて先生に体調を見てもらい、ダンボールに子猫を入れた。その団地はペット禁止だったので、子猫は第一発見者の子が自宅のベランダにかくまうことを申し出た。かつて3階の住人がこっそり猫を飼っていたのが管理人にバレて強制退去になったという話を思い出して、この件は極秘事項にするようにと周知した。


小学生の秘密とは空しいもので、ダンボールの子猫はあっという間に近所の小学生の周知の事実となった。翌日、学校に行くと年下の男の子が私に「あの猫、『保健室』に連れて行かれたんだって!」と教えてくれた。幼いながらに、保健所がどういうところで、その子猫がどういう運命を辿ったか想像できた。自分が招いたことなのに、その日のうちに保健所に連れて行った女の子の母親に憤ったりした。

その出来事はペットをめぐる思い出の中で、私の心に引っかかり続けていた。

私の会社が運営する湯河原の温泉旅館に野良猫が住み着いたという。スタッフやお客様に「チルちゃん」と呼ばれて可愛がられているらしい。この旅館では文豪気分で作業ができる『原稿執筆パック』というプランをしていて、文豪といえば旅館の客室に猫がいたらいいね、という話をしていた矢先だったのでなんともいえない縁を感じた。


チルちゃんには野良猫としての自由を謳歌して欲しいので、餌をやったりといった手出しは今の所しないつもりなんだけど、保健所から行き場のない猫を引き取って旅館で飼いたいと思っている。それも、ただの看板猫にしてしまうのではなくて、この旅館で猫と一緒に一晩を過ごすことで、自宅に猫のお迎えを考えているゲストと、マッチングできるようなサービスをしたい。

猫のマッチングを兼ねている猫カフェも世の中には多くあって素晴らしいと思うのだけれど、やはり限られた時間の中で相性を見極めて連れて帰る決断を下すのはそれなりに難しいと思う。宿という、一晩を共に過ごす空間だからこそ生まれる出会いがあるのではないかと思っている。


まだまだ構想中のアイディアなのだけれど、今年中にはこの旅館に1匹目をお迎えしたいと思っている。

  • photographer: yukinobuhara model: sakigoto (一枚目の写真)
  • photographer: yukinobuhara(二枚目の写真)
  • photographer:Ali Toda model: ryoshimizu(三枚目の写真)

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龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。

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