【龍崎翔子のクリップボード Vol.14】ドープな映画館

龍崎翔子<連載コラム>

龍崎翔子<連載コラム>第1・第3木曜日更新
23歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

【龍崎翔子のクリップボード Vol.14】ドープな映画館

大阪の十三に、「第七藝術劇場」と名付けられたシネマがある。これは映画産業の黎明期に唱えられた、「映画とは7番目の芸術である」という言葉に由来するものらしい。時間芸術である音楽・詩・舞踊と、空間芸術である建築・彫刻・絵が融合した総合芸術が映画である、というのだ。

私はかねがねホテルは総合芸術だと思っていたので、この言葉に感銘を受けて、ある冬の夜に第七藝術劇場へと足を運んだ。これが、今まで映画を観るときにはシネコンに行き話題の最新作を見るか、Netflixで旧作をdigることが多かった私とミニシアターの出会いだった。

単館系のミニシアターは商業主義的な映画上映ではなく、良質な芸術性の高い映画を上映することを目的にしている。薄暗い館内にはポスターやチラシが所狭しとひしめきあい、小さなスクリーンに真紅の座椅子が設えられ、新たな出会いを生み出す気の利いた作品のセレクトがなされる。

広告や宣伝に乗せられてポップコーン片手に満員の映画館に行くのも楽しいし、ベッドで毛布にくるまってピザをつまみながら薄暗い部屋で映画を観るのもいいけれど、ふらりと劇場に立ち寄りビール片手に知らない役者の出る異国の映画を観るのもまた味わい深い、人生の旨味がじんわり広がる映画体験だということを初めて知った。

ホテルが映画のように総合芸術であり、私たちのホテルがミニシアターのように街と人の匂いを濃縮した空間であることにどことなくシンパシーを感じて、いつの日か映画を軸にしたホテルを作りたいと常々思っていた。

佐賀にある唐津という街には、25年前から映画館がない。

娯楽のない街というのは退屈なもので、若者は街を離れ、残された老人は日々変わりばえのない日常の続く余生を送らないといけない。

そんな街で、公民館の一室を借りて映画上映を行っていた唐津シネマの会の尽力で、25年ぶりに映画館ができる。しかも、ホテル併設の。この魅力的なプロジェクトに心踊り、HOTEL KARAEの開業支援に携わることになった。

シネマで唐津を舞台にした映画「花筐」を観て、フィルムカメラ片手にロケ地となった白砂青松の美しい唐津を歩く。そんな総合芸術のような宿泊体験を作りたい。

Netflixもシネコンもいいけれど、この宿が味わい深いミニシアターの楽しみ方を知るきっかけになることを願っている。

【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー

Vol.13 旅と音楽

Vol.12 サスティナブルな生活

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。

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