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旅と音楽/龍崎翔子のクリップボード Vol.13

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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旅と音楽/龍崎翔子のクリップボード Vol.13

旅の必需品は?と質問されて、「まだ聴いていない新譜のアルバム」と答えたことがある。

旅そのものは一瞬で終わってしまうけど、旅の余韻に浸る時間が長ければそれだけお得になるんじゃないかと思っていて、旅に出るときは旅を楽しむ工夫以上に、旅から帰ってきた後に楽しむための工夫をするのが好きだ。

昔聴いていた音楽を再生すると、当時の湿った空気の匂いや肌に降り注ぐ光の温度、胸に抱いていた感情までもが蘇る感覚はきっと誰しもにあるだろう。

それが旅先の思い出なら尚更。今でもクリスマスソングの「Do you hear what I hear」を聴けば、街灯のない鬱蒼とした針葉樹の森の中を車で進んでいくような心細い気持ちになるし、tofubeatsの「水星」を聴けば、海風を浴びながら恋人と材木座海岸の波打ち際を歩いたときのことを思い出す。

旅先に新譜のアルバムを持っていくのは、記憶再生装置である音楽に、旅の感傷を保存して人為的に再現しようという試みなのである。

もちろん、全ての人がわざわざそんなことをするわけではないので、HOTEL SHE,では音楽と出会う機会をあえて作っている。全ての客室にセレクトされたレコードとレコードプレーヤーがあったり、ゲストの顔ぶれをみてBGMをチューニングしたり、ローカルシーンを取り入れた音楽イベントをしたり。

いずれも、旅から帰り日常に戻った後、ふとしたきっかけで再びその音楽に出会ったとき、旅の記憶が蘇るような仕掛けを作っている。

Eaglesの「Hotel California」という名曲がある。コリタスの香り立つ砂漠のハイウェイを走り抜ける主人公が、ロードサイドの小綺麗なホテルで束の間の休息を取る。しかし次第にそのホテルにいる人々の快楽主義的で自堕落な生活様式に嫌気がさし、立ち去ろうとするが離れようにも離れられない・・・という、架空のホテルを舞台にした叙事詩のような曲。

今年の3月にリニューアルしたHOTEL SHE, KYOTOは、この曲を下敷きにして「最果ての旅のオアシス」というコンセプトで再び幕を開けた。

京都駅の南側に広がる東九条というエリア。京都駅至近にも関わらず、地元からは地の果て、と評されることもある。人の流れに逆らって京都駅を南に向かい、人気の少ない烏丸通りを南に歩き続けると、ようやく妖艶なきらめきを放ちながらHOTEL SHE, KYOTOは現れる。

焼きたてのワッフルやアイスクリームの溶ける甘い匂いが立ち込め、深みのあるレコードの音色が響き渡る。

チェックアウトはいつでもできる。でも、あなたはきっとこの旅を忘れることはできない。

【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー

Vol.12 サスティナブルな生活

Vol.11 カジュアルな温泉

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、3月21日にリニューアルオープン。

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