プロフィール

川原和之
作業療法士/写真家 1983年生まれ、富山県出身。祖父母の写真を撮り始めたことをきっかけに独学で写真を学び、現在も家族をテーマに、ハッセルブラッドで写真作品を制作している。2022年には家族の10年の歳月を描いた個展『ここで種を蒔く』を開催。
愛用カメラ:Hasselblad 500C/M
愛用レンズ:Carl Zeiss Planar CF 80mm f2.8 T*
Q. 家族を撮るときに大切なことは?
A. 自分たちの歩幅で歩き続けること


「家族という身近な存在でも、いつまでも同じように写真を撮れるわけではありません。だからこそ、忘れたくないという思いで写真に残すのだと思います。家族といられる時間やその環境は変化するけれど、その時々の家族のペースに合わせながら撮り続ける、ということが大切なのだと思います。僕が撮り続けている祖母は現在認知症を患い、施設から月に一度だけ自宅に帰ってきます。数年前まで畑仕事で真っ黒だった祖母の手は、今では白く小さくなり、歩行の足取りも不安定です。そんな祖母が帰ってきたときは、家族それぞれが祖母との過去のエピソードを話し、祖母の頭の記憶のドアを代わる代わるノックします。脳の中で記憶の神経回路がつながり、ドアを開けて応じてくれることもありますが、そのほとんどはドアを閉ざしたまま。でも娘たちが祖母の耳元でささやくと、不思議と幼女のような笑顔を見せてくれます。小石を投げると水面に波紋が広がるように。隣でカメラを構えている僕は、その光景を写真に撮ります。1時間の外出はあっという間に終わり、祖母は施設に戻っていきます。これが今の僕の祖母を撮ることができる時間です。昔よりも限られた時間になっても、たとえどんなにゆっくりの歩みになろうと、時には立ち止まろうと、その歩みを止めないこと。変わらない眼差しを持ち続けること。その先にはこれからもきっと様々な光景があるけれど、穏やかな光に包まれていると信じています」。
「家族写真は誰のものか?」と自問自答し、勝手に物語を作らない




「祖母の人生を撮りたいと思ったことが、写真にのめり込んでいく原動力になっています。ただ、写真は祖母のわずかな一面を写したもの。祖母の人生を写真で表現したいと思えば思うほど、被写体となる祖母の物語を自分勝手に作ってしまう危険性もあります。 “家族写真は誰のものか?”と自問自答しながら、写真を物語化せず、感傷で包み込まずに撮ることを意識しています。一方で、家族を撮ることは、他者を撮るときに比べ、写真の中により自分の視点が写り込みやすいものです。喜びや悲しみなどの感情が行き交うのが家族だからこそ、そこに家族写真の楽しみと面白さがあると思っています」。
GENIC vol.73【Portrait Q&A】Q. 家族を撮るときに大切なことは?
Edit:Satomi Maeda
GENIC vol.73

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