【私が創り出すときめきの世界 #1】土谷みおさんの映画に捧げる唯一無二の菓子アート

GENIC編集部

「好き」という気持ちは、頑張る原動力になる。
「好き」がどんどん膨れ上がると、自分だけの特別が欲しくなる。
「自分だけの特別」を創り上げ、世に放つことで「好き」を伝道させているアーティストたちをクローズアップ。
#1では、映画をきっかけとする物語性のある菓子を中心に制作するcineca を発足した、土谷みおさんの一途な思い、そして溢れ出る情熱に迫ります。

土谷みお

菓子作家 東京都出身。グラフィックデザイナーとしてデザイン事務所に勤務後、製菓学校を経て、2012年に映画をきっかけとする物語性のある菓子を中心に制作するcinecaを発足。
日常や風景の観察による気づきを、菓子の世界に落とし込む作風が特徴。

「物語を革命する菓子」

「ホワイト・ベルベットケーキ」: 映画『ファーゴ』
Photo / Nahoko Suzuki
「どんな人(土地)にも必ず血が通っていることを、レッド・ベルベットケーキで表現。白いクリームを一刺しすれば、赤いスポンジケーキが顔を出す」。

“映画の個人的解釈や余韻など 溢れ出る映画愛をお菓子で表現”

味はおいしいのに、パッケージがもったいない。グラフィックデザイナーだった土谷さんは10年前にそんなお菓子が多いことに違和感を覚えて、「もっと可愛いお菓子を作りたい」と、突然、製菓学校に入学。そこでフランス菓子の基礎を学んだ土谷さんは、自分だけの特別なコンセプトや意味のあるお菓子が必要だと考えたそう。
「レンタルビデオ屋や映画館でバイト経験もあり、1日に4本観るのが当たり前という時期もあったほど、もともと無類の映画好き。映画を観たあと、その物語について自己解釈することを大切にしています。そんな個人的解釈と映画の余韻を表現したのが、私が発信しているcineca(チネカ)のお菓子です」。

「ファースト・ラブ・ゼリー」:映画『君の名前で僕を呼んで』
Photo / Nahoko Suzuki
「"はじめてを飾る"をテーマに作った、さくらんぼのゼリー。はじめての体験はどれだけ恥ずかしいものだったとしても、窓辺に飾っておきたいくらい大切で誇れるもの」。

土谷さんのラフ。「寄り添い、また離れる主人公の男2人を表すために、さくらんぼ2粒を少し離れて見えるようゼリーに閉じ込めるのが大変でした」。

お菓子作りはもちろん、レシピ開発から執筆業まで幅広く活動しているcinecaのSNSでは、さまざまなフォトグラファーとの共同作品が目を引く。「雑誌やWEB媒体での仕事や、cinecaの新作の作品撮りなどで共同アートワーク撮影を行います。私が作ったイメージラフを膨らませて撮影していきますが、最終イメージはラフと答え合わせすることはせず、その場で偶発的に生まれる奇跡のようなバランスを探しながら撮ります。こういったアートワークとしての表現を、もっと広げたいですね。たとえば異なるメディアの方と一緒に何か作品を作る機会を増やし、ひとりの世界を飛び出して新しい自分の可能性を探したいと思っています」。

「裸のケーキ」:映画『私が、生きる肌』
Photo / Nahoko Suzuki
「人は肌の色や美しさなどの見た目にとらわれがちだけど、切り開いてみれば中身は同じ。ケーキがまとう糖衣と、人の皮膚を重ねています。絵画のように見えるよう撮影しました」。

Q . cinecaの最初のお菓子は?

ネコ気分なクッキー
「cinecaを立ち上げた2012年2月の猫の日に開催されたイベント用に作った、“kalikaliネコ気分なクッキー”というキャットフードに見立てた小粒のクッキーが処女作。映画『メルルシィ!人生』に出てくる子猫の将来を考えたことがきっかけです」。

Q . インスピレーションのソースは?

日常の観察や気づき
「映画からの着想がメインですが、生活や風景の中での気づきや小さな変化を見つけることが得意で、そこからアイデアにつながることも多いです。その延長でホームセンターをぶらぶら歩くと、ひらめいたりします。美術館やアート系の本からも、刺激を受けます」。

「月の満ち欠けアイスクリーム」: 映画『ボンジュール、アン』
Photo / Nahoko Suzuki
「心の形が丸だとしたら、ときに欠けたり満ちたりを繰り返すさまは、月の満ち欠けのよう。心の光と影をうまくすくいながら人生を歩み進める主人公、アンの生きざまに重ねて」。

「ホンモノのバースデーケーキ」:映画『空気人形』
Photo / Haruka Shinzawa
「中身は空気だけの、からっぽの人形が主人公の映画。"ホンモノ"とはなんだろうという大きな問いかけを感じて作った、粘土や接着剤でできたニセモノのバースデーケーキ」。

Q . どんな風にお菓子の構想を練りますか?

まず、伝えたい映画を選ぶ
「お菓子が生まれる経緯としては、映画から考えることが多いです。最初に10本程度の映画をピックアップ。そこから季節や世情、自分の今の気分で2、3本に絞り、さらにお菓子やアートワークのアイデアが思いつくものに決定します。映画と絡まない場合は、作りたいお菓子から物語を膨らませることもあります」。

「ハートのシュー」:映画『マダム・イン・ニューヨーク』
Photo / Nahoko Suzuki
「心をシューに見立て、自分で自分のしぼんだ心を膨らませてあげるイメージで作りました。そんな装置があったらいいのに、という願いを込めて」。

「ホット・ブラッド・サンデー」:映画『キック・アス』
Photo / Yuko Saito
「ヒーローに血はあまり似合わないけれど、この映画ではボコボコに殴られる出血シーンの多さが新しかった。そんな当たり前にグロテスクな"等身大のヒーローの味"を表現」。

Q . 映画への偏愛ぶりを教えてください

映画ノートを作っています
「自分の記録のために、映画ノートに好きなシーンを描いたり台詞を書き留めたりしています。アイスクリーム、手紙、出産、インテリア、母の死、など170ほどの項目を作り、映画名を書き込んでいます。空白を埋めたくなる体質なので、ノートを始めてからは余白を埋めたい欲求もあるのか、映画を観る頻度は確実に増えています」。

「温もりのパイ」:映画『ア・ゴースト・ストーリー』
Photo / Nahoko Suzuki
「宇宙でたった一人の寂しさを感じるとき、虚しさのあまり無心で食べ物を貪ることがある。オマージュを込めて作った、味も匂いもなく、ただ温度だけを有するパイ」。

Q . お菓子好きはいつから?

物心ついたときから、ずっと好き
「ゴハンを食べるのはすごく遅くて、学校の昼食の時間もしょっちゅうビリでしたが、お菓子だけはゴハンの3倍くらいの速さで食べる技を持っています。小さい頃から学習机の一番上の段の引き出しはお菓子入れで、人生でお菓子を食べなかった日というのは思いつく限りありません」。

「マシュマロ・ケバブ」:映画『恋する人魚たち』
Photo / Nahoko Suzuki
「マシュマロ、チョコレート、パート・ド・フリュイなどのコンフィズリー。それぞれに個性を持つお菓子をひとつに束ねると、さらに輝きを増す。映画に描かれる個性の強い女3人家族の関係性に重ねて」。

Q . 自分にとって、お菓子作りとは?

自分と世界をつなぐ窓
「私の目で見る小さな気づきを、言葉よりも雄弁にお菓子で語りたいと思っています。映画もお菓子も、私にとっては呼吸と同じ。ないと生きていけないくらい好きなものです」。

土谷みお Instagram
土谷みお Twitter

Information

『PERK magazine』で"cinecaのおいしい映画"、松竹のメディア『PINTSCOPE』で"cinecaのアイスクリーム・ノート THE MOVIE"など、コラムを連載。
餃子に関する活動「トゥギョウザー」も、Instagram:@togyotherで発信中。

PERK magazine
cinecaのアイスクリーム・ノート THE MOVIE
トゥギョウザー

GENIC VOL.56 【私が創り出す、ときめきの世界】
Edit:Satoko Takeda

GENIC VOL.56

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