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【あの人の表現に近づく!ポートレート撮影Q&A #2】武井宏員

誰しもが撮ったことがあるであろう「人」の写真。身近で愛すべき被写体でありながら、“動く”という意味ではなかなかにやっかいな被写体でもあります。そこで、今回は普段から人を撮り続けている人気フォトグラファーの皆さんに質問!
構図やシャッタースピード、人を撮るのに最適なレンズなど、人を魅力的に撮るための方法や表現手法をたっぷり伺いました。
#2は、武井宏員さんの「シャッタースピードで変わる写真表現」をお届けします。

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武井宏員

写真家・事業家 大阪生まれアメリカ育ち、東京在住。NYCでスタジオを立ち上げ、ファッションフォトグラファーとして活動開始。2018年に写真の学びサイト、広告代理、委託撮影を主とする総合クリエイティブサービス会社CURBONを立ち上げる。日本ではポートレートとファッションを中心に数多くのインフルエンサーや女優を撮影。写真集『...and after』が発売中。
愛用カメラ:Leica Q2、Canon EOS R5/EOS R6、CONTAX G2、Canon Autoboy N130II、OLYMPUS PEN FT

シャッタースピードで変わる写真表現

「“希望”を表現した写真を撮りたくて、躍動感や笑顔に溢れた雰囲気をつくるために動いてもらいました。ちょうどきれいな日差しが車内に入り込んでいたので、そこに座ってもらい、“思いっきり楽しくこっちを向いて! ”とお願いした結果の写真です。シャッタースピードは1/15秒、F5.6です」。

“ブレさせた写真”は「曖昧な記憶」を物語る

プロの写真家として数多くのポートレートを撮っている武井さん。
「ここ最近かなりブレ写真を見かける気がしますが、1年くらい前から加速化している印象です。撮る理由はさまざまだと思うのですが、個人的には“記憶”を軸にした写真を撮るときにブレさせることが多いです。記憶はとても曖昧なものなので、ブレている写真が表現方法として最適だと思っています。また、僕はシャッターのタイミングは2回あると思っていて、1回目は写真を撮るときに押すシャッター、2回目は自分の表現したいものに出会うために写真をセレクトし、トリミングするとき。このときにはじめて“写真を撮った”が完了すると思っています」。

“非現実”の要素を意識してシャッターを切る

「OLYMPUS PEN EE-2のフィルムカメラで撮影。手首を少し上下に振ってブラしています。屋根に覆われた暗い場所に光が差し、とても輝いていました。赤のシャツの滲み具合や、見えるようで見えない人の表情。自分がどこかへ行って帰ってきたような気がする写真で、現像から戻ってきたときに一瞬で恋に落ちました」。

武井宏員さんへ質問

Q1.「ブレ」ている写真を撮る方法を具体的に教えてください。

「基本はシャッタースピードを遅くすること。カメラに手ブレ防止機能が搭載されているかによって、またはレンズの焦点距離とカメラの重さによってシャッタースピードを調整する必要があります。一般的に使うのは1/8から1/60くらいですね。被写体に動いてもらうかどうかは、表現したいことによって変わりますが、静止してもらっている場合は、こちらがシャッターを切りながら手首と腕を1~2cmくらい素早く動かすイメージで撮影します。極力ブレが最小になるよう意識しましょう」。

「今回発表した自身の写真集のメイン画像です。“記憶”をテーマにした写真集なので、曖昧やノスタルジーをイメージした作品です。人が2つの世界の狭間に踏み込んだイメージを上手く表していると思ったので、SSを1/15にし、この瞬間にシャッターを切りました」。

Q2.「人を撮る」ときのシャッタースピードの重要性とは?

「シャッタースピードはかなり重要だと思う一方、シチュエーションは無数にあるので、最適な設定値などはないと思っています。日常写真、スナップ写真、ファッション撮影、情緒的な表現、雰囲気溢れるフィルム風の写真、宣材写真など、その内容に応じて、毎回カメラの設定を変えて最適なシャッタースピードに合わせるテクニックを身に着けていく必要があります」。

「知り合いのカップルを撮影しました。太陽が沈み、薄暗い部屋の中のふたりがとても輝いて見えたので、あえて部屋を出て、外のベランダから、ふたりだけの世界をそっと覗き込むかのようにシャッターを切りました。はっきりと写してしまうとふたりの世界に入り込んでしまう気がしたので、ブラして撮りました。シャッタースピードは1/15秒、F1.7です」。

Q3.「ブラさず」に撮るテクニックやコツなどを教えてください。

1.カメラ+レンズの重さによってシャッタースピードを調整すること
「重ければ重いほど、シャッタースピードを速くします(1/125以上)。手ブレ防止がついているカメラやレンズの場合は、1/60や
1/30までSSを遅くしてもシャープな写真を撮ることができるので、手ブレ防止付きの機材はおすすめです」。

2.しっかりとカメラを固定すること
「カメラを体と腕で固定することは、昔から使われてきた手段でもっとも基本的なことです。室内など、あまり明るくない状況では、シャッタースピードを下げないと理想のF値で撮影できないときがあるので、三脚を使うことも。広告撮影など圧倒的な質を求められる場合は、いかなる状況でも三脚を使ってブレを防止します」。

「この写真は手持ちで撮っています。しっかり腕を固定して一度深呼吸をしてゆっくりシャッターを押すと、三脚を使わなくてもシャープな写真を撮ることができます。モデルさんを引き立てるのが一番の目的だったので、右から入ってくる日差しが目に当たるように移動して、瞳にフォーカスして撮りました。SSは1/320秒、F3.5です」。

Q4.ポートレート撮影におすすめのレンズは?

「僕は、35mmと50mmでポートレートを撮影することがほとんどです。50mmは、レンズの歪みも最小限で、被写体をそのまま魅力的に撮ることに優れています。35mmは多少歪みが出てくるのですが、それが逆に魅力をより引き出してくれることもあり、寄りにも引きにもいける、とても使いやすいレンズだと思います。背景をぼかしてドラマチックなポートレートを撮る際は50mmか85mmの単焦点がおすすめです」。

“2回目のシャッター”が新しい作品を生み出すこともある

「“非現実”をテーマにiPhoneで撮りました。“終わりのない海と砂浜の世界”を感じさせたかったので放射線構図を意識しました。僕は、どこなのか分からないファンタジーの要素が含まれつつ、現実でも存在する世界を撮るのが好きです。完全に作り込む世界ではないけれど、自分の日常にはない世界。この狭間をよく表現します。この要素をより強くするために、iPhoneのレンズにワセリンを塗って撮影しました」。

「フィルムを感光させて偶然が重なって生まれた写真です。ときどきこの世ではない世界に繋がったような気がする写真が撮れるんです。そういった写真は、何かを意識して撮るのではなく、撮った後に生まれることが多いです」。

武井宏員(@take1official) Instagram
武井宏員(@takei.photo) Instagram
武井宏員 Twitter

GENIC VOL.59 【あの人の表現に近づく! ポートレート撮影Q&A】
Edit: izumi hashimoto

GENIC VOL.59

特集は「だから、人を撮る」。
最も身近にして最も難しい、変化する被写体「人」。撮り手と被写体の化学反応が、思ってもないシーンを生み出し、二度と撮れないそのときだけの一枚になる。かけがえのない一瞬を切り取るからこそ、“人"を撮った写真には、たくさんの想いが詰まっています。泣けて、笑えて、共感できる、たくさんの物語に出会ってください。普段、人を撮らない人も必ず人を撮りたくなる、人を撮る魅力に気づく、そんな特集を32ページ増でお届けします。

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